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「Happiness!」
このまま行くぜ

このまま行くぜ 7

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アルバム発売、初めてのツアー。
俺たちは、レンさんとエイチに引っ張られるように、あっという間に「売れてるバンド」の位置に来た。


二年目には、三枚目のシングル発売、夏フェス出演。
ここで気を抜いてちゃ、簡単に足元が崩れ落ちる。

四人で、毎日のように「努力と周りへの感謝を忘れない」って、お互いに言い合ってる。


ところが、だ。

予想はできたはずなのに、うっかり忘れてたことがあった。



「これで、しばらくはステージとテレビは控えさせてもらうことになる。
 安定期に入ったから、レコーディングは大丈夫だけどね」


ラストの夏フェスが終わっての反省会で、カオルが宣言した。


「つわりもなかったし、カオルが夏フェスは演りたいって言い張ったんだ。
 内緒にしてて、ゴメン」


あー、だから、あんなにロウと篠原さんが、カオルの体調に気を遣ってたんだ。
俺もカンも、夏バテかなとか、間抜けなこと言って、想像もしてなかった。

やっぱり、俺たちって「子どもを持つ」って概念が抜け落ちてるんだよなぁ。


「お腹も目立ってくるし、いくらキーボードでも人前で演奏するのは、ちょっとね」

「って、何、無茶してんだよ?ロウも止めろよ!
 流産なんかされたら、俺、一生、引きずるぞ!!
 二人目の時は、妊娠わかったら、すぐにステージはナシな!」


カンが、すっごく怒っててさ。
俺だって、もしステージでカオルが倒れてたらって、考えただけで、ゾッとした。


「ゴメンね。もう少し後にするか、悩んだんだ。
 でも、最低でも二人は欲しいし、ギリギリまで仕事はしたいし、で。
 ロウと相談して、年明けに出産できればって、計画したの。
 それで、四月には完全復帰しようと思ってる」

「マジ、無茶だけは止めてくれよな」


カンが、まだブツブツ言ってる。
どうして、こんなに怒ってるのか、理由を思い出した。


カンには、本当なら妹がいたはずだった。

俺たちがジュニアの二年生の時、スーが妊娠して、すっごく喜んでた。
みんなひとりっ子だったから、俺も他の三人も、羨ましくてさ。
カンの兄弟なら、自分にも妹か弟みたいなものだって、みんなで喜んでた。

だけど、子どもは育たなかった。
お腹の中で、息をしなくなった。

あの冷静で感情を出さないスーが、本当に落ち込んで泣いてて。
子どもだったから、慰める言葉もわからなくて、みんなで一緒に泣いてた。

そのことが原因で、スーは妊娠できない体になったらしい。
親たちは、詳しいことを言わなかったけど、なんとなく、みんな気がついた。


俺たちが泣いちゃったから、カンは、精一杯、強がってた。
しかたねぇだろって、俺たちに言い切って、人前では必死に泣かないようにしてた。

でも、一番楽しみにしてたのは、知ってた。
絶対に、楽器教えるんだって、張り切ってたよね。


あの時、スーに何もしてあげられなかったことを、とても悔しく思ってた。
俺でさえそうなんだから、カンは何倍も悔しくて哀しかったはず。



「俺も、カンに賛成。いくら、カオルが健康でもね。
 一生、後悔させるようなことは、もう止めてくれる?
 じゃないと、信頼関係も崩れちゃうよ」


俺とカンの態度は、とても意外だったらしくて、篠原さんとカオルは驚いてる。
でも、ロウは、思い出したのか、カンの頭を引き寄せて、「ゴメン」って謝った。

おめでたい話なんだから、あんまり暗くなるのも悪いけどさ。
本当に、冷やっとしたんだってば。


「それに、計画的に妊娠出産って、計画通りに行くかはわかんないじゃん。
 途中で、カオルが入院したり、出産後も何ヶ月も体調崩したりするかもしれない。
 何が起きても、すぐに対処できるように、俺たちにも話しておいて欲しかった」

俺の言葉は、厳しいかもしれない。
それでも、先のことを考えたら、ちゃんと話して欲しかったのは本音だ。



「俺たちがゲイだから、関心がないとでも思ってたのかよ?
 それとも、売り出し中だから、まだ早いって反対するとでも?」


あ、ヤバい。カンが、どんどんヒートアップしてきた。
スーのこと思い出して、感情的になっちゃったかな。

出さないだけで、カンも実はマザコンだし......。



「そんなことは、考えたこともないよ。ただ、私が不安だったの。
 ギリギリまではいないと、居場所が失くなっちゃいそうで」

「それが、俺らを信用してないってことだろ?!」



どうしよう...カンを止めなきゃ。
さすがに、ロウは当事者だから、何か言っても、カンは聞かないだろうし。




「何、キレてんだよ?」


後ろから声がして、振り向くと、エイチとシュン、レンさんがいた。
今日は、来るって聞いてなかったのに、どうしたんだろう。


「カン、落ち着けっての。カオルの性格考えたら、わかるだろ?
 無理な時は無理って、ちゃんと言うって。
 バンドのスケジュールに合わせて、計画立ててるしよ。
 カレンたちには、ちゃんと相談してたんだから、そんなに怒るな。
 胎教に悪いだろ?」

「そう、うちの奥さんにも相談してたしね。
 働いてると、どうしても不安になるみたいよ。
 俺たち男には、わからないことなんだから、そこら辺は広い心で、ね?」


エイチとレンさんに諭されて、やっと、カンが落ち着いてきた。
 

「スーのこと思い出してたんだろうけどな。
 あれは、しかたなかったんだよ。
 いくら気をつけてても、ダメなもんはダメなこともある。
 それに、篠原やロウが気を遣ってたはずだろが。
 気づかなかったのは、お前が鈍いってこった」


シュンに追い打ちかけられて、カンは凹みだした。

そして、俺も、反省。

思い返せば、重い物を持たせないようにとか、ギリギリまで空調の効いた部屋で待機とか。
夏なのに、長袖を重ね着してたりとかさ。

ただの夏バテじゃないのは、考えたらわかったはずなんだよ。



「言い過ぎた。ゴメン」


カンが、しばらくして、やっと口を開いた。
すっごくしょぼんとしてて、慰めたくてしかたない。
でも、ここで何か言っても、逆効果なのは、長年のつきあいでわかってる。


カオルが、ホッとした顔になってる。
篠原さんも、大きく息を吐いた。

カンがこんなに感情的になってるの、見たことがなかったもんね。




「さて、俺ととーちゃんが来たのは、カオルのいない間の計画立案のため。
 順調だった場合と、長引いた場合。何通りも考える必要があるからな。
 カンが冷静になったんなら、話し合い、始めるぞ」



エイチが、切り出して、レンさんが頷いて。


俺は、カンの頭をぐりぐり撫でた。
嫌がると思ったけど、小声で「サンキュ」って。

それだけ落ち込んでるんだと思うと、心が痛くなったけど。
俺も同じだから、帰ったら、二人で反省しような。 











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~ Comment ~

NoTitle

どこで慰めあうのかな・・っと。
カイ、肌を密着させてしたらムフフな方に行っちゃいそうだから、気をつけてね♥

そしてカオル。 おめでとう!!v-308v-300
キラキラネームはしないと思うけど、どんな名前にするのか楽しみにしてるわ!
名づけ親は誰になるのかな――。

Re: NoTitle

キラキラネーム...マタニティハイになっても、周りが止めると思います^^;
ただ、義母がハーフでカレンなんで、どーかなー?(笑)

カンは好奇心でいっぱいですが、カイは不安でいっぱい...。
いつものことですが、少しは成長してきてると思いたいです(爆)
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