「Happiness!」
一発逆転?!

一発逆転?! 10

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「失礼のないようにするんだよ」


そう言って、コウセイが出ていった。

あ、「レンタロウ」とか「レン」なんて、呼んじゃいけないよね。
そういうとこも、俺とカンは気をつけなきゃ。


レンさんは、ホワイトボードを見て、ニコニコ頷いてる。


「英一が言ってたけど、自分たちでも考えたんだね。
 偉い、偉い」


その言い方が、死んだばーちゃんみたい。
この人にとって、俺たちは、「孫」って感覚なんだろう。

いくら見た目が若くても、何十年もプロとして活動してきた人なんだ。




「英一の世代くらいからかなぁ。日本語のロックを普通に聴いてたのは。
 もちろん、洋楽ばかり聴いてる人もいるけど、日本でプロになりたいんだよね?」


言いながら振り返って、俺たちを見た時に、レンさんの顔が変わってた。
ニコニコしてるのはニコニコしてるんだけど、目が笑ってない。

それは、みんなが感じたみたいで、自然と背筋が伸びた。


「基本的に、日本と欧米では、客が求める「ポップミュージック」は、違うんだ。
 それは、気づいてる?」

「え?それ、どーゆー意味?!」


あ、カンに注意するのが遅かったかな。

焦ったけど、レンさんは気にしてなさそう。




「ヒントは、カ・ラ・オ・ケ」


一字ずつ区切ってハッキリと。
さっきまでとは、発声も違ってる。


「カラオケボックスって、アジアにしかないんですよね?
 確か、ヨーロッパじゃ、パブなんかのステージで歌うって聞いたことがあります」

「うん、そう。自信のある人が、人前で歌うものなんだよね。
 日本や、他のアジアの国みたいに、誰でも気軽に歌うって感覚はないんだよ」


え、そうなの?

カンも知らなかったみたいで、驚いてる。




欧米の人にとって、プロの音楽は聴くもので、自分たちで歌うものじゃないんだ。
ライブで合唱が起きることもあるけど、それは代表曲だけがほとんど。
日本のアイドルやKPOPのステージみたいに、全曲を客が歌うって、まずありえない。
君たちは、スキルがあるし、英語が話せるから、気にしてなかったと思うけど。


カラオケってバカにできないんだよ、日本では。
歌ってみたいと思わせるのも、売れる手段のひとつ。
実際の使用料だけじゃなく、覚えたいから、その曲だけでもDLで買ったりするでしょ?
シングルCDには、カラオケバージョンが収録されてたりもする。

それにね、日本って、音楽市場が充分に大きいから、国内の需要だけで食べてける。
その分、英語にこだわらなくて済んでるんだよね。
だから、日本語で印象的なフレーズを作るのも、大事なんだ。

KPOPの子たちを見ててもわかるよ。
他のアジアの国では、ほとんど韓国語のまま歌うのに、日本では日本盤を出すのも、日本人がいいお客さんだから。
今は、ブームは下火になってきて、一部のファンだけが残ってるって感じだけど。




レンさんの話を聞いて、ただひたすら感心してた。

プロになりたいと思ってはいたけど、日本の音楽市場のことまで考えたことなんかなかったし。



「まぁ、デビュー前に、そこまで考えてる人間なんか、ほとんどいないけどね。
 俺自身、なかなか売れなくて、どうしたらいいのか、試行錯誤の連続だったしさ。
 歌ってみたいと思わせなくても、売れる曲は売れるもんね。
 ただ、ひとつ言えるのは、どちらにしても「売れ続けるために、オリジナリティは必須」だってこと」


レンさんの目から、厳しさが消えた。


「英一に言われて話し合ってるみたいだし、心配はいらないね。
 もっと、いろんな音を聴いて、自分たちの音を探すんだよ。
 近所のおじさんとして、相談に乗るよ。気軽に言っておいで」

「ありがとうございます。でも、そんなにご面倒かけてもいいんでしょうか」


俺と同じことを、ロウも思ったんだ。
いくら、エイチが気に入ったって言ってくれたからって、こんな大物に「気軽に相談」ってさ。

でも、社交辞令は言わなさそうだしな、レンさん。

とかって、悩んでたら、次の言葉に胸が詰まった。



「ただのおじさんのセンチメンタリズムだけど。
 優児たちは、俺の相棒のお気に入りだったんだ。
 その子どもたちが頑張ってるのを、応援したいんだよね」



この人にとって、ルイがどれだけ大きな存在だったのか。
その言葉だけで、充分過ぎるほどわかる。

ルイの代わりはいないって、解散したんだっけ。


この人が歩いてきた人生は、想像することしかできない。
それでも、高いハードルをいくつも越えてきたのくらいは、俺でも理解した。



「それにさ、優児たちの子だから、孫みたいなものだなぁって、嬉しくなったんだ」

「こんなに若いおじーちゃん、いないって!
 ユージのが年上に見えるぜ?」


やっぱりなと思ってる俺の横で、カンが、また失礼な発言してる。
レンさんが気にしなくても、コウセイが後で胃が痛くなりそう。

あ、レンさんは爆笑してる。


「若いって言われても、もう還暦は越えちゃってるんだよ。
 耳と頭が動くうちは、音楽に関わり続けるつもりだけどね」




気軽に遊びにおいで、そう言って、レンさんは帰っていった。
俺たちに、強烈な印象を残して。





「最初、ステージとは別人だと思ったけど。
 音楽の話になったら、顔つきが変わってたね」

「うん、嬉しくて舞い上がってたのが、恥ずかしかった」


リビングでお茶にしようと移動した。

ロウとカオルが話してる横で、カンはノートPCを弄ってる。


俺は、言われたことを思い出して、どんな音を作りたいかって、自分に問いかけてた。
そして、SMSだけは、昔から聴いてたのはなぜかも。



「レンって、すっげぇなぁ」


PCの画面をスクロールしながら、カンが感心してる。

横から覗き込むと、Wikipediaでレンのキャリアを調べたみたい。
確かに、ズラーッと並んでるのは、日本の芸能界に疎い俺でも知ってる、ミュージャンやアイドルばかり。

自分たちのバンドも三十年演って、当時の年間観客動員数で一位を何度も取ってる。



「逆を言えば、こんなにすごい人の息子って、プレッシャーに勝ったわけだ。
 エイチも、ほんとにすごいよね」


俺が言うと、カンは頷いて、ロウが苦笑い。


「今日の話聞いてて、俺、甘かったなぁって、つくづく思ったよ。
 父さんたちの名前は、イヤでもついて回るんだよね」

「ん?いつかは追いついて、追い抜くつもりだけど、俺」


そう、それは、俺の素直な気持ち。


「おう!そのくらいの意志を持ってなきゃ、やってけねぇって。
 七光でもなんでも、利用してやるくらいの根性でやってこうぜ!」


カンの発言に、苦笑いしてたロウが吹き出して。

みんなの意識が、一気に明るく前を向いたのを感じた。











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