「Happiness!」
おっかなびっくり

おっかなびっくり 11

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「握力は戻ってるし、レントゲンでも異常なし。
 どうやら、原因はストレスだったのかもしれないなぁ」


親父に報告した翌日、西浦先生に診てもらいに行ったら、先生は首をひねりながら、そう言った。

親父は、ニヤッと笑って、頭をポンポンと軽く叩いただけだったけど、たぶん喜んでる...かな?
キャシーが、「照れくさいのよ」って、言ってたしね。


医療が進歩しても、病気全部の原因や治療法がはっきりしてるわけじゃない。
俺は一ヶ所だったけど、「突発性麻痺症候群」とかって、体中に麻痺が起きる病気もあるらしい。
その原因も一部しかわかってなくて、治療できなくて苦しんでる人たちがいる。

以前、先生から聞いてたこと。
そして、キャシーやロウが通う施設には、そんな患者さんがいたりもする。


俺は、本当にラッキーだった。
心の底から、そう思う。




「まぁ、治ったからって無理は厳禁だよ。
 優さんも一度で懲りてたから、君も大丈夫だとは思うけどね」

「はい。俺、弾けなくなったことで、健康の大事さがよくわかりました。
 治ったから言えるのかもしれませんけど」


西浦先生は、豪快に笑って、肩をバンバンと叩いてきた。
そして、予防のための注意事項をいくつか教えてくれた。

同じ方向にばかり動かすのはダメだとか、全体の筋力を上げることで負荷が下がるとか。
食事もそう。ビタミンやミネラルは、なるべくサプリメントより食べ物で摂取する方がいいらしい。



「まぁ、要は、規則正しい生活と食事、運動だね。
 これは、どんな病気にも言えることだけど。
 優さんも、どうしても不規則になるからって、かなり気をつけてるだろ?」


キャシーが弁当を差し入れするのも、なるべく家で食事を取るのも、親父のワガママだけじゃなかった。
外食でバランスが崩れるのを避けるためだったんだ。

ツアーへも、キャシーとスーは、同行するようになった。
俺たちが十八歳になったから心配はしない。
親父たちが、年齢を重ねて、体力的疲れが激しくなってるから、精神面でサポートする。
体のメンテナンスだけじゃなく、心のメンテナンスも必要だ。
そう、キャシーたちは考えてる。



少しでも異常を感じたら、すぐに診察に行くことを約束して、俺の通院生活は終了。


だからって、浮かれてばかりはいられない。

あの、急に痺れて動かせなくなった恐怖は、未だに夢に見ては飛び起きる。

目が覚めてから、何度も左手を握ったり開いたり、右手で触って、治ったことを確かめるんだ。





イクヤがロウにお礼を言いたいって、カンと三人でロウん家に行った。

カレンもサムも、イクヤとは何度か会って、すっかりお気に入り。

驚いたことに、あの親父でさえ、イクヤには笑顔を見せる。
幼馴染の息子ってことも大きいんだろうけどさ。


『純弥にーちゃんには似てねぇな。お袋さん似か?』


なーんて、話しかけたりしてるんだ。

それでも、やっぱり、イクヤが真っ直ぐで裏表のない、いいヤツだからじゃないかな。
怖がりもせず、キラキラとした目で、礼儀正しく挨拶されたら、嫌な気分はしないよね。



ああ、ギターを弾けるようになったことは、あの夜にメッセした。
すぐに、スタンプや顔文字で、目一杯喜んでる返事をくれたよ。

夜遅かったからか、翌日の昼に電話してきて、メッセ以上のテンションで喜んでくれた。


『ほんとによかったね!』


何度も繰り返してる合間に、俺は「ありがとう」って、何度も繰り返した。

そして、手が痺れたことも、心の底から、いい経験だと思えた。
ロウにも言われてたけど、イクヤが喜んでくれるの聞いてたら、またそう思えたんだ。

腹を割って何でも相談できる、親絡みでもない唯一の友達。
イクヤとは、手のことがなかったら、知り合えてなかったんだよなって。




「無事、後輩になることができました。
 本当にお世話になりました。
 図々しいですけど、今後もよろしくお願いします」


ぴょこんとお辞儀をするイクヤに、ロウがニコニコしてる。

俺と違って、イクヤはコースもロウと同じだから、直下の後輩になる。


「うん、普通校からは大変だろうけど、頑張ってね。
 今の頑張りを見てる分には、大丈夫だと思う」

「蓮丘さんは、どこの大学院を志望されてるんですか?」

「あ、俺、院には行かないよ」


さらっとロウが返事して、一瞬の間が空いた。
俺とカンは、何も聞いてなかったから、ポカンとしちゃってさ。

次の瞬間、声を揃えて叫んだ。



「「えーーーーーーっ!!!」」



ロウが志望してた国連職員は、修士の学位が必須のはず。
最初の受験で挫折はしたけど、進路変更したって話は聞いてない。


次は、イクヤがポカンとする番だった。
俺とカンが叫んじゃったからなんだけどさ。




「俺ね、カイとカンとのバンド、続行したいんだ。
 できれば、三人でプロになりたい」

「マジかよっ!!」


カンが、もっと大きな声で叫んだ。

俺は、意外過ぎて、呆然としたまんま。


「うん、カイが戻ってこれたしね。
 いろいろ考えてみたけど、自分が一番やりたいことって、やっぱ音楽だと思うからさ」

「......俺の手が治らなかったら、どうするつもりだったの?」


気を取り直して、質問してみた。
だって、俺、ずっと思い込んでたからさ。

ロウは、音楽は趣味で済ますんだって。



「んー、カンがソロで演るんなら、スタジオやサポートに就こうと思ってた。
 カイが曲作ってプロデュースだろうしさ」


ニッコリ笑って、どうしてそう考えるようになったかの経緯を、ロウが説明してくれた。




俺、カイと同じように、自分が中途半端だってコンプレックス持ってた話はしたよね。
カンみたいに、マイウェイにもなれなかったし、純国産のハルが羨ましかったしさ。

みんなの兄貴分やリーダーやってるうちに、パブリックな仕事をすればいいと思った。
それも、日本国内じゃ公務員にはまずなれないから、国連職員を目指した。
すごく努力したけど、最初の大学受験で失敗した挙句、みんなに心配かけちゃったよね。

立ち直って、カオルと出会って、今の大学に進学した。

そこまでは、みんなが知ってるとおり。


カオルと、いろんな場所にボランティアに行くようになった。
そこで、いろんな人たちに出会った。

ボランティアでさ、お年寄りや子どもたちの伴奏で、ギターやキーボード弾くこと多くてさ。

楽しそうに歌うんだ、みんな。

音楽の力って、凄いんだって、その経験を通して、実感した。


それに、振り返ってみて、俺が立ち直れたのって、音楽のおかげだったなって、思い出したんだ。

引きこもって、毎日、ライブ動画やDVDなんか見てたのは、その時間だけは現実を忘れられたから。
そのうち、自分の体の中から湧き上がるような感覚を、ドラム叩くことで表現するようになった。

ドラムってさ、きっちりリズムを取らなきゃなんないだろ。
でも、そればかりでもない。

ゴウがレッスンしてくれて、もっと自由でいいんだって、どんどん楽しくなっていった。
みんなと遊ぶツールでしかなかったのが、自分を表現できる大事な手段になったんだ。


それに、国連の内情も見えてきたしね。

確かに、現場にいる人たちは、熱心に真剣にやってるんだと思う。
でも、本部の実態は、常任理事国にいいようにされてるだけ。

イクヤには悪いけど、俺のやりたいことは、あそこではできないって思うようになったんだ。

だったら、何をしよう、そう考えた時、音楽以外は考えられなかった。
そこら辺は、やっぱり父さんたちの影響がでかいかな。

カイとカン、両方の相談に乗ってるうちに、二人は音楽の道へ突き進むだろうと思ってた。
特に、カイは、手のことがあっても、最後は音楽を取ると思ってたよ。

ギターが弾けなくなっても、曲を作ることはできる。
好きなギターを弾けなくても、音楽からは離れられないだろうなって。

カンと上手くいったから、それは確実になったと判断したんだ。




「......だから、二人さえ良ければ、また前みたいにバンドを演りたい。
 もちろん、大学はきちんと通うよ。
 カイにも、卒業はしてもらいたいと考えてる。
 その分、カンみたいにフルには動けないけど、それはカンもガマンできるよね?」


ロウが話し終わって、カンを見る。

俺もロウからカンへ視線を移した。


カンが、声も出さずに泣いてる。
イクヤがいるのも構わずに、泣いてる。


「......やっべぇ。マジ、嬉しい」


カンが絞り出すような声で、やっとそれだけ言った。











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