「Happiness!」
おっかなびっくり

おっかなびっくり 10

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ロウん家に戻って、スタジオでギターをセッティング。
チューニングしてると、ロウもカンもニヤニヤしながら見てる。


「やっぱ、そのストラトだけは、手入れしてんたんじゃん」


カンがからかうように言うと、ロウも続く。


「それ、すごく貴重だしね。一般仕様でも、プレミアついてるの知ってた?」




親父が尊敬しまくってる、日本人ミュージシャンがフェンダーと共同開発したモデル。
それも、これは、プロ仕様の限定生産。

親父がくれた時、すっごく驚いたな。
子どもみたいに喜んでたから、絶対に触らせてもらえないと思ったんだ。


『お前の分も頼み込んだんだ。大事にしろよ』


いつもの仏頂面で渡してきて、俺、夢かと思ったもん。
それまでは、親父やコウセイのお下がりだった。
だから、初めて真っさらの使うって、嬉しくてしかたなかった。


『使い込まれたヴィンテージもいいもんだけどな。
 新品を自分好みに育てんのも、醍醐味なんだよ』


親父がそう言っててさ。
使いだして、すっごく実感したんだ。

新品だと、癖がないかわりに、人に馴染んでない分、最初のうちは音が堅い。
このギターは、特にプロ仕様だし、こだわってるから、細かく手入れしないと、すぐに音がずれていく。

普通より、ネックが長くて少し太い。
その分、出せる音の幅が広いんだよね。




「フレットの数が多いし、俺だと弾きこなせねぇんだよな。
 やっぱ、カイじゃねぇとさ」

「本家が弾いてるの聴いたけど、ユージが尊敬するだけあるよね。
 あの年まで第一線でライブ演ってて、すごいよ」




大昔、それこそ親父が子どもの頃。

JPOPなんて言い方もなくて、日本では、演歌やアイドルの歌う「歌謡曲」がメインストリームだった。
ロックはごく一部の人間のもので、そのミュージシャンも最初はアイドルとして売り出された。

中学生でスタジオミュージシャン演ってた人だよ?
アマでバリバリにバンド演ってて、それでもメジャーにはなれなかった。
ギターだけでなく、歌も巧い。さらに、当時の日本人にしては、背が高くて甘いマスク。

そこに目をつけた芸能事務所があった。

歌謡曲のヒットメーカーが作った曲で、デビューして大ヒット。
イヤイヤながら、俳優さんの仕事までやらされて、それでもライブができるってガマンした。

ただ、その一番大事にしてたライブで、今じゃ考えられないことが起こった。

客席の最前列に、マスコミが陣取って、ずっとカメラのフラッシュが途切れなかった。
ファンからクレームが起きても、頑として止めない記者たちにブチ切れて、中止して退場。

その事件が原因で、彼は芸能界から干された。

そのままステイツに渡って、向こうのミュージシャンたちと交流したり、曲を作ったり。
今で言うところの充電期間を置いて、さらに実力をつけて帰国。

アマの頃からの知り合いに声をかけて、スリーピースバンドを結成。
初ライブは、野外でフリー。
アイドル時代のファンより、アマ時代のファンが多く押し寄せたらしい。
その時のライブをレコード化して、再デビュー。

アイドル時代では、自作曲はアルバムにしか使ってもらえなかった。
そのストレスを存分に解消して、ガンガン自作曲を発表した。

ちょうど、欧米のギターメインバンドが売れだしたこともあって、彼のバンドはあっという間にギターキッズの憧れになった。

バンドが解散しても、ソロやユニットで、ずっと曲作りとライブは現役でやってる。
もうすぐデビュー四十年になる、日本ロック界のレジェンド中のレジェンド。
ステイツやイギリスにも、ミュージシャン仲間は多い。



そのギターキッズのうちのひとりが、石田優児、つまり、俺の親父ってわけ。


『売れ線狙いでもガマンできたのは、ルイさんの忠告とあの人の存在のおかげだよ』


照れくさそうにそっぽ向いて、そう話してくれたっけ。




「そう言えばさ。デビュー四十周年記念ライブに、父さんたちがゲストで出るんだよね」


ロウが何の気無しに話題にして、俺、すっごく驚いた。
カンも聞いてたらしくて、うんうんと頷いてる。


「それ、聞いてない!」

「お前がギター弾けなくなってたから、言いにくかったんじゃねぇの?」

「今からでも頼んでみたら?チケット取れるかもしれないよ」


慌てて、スマホでキャシーにメッセ。

親父のスケジュールは、キャシーに聞かなきゃわからない。
コウセイたちとは違うスケジュールで動くことがあるんだ。
曲作ってるのは、親父だけだし、事務所の代表もやってるからさ。


『今夜は、八時くらいに帰ってくるわよ。明日からは、しばらくプロモーションで地方だって』


キャシーの返事を読んで、二人に質問。


「今夜、親父に手のこと報告して、チケット頼んでみる。
 二人はどうする?」

「そりゃ、手に入るんなら行きたいよ。俺、どうせ申し込むつもりだったしね」


ロウが即答したのに、カンは考え込んでる。
どうしたんだろ、カンは、この人のヴォーカル好きだったよね?


「コウセイに頼んでみっか。もちろんユージのが仲いいから取りやすいだろうけどよ」


ああ、コウセイもゲストでキーボード弾いたことあったっけ。
うん、親父は、自分たちのライブならまだしも、ゲストだから、嫌がるかもしれない。


「親父がキレたら、頼んでもいいかな?
 機嫌悪くなるかもしれないし」


二人とも、親父の不機嫌顔を思い出したみたいで、小さく吹き出した。

俺からの話で、親父が、実はいろんなこと考えてるの、知ってる。
それでも親父の子供っぽさは、印象に強いんだろうな。



しばらくジャムってみて、オリジナルを何曲か演ってみた。
新しいのは、カンがギターを弾くって前提だったから、ちょい物足りない感じ。


話題になったから、そのミュージシャンの代表曲を演ろうってことになった。

ちょっとフュージョン入った、英詞の曲で、ファーストアルバムに入ってる。
これ作ったのが、十代でアマチュアだったって、凄すぎる。
それも、七十年代だよ?!


ああ、左手がちゃんと動く。

この曲って左手の移動が大きいし激しいから、子どもの時はなかなか弾けなかったんだよね。
完コピできたのは、中三の時。

親父に質問したら、呆れた顔されたな。


『あの曲はムスタングで作曲されてっからな。
 ガキや女じゃ、普通のスケールで弾くのは、まず無理だ』


体がでかくなって、指も長くなった時、やっと弾けるようになって、すっごく嬉しかったの覚えてる。

こんな凝ったギター弾きながら歌うって、すごいよなぁと思いながら弾いてた。
でも、リズムがリズムだから、ベース弾きながら歌うのも、かなり難しいはずだよね。

カンは、ノリノリで歌ってる。
本家には申し訳ないけど、カンが歌う方がカッコよく聴こえる。
ベースもオリジナルより、かなり派手に入れててさ。
器用だなーって、感心するよ。

ベースでヴォーカルって、ドラムでヴォーカルといい勝負に難しいし。



「完璧じゃん!」


ロウがクラッシュを手で止めた後、カンが叫んだ。
この曲がちゃんと弾けてるってことは、前の水準に戻ったってこと。


「なんだかんだ言って、動かないなりに、ギターは触ってたんだろ?
 じゃないと、こんなにすぐには戻らないはず」


ロウが、ニコニコして近づいてくる。
カンは、ベースをスタンドに置いて、抱きついてきた。


「うん、無理はしないようにしてたけどね。
 可能性はゼロじゃないって、自分に言い聞かせながら、毎日弾いてた」


恥ずかしかったけど、それは事実だしね。
そう思ってないと、動けなくなってたからさ。




「おかえり。音楽の世界へ、よく戻ってきたね」


ロウの言葉に、俺、感動しちゃって。


情けないけど、また泣いちゃった。











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