「Happiness!」
おっかなびっくり

おっかなびっくり 9

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年が明けたら、あっという間に卒業が迫ってきた。
プロムでパートナーを申し込まれたりして、ちょっと困った。

その時、思いついたのが、パーティの音楽を担当すること。
今時、プロムだからって、ペアじゃなきゃ踊れないダンスなんかやらないしさ。

それに、パートナーとしては呼べなくても、一緒にDJやるならカンも呼べるじゃん!


我ながら、いいこと考えついたと思う。
カンもクラスメイトだったんだしね。


そう提案したら、実行委員もすごく喜んでくれてさ。
楽器できるヤツらに声かけて、生バンドもありってことになった。




スクラッチやスイッチングには、何の支障もない。
シンセの鍵盤だって、気をつけながらなら、弾けるようになってたしね。

ロウにも声かけて、ドラムは確保。卒業生だから、学校側も文句なし。
カンは、ベースとヴォーカル、俺と掛け合いでラップ。

久々のヒップホップ。
ハマってた時期があるから、三人で練習してるうちに、すぐに思い出してきた。




ロウの家で練習してる時、休憩で、ふっとアコギを手にとってみた。

ほんとに、自然と手が伸びたんだ。

俺たちが来る直前に弾いてたらしくて、チューニングは狂ってなかった。


何を弾こうかって考えることもなく、脊髄反射で「天国への階段」。
大昔の曲だけど、イントロのギターが印象的で弾いてみたくなるんだよね。
ギターショップで試し弾きする時も、つい指が動くんだ。


俺が弾き続けてると、ロウがキーボードかぶせてきて、カンが歌い出した。
ケルトの民族楽器みたいなキーボード、若い頃のパーシーに負けてない、カンの歌。

楽しくなっちゃって、夢中で最後まで弾いてから、あれ?って。



「お前、完璧に指が動いてんじゃん!」

「うん、完コピできてたよ」


カンもロウもそう言うってことは、俺の勘違いじゃないよね......。




しばらく、左手を握ったり開いたり、小指と薬指だけ別々に動かしてみたり。

アコギだけじゃなく、エレキやベースも弾いてみたり。



気のせいじゃない!!

痺れが、ほとんど消えてる!!


右手で触ったら、微妙に残ってる部分もあるけど、動かすのには、全く問題なくなってる。



はっきり確認してから、固まってたら、カンが抱きついてきた。

ロウの前なのに、泣きながら、ギューっと。


ロウは、ニコニコして、嬉しそうに頭撫でてくれた。



俺、まだ信じられない気分でさ。

あんなにショックで、受け入れるまで、すっごく悩んだのに。
こんなに、あっけなく治っちゃってるって、ありなの?

いや、嬉しいんだよ、当然。

だけど、なんか、釈然としないっていうか......。





「俺と同じなんじゃないかな」


少し落ち着いてきて、ロウの部屋へ移動した。
三人で、コーラ飲んでたら、ロウが諭すように、話し始めた。


「あのまま、スムーズに音大に行ってたら、別のとこで挫折してたんじゃない?
 カンとは、すれ違ったままだったかもしれないしね」


ああ、そうかもなぁ。
ロウが言ってるからかもしれないけど、妙に説得力があってさ。


「俺だって、最初の受験で失敗しなかったら、堅苦しいだけの視野の狭いヤツになってたと思う。
 今の俺の方が、まだマシだったって、客観的に思えるようになった。
 カイも、一旦、道を逸れたことで、いろんなこと考えるチャンスができただろ?」

「うん、ロウの言うとおりだと思う。
 仮定の話をしてもしかたないのかもしれないけど。
 あのまま音大に行ってたら、理論ばっかの頭でっかちになってたかもしれないし。
 クラッシックの世界に馴染めなくて、もっと追い詰められてたかも」


進路で悩みまくった時、音大って世界をコウセイが詳しく教えてくれた。
コウセイは、作曲科だったけど、バンドやってることで、陰でかなり言われたらしい。
コウセイのお兄さん二人が、世界的に有名なヴァイオリニストだったりするから、余計に。



『俺は俺だと思ってたし、優児と一緒に演ってくって決めてた。
 高校の時から、親には相談してたし、家族全員が応援してくれてた。
 それでも、気分のいいものじゃかったから、カイは大丈夫かなって心配してたんだ』


言われた時は、行けなくなったことを慰めてるだけだって、素直に受け取れなかったけどさ。
今なら、コウセイが心配してた意味がよくわかる。




芸術だとは思ってもらえない、ポピュラーミュージックの世界。
音大出身のミュージシャンもいるけど、圧倒的に少ない。

ミュージシャンの感性と技術と努力、要求されるものは同じようで、全く違ってくる。

俺が、インターから音大へ進んでたら、イクヤとは出会わなかった。
日本人の普通がよくわからないまま、特殊な世界で、また違うコンプレックスを抱えることになっただろう。


クラッシックの世界に進むつもりは、最初から全然なかった。
作曲の基礎や理論を勉強したいだけだった。
コンピュータミュージックのコースに進んだとしても、世間一般の普通を知らなければ、受け入れられる音は作れない。



つい、考え込んじゃってたら、カイが肩を揺すってきた。


「自分のギター持ってこいよ。セッション演ろうぜ!」


ああ、そっか。
もうできるんだ。

そんな当たり前のこと、言われなきゃわかんなくなってるって。

俺、どれだけ混乱してたんだろう。



「ゴメン、すぐ取ってくるから、待ってもらえる?」

「「当然!!」」


カンとロウが声を揃えて、返事してくれて、やっと実感した。

恥ずかしいけど、そこで泣きそうになっちゃって、俺、必死で誤魔化した。



「行ってくるね!すぐ戻る」


俺、涙声だったけど、二人は何も言わなかった。

ロウはいつも通りにニコニコしてて。
カンは、顎を軽く上げて、急かしてて。



嬉しくて嬉しくて嬉しくて、家まで猛ダッシュ。

息を切らして部屋になだれ込んで、宝物のストラトをケースにしまう。



「どうしたの、一体?」


俺、キャシーがいたことにさえ、気がつかなかった!
ギターを背負ったら、キャシーが目を丸くしてる。


「指が動くようになったんだ!!」


キャシーは、見開いた目から、ポロポロ涙を零して、俺にハグ。


俺以上に心配してくれて、俺以上に喜んでくれてる。
ほんとにほんとに、ありがとう、キャシー。




「親父には、まだ言わないでね。
 自分で報告したいんだ」

「わかってるわ。あ!」


体を離して、真剣な顔。
え、俺、今日、約束かなんかしたっけ?


「治ったからって、無理しちゃダメよ!
 明日、西浦先生のとこへ行きましょう」

「うん、そうだよね。またいきなり麻痺したら、困るし。
 先生にも、ちゃんと診てもらわないとさ」


キャシーは、満足気に頷いて、頬にキスしてくれた。
15cm以上、身長差があるから、俺が軽くしゃがむんだ。



「一度失くしたから、大事だってわかってるのよね。
 本当に、大人になったわ」


キャシーが、目を細めてる。
俺、少し照れくさいのと、早くギター弾きたいのもあって、頷いただけで飛び出した。











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~ Comment ~

おめでとう!![絵文字:v-300]

よかったー!
ほんとにホントにおめでとう!!

きっと、弾く喜びも意味も今までとは違ってるだろうね。
それにカンと一緒に出来ることへの思いも。

きっとライブするよね? プロムに紛れ込んで聞いてみたいなあ。 

Re: おめでとう!!

当たり前だと思ってたモノが、当たり前じゃなくなることの恐怖。
カイとカンは、この二年近くで充分に味わったはずです。

プラス、二人とも世界が広がったわけで。
音を作る楽しさと演奏する楽しさに、伝える大切さが加わったんじゃないかなーと(笑)
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