「Happiness!」
水に流して

水に流して 5

 ←水に流して 4 →水に流して 6

「そんなこと聞いてくるってのは、音楽に未練タラタラなんだろ?
 ギターじゃなくてもいい、そう思えるんだったら、いくらでも道はあるんだぜ」


男らしくないって叱られると思ったのに。
親父は、リビングに来るように顎で示して、先に歩いていく。

向かい合って座ったら、キャシーがお茶を淹れてくれた。


「お前は、俺とは別の人間だってのは、百も承知だ。
 ただな、やっぱ、親子だなと思う程度には、似てる」


そう前置きして、いろんな話をしてくれた。
普段の親父とは別人みたいにさ。



ギターに夢中になりすぎて、腱鞘炎になったこと。
一時はギターはもう無理かもしれないと思ったこと。
それでも、諦めきれなくて、必死で治療したこと。
その間も、曲だけは作り続けてたこと。

コウセイが、ずっと励まし続けてくれたこと。
サムとゴウもプロになるって決めてくれて、最高のバンドが組めたと思ったこと。

スカウトされて有頂天になったけど、トーイをヴォーカルにしろってねじこまれたこと。
早くプロになって、じーちゃんとばーちゃんを安心させたかったこと。



「もし、ギターが弾けないままでも、音楽の仕事はしただろう。
 それ以外は、考えもしなかったからな。
 世間に何言われてもいい。金には困ってねぇんだ。
 お前はお前の好きなようにやれ」


前にも、そう言ってくれたよね。
叱り飛ばされると思ってたのに、優しいから拍子抜けしたっけ。

今なら聞けるかもしれない。
一緒にすんなって、キレそうだけど、怒鳴られるのを覚悟して、思い切って聞いてみた。



「......もし、キャシーがタトゥーしてたら、好きになった?」

「タラレバの話はしてもしょうがねぇけどな。まぁ、好きになってたろ。
 コーラスとして紹介されて、目が合った瞬間、惚れてたからな。
 好みのタイプでもなかったし、理屈じゃねぇなって、今でも思うよ」



親父の返事を聞いて、キャシーが話してくれた二人の出会いを思い出した。



『コーラスでもいい、音楽の仕事が入って、舞い上がってた。
 よく知らない日本のバンドだけど、それでも充分に嬉しかったわ。
 そして、スタジオに行って、ユージと目が合った時、運命だと思った。
 ハイスクールの女友達がそんな話してても、鼻で笑ってたのにね』



俺とカンは、生まれた時から一緒にいて、距離が近すぎた。
そばにいるのが当たり前で、好きになったのも、ただの刷り込みかもしれない。
親父たちとは、出会いも生き方も違うから、単純には比べられない。



それでも


カンが必死で足掻いてる。
傷ついて、でも、俺のことが好きだって、ロウの前で泣いてる。

それが、どれだけ俺の心をいっぱいにしたか。


『カイ自身もわかってると思うけど、答えは出てるようなものだよね』


イクヤの言葉を思い出した。




「親父、ありがと。俺も、足掻いてみる。
 大学は行くけど、ギリギリまでは、頑張ってみるよ」



親父は、もう何も言わずに、ただ頷いた。
先に立ち上がって、バスルームへ消えてく。



「俺、まだまだガキだってことなんだよね。
 親父の一部しか見えてなかったんだ」

「ユージは、照れ屋だからね。最初の頃は、散々、ケンカしたわ。
 言わなきゃわからないって。日本人の男の、悪い癖ね」


キャシーが、すごく嬉しそうに、俺の手を取った。


「イクヤと話して、ユージの話を聞く勇気が出たのね。
 またじっくり考えるのよ。焦らなくていいの。
 時間は、たくさんあるんだから」

「うん、心配かけてゴメン。いつも、ありがとう」





部屋へ戻って、またイクヤがマークしてくれたサイトを読んでみた。


元のサイトから、気になる言葉が出てきたら、それを調べてみる。
そんなことを繰り返してると、あっという間に時間が経った。


まだ、結論は出せないけど。

自分がどれだけ甘かったか、それだけは、思い知った。


俺自身、見た目が日本人じゃないってコンプレックスだった。
ゲイだってことも、隠さなきゃなんないし、手の麻痺だって残ってる。

だけど、親は充分なくらい、愛と理解をくれてる。
経済的に困ることもない。
ロウが言ってたような大きな障害はないし、いくらでも選択肢は残ってる。

タトゥーだって、それが当たり前の文化もある。
その人たちを見て、気持ち悪いと思うかって言われれば、そうは感じないはずなんだよな。



ゲイだからって、迫害されたり。

何の理由もなく、親に虐待されたり。

少し人と違ってるだけで、ひどいイジメにあったり。



ロウが、国際公務員、それもUNICEFの職員になりたいと思ったのは、飢餓や病気で苦しんでる子どもたちのことを知った時。
俺は、自分のことで精一杯だから、ロウがどれだけ大人なんだろうって、感心してた。

でも、ネットで見ただけでも、いろんな問題が溢れてることはわかる。
俺が、自分には関係ないって、目や耳をふさいでただけ。





気がつけば、朝日が部屋に入り込んでた。

今から寝ると、絶対に遅刻しちゃうから、もうこのまま予備校へ行ってしまおう。

ちょっとボーッとしてる頭に、浮かんできたのは、カンの顔。


「......会いたいな」


無意識に口にして、俺、苦笑い。

まだ、タトゥーを見ても平気ではいられない。
それでも、ずっと会ってなくて淋しいと思うのは、やっぱり、好きなんだと思う。

もしかしたら、カンは、もう慰めてくれるヤツを見つけたかもしれない。

今はいなくても、俺が平気な顔で会えるまでに、見つけてしまうかもしれない。


もし、俺たちがお互いに運命だったとしたら、その相手から奪い返そうと思うんだろう。
カンだって、黙っておとなしくしてるとは考えられない。


今は、それぞれ、別々に、自分のことに向き合う時間なんだ。

カンが、プロになろうって頑張ってるんだから、俺もできることはやんなきゃね。

タトゥーのことは、ちょっとだけ棚上げしておこう。
時間が経てば、もっと冷静になれるかもしれないし。

親父が言ってたように、そんなこと関係なく好きなのが、運命の相手なんだろうしさ。



予備校へ行く準備をして、部屋を出たら、味噌汁の匂いがした。
朝に弱い親父は、こんな時間には起きてこない。

キャシーが、俺のために用意してくれた朝御飯を見て、お腹が鳴った。


「いただきます」


今まで、普通のことだと思ってたけど、しみじみとありがたいと思う。

あんまり食べると、授業中に寝ちゃいそうだけど、つい、おかわり。


「ごちそうさま。行ってくるね!」


食器を片付けて、キャシーに手を振ると、「いってらっしゃい」の声と笑顔。

ちょっと早いけど、昨日、復習できなかった分、教室でやろう。
途中で絶対に眠くなるから、コンビニでミンティア買っていかなきゃね。

授業は、午前中だけだから、帰りにイクヤたちとハンバーガー食べに行くのもいいな。


昨日まで、グズグズしてたくせに、そんなこと考えてる自分がいて、なんか、笑っちゃった。











にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ 3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ 3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ  3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ  3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【水に流して 4】へ
  • 【水に流して 6】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【水に流して 4】へ
  • 【水に流して 6】へ