「Happiness!」
水に流して

水に流して 4

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二人で泣いちゃって、落ち着いてきたら、恥ずかしくなっちゃって。
とりあえず、交代で顔を洗って、仕切り直しすることにした。


先に部屋に戻ってたイクヤが、タオルを顔に当てたまま、何か考え込んでる。

声をかけようか迷ってたら、俺に気がついて、穏やかに微笑んだ。




「あのさ、一度、きちんと整理してみようよ」

「んー、俺の感情とか抜きにしてってこと?」

「それが一番大事なのに、抜いちゃダメじゃん!」


イクヤがカバンの中から、ルーズリーフ用紙とボールペンを取り出した。
すごい勢いで何か書いてるなと思ったら、俺に渡してくる。


「頭の中だけで考えてるから、ごちゃごちゃになってることもあると思うんだ。
 紙に書いてみたら、もっと冷静になれるかもでしょ?」


渡された用紙には、いくつかの質問が書いてある。


 1 今、誰の顔が一番に思い浮かぶ?

 2 指が治ったら、どうしたい?

 3 指が治らなかったら、本当に音楽は諦められる?

 4 生理的嫌悪感は、乗り越えられると思う?

 5 カン君が、今、どんな気持ちで行動してると思う?

 6 どうして、普通にこだわるの?



「じっくり考えて書いてみて。その間、俺にパソコン貸してね」



頷いて、質問の答えを考え始めた。


1は...やっぱり、カンだよなぁ。
じゃなかったら、こんなに落ち込んだり悩んだりしてないしさ。

2は、当然、ギター弾きまくって、曲作りまくりだよな、うん。

と、ここまでは、スラスラ書けたけど、3で詰まった。


キャシーとカンには宣言した。
それは、自分に言い聞かせるためでもあった。

ただ、キャシーは「ギリギリまで諦めない」ことは、喜んでくれた。
でも、諦めることについては、特に意見は言わなかった。

そして、カンは「曲だけでも作れないか」って、食い下がった。
あの時は、ギター弾けないのにって、ムッとしたけどさ。
ロウにも言ってたみたいに、カンが俺の曲を歌いたいって思ってくれてるのは、素直に嬉しい。

あのよく通る声で、あの表現力で、俺の曲が何倍にもカッコよく思える。
親父の曲を歌うのは、コウセイしかいないのと、同じ。


トーイの時は、かなりガマンしてたんだと思う。
露骨に売れ線狙いで、親父らしくないって、ガキの俺でも思ってたし。


俺が進路で迷ったりしてるからか、ここ最近、ポツポツと喋ってくれる。

売れるために事務所の要求を飲んだんだから、トーイに合う曲を作るよう努力したこととか。

俺様でガキな親父だけど、プロで食ってくってことの厳しさは、プロデューサーに教えられたんだって。



『力つけるまでは我慢しろって、プロデューサーに言われたんだよな。
 ガッツリ力つけて、自信ができたら、独立すりゃいいんだってよ』


そのプロデューサーは、事務所の先輩で、超売れてたバンドのカリスマギタリスト。
自分たちも売れるまでは、試行錯誤してたから、親父たちの気持ちをわかってくれた。

トーイが抜けて解散した時には、もうその人は亡くなってて。
自分たちの音を聴いてもらえなかったのが、すごく残念だったって、悔しがってたな。


そんなこと考えて思い出した。

SMSのエイチって、そのバンドのリーダーの息子だったっけ。
先に独立してたから、親父たちの相談に乗ったりしてくれたらしいじゃん。


すっごいプレッシャーだったろうな。


.........そっか、俺もその立場じゃん。

同じ業界なんだから、どうしたって、比較はされる。
やりたい音が違うから、あまり考えてなかったけど、そのプレッシャーに勝てるのかな。

カンにコウセイが釘刺したのも、そこら辺、心配してるんだろうな。

カンは、俺は俺、と思ってる。
でも、世間ってものは、そうは思ってくれない。

リンみたいに、親のことは公表しなくても、きちんと売れるようにしなきゃなんない。




「詰まったら、飛ばして。先に他の書いちゃえば?」


俺が考え込んで止まっちゃったから、イクヤが声をかけてきた。
時計を見れば、三十分は過ぎてる。

こんなに時間が経ってたんだ。


イクヤが、書いてるのを覗き込んでくる。


「1と2は即答してたよね。ってことは、後は優先順位の問題かな。
 カイ自身もわかってると思うけど、答えは出てるようなものだよね。
 3から6は、春休みの間にゆっくり考えよう。
 ネットで参考になりそうなサイトをブックマークしといたよ。
 時間がある時に、ゆっくり見て考えて」

「ありがと。遅くなっちゃって、ゴメンな」

「大丈夫、自転車ですぐだもん!」


エントランスまで送ろうとしたけど、ニッコリ笑って、イクヤが言った。


「大丈夫だってば!カイは、ブックマークしたサイトとか読んでみて。
 受験勉強も大事だけど、カイにとっては、もっと大事なことだと思うんだ。
 勉強は助けてあげられるけど、考えるのは、カイ自身にしかできないからね」



頭が痛くなるまで考えた。
けど、ひとりで悩んでるうちは、全然、前に進めなかった。

ロウに相談して、イクヤに話してみて、心の中が、少しずつ、落ち着いてきてるのを感じる。



ひとりになって、マークしてくれたサイトを眺めてみた。

タトゥーの歴史や意味、生理的嫌悪感について、メンタルトレーニングの方法......。

一生懸命、調べてれたんだな。
いろんなサイトをたくさんマークしてくれてて、読むだけでも、結構時間がかかりそう。

そう思ってたら、親父とキャシーが帰ってきた気配がした。




「おかえり」


出迎えると、親父の無精髭が失くなってて、髪も肩までに短くなってた。
びっくりして固まってたら、キャシーが笑って教えてくれた。


「おばあちゃんの十三回忌がもうすぐでしょ?
 独立した時の第一目標を達成したから、おじいちゃんとおばあちゃんに報告するの」

「そろそろ、髪の重さがヤバくなってきたかんな。
 コウセイに、いい加減切れって言われてたんだ」


恥ずかしいのを誤魔化したいのか、ほんとにコウセイに言われてたのかはわかんないけど。

この親父もカッコいいじゃんって、素直に思った。




「もし、親父の指が動かなくなったら、どうする?」


思いがけず、本当に思いがけず、ツルッと口から、言葉が飛び出た。
親父は、悩みもしないで即答した。


「ん?裏方に回るだけだな。曲は作るし、アレンジもプロデュースもやめねぇよ。
 俺の代わりのギタリスト探して、バンドは継続だ」

「それ、悔しくない?」

「悔しいに決まってんだろが。それでもな、俺には責任がある。
 ついてきてくれたあいつらや、ファンにに対する責任がな。
 俺だって、いつどうなるかわかんねぇんだ、先のことぐらい考えてんだよ」



子どもっぽくて俺様だなんて思ってて、ゴメン。

俺が子どもだったから、親父は大人の事情を話さなかっただけなんだね。
手の麻痺や進路のこと、俺が悩んでたから、少しずつ、話してくれるようになったんだ。



「レンさんは、ルイさんのギターじゃねぇと歌えねぇって解散した。
 他のメンバーも、同じ考えだったから、解散した。
 そーゆーのもありだとは思うが、うちは違う。
 コウセイとサムとゴウがいれば、俺の曲は表現できる。
 ちゃんと話し合って決めてっから、俺の心配より、自分のこと考えてろ」


手を伸ばしてきて、俺の頭をクシャッと撫でた。

親父の手は、俺よりちょっと小さいはずなのに、すっごくデカく感じた。











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