「Happiness!」
水に流して

水に流して 2

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翌朝、憂鬱なまんまでダイニングに行くと、キャシーが挨拶抜きで話しかけてきた。

表情が曇ってるから、いいことじゃなさそう。


「スーから連絡があったわ。カンが今日は休むって」

「.........」



俺に直接メッセすればいいのに、それもできないくらい落ち込んでるのかな。

顔を合わせずに済んでホッとしたけど、俺がそこまで傷つけたのかと思うと、どっと後悔が押し寄せてくる。

もう少し、言葉を選べばよかったのかもしれない。

いや、どんなに言い換えても、結局は突き放してたな。

足は重いけど、遅刻するわけにはいかないしな。



そして、そのまま、カンは登校しなくなった。


ロウみたいに引きこもったわけじゃない。
毎日、外へは出ていくらしい。

ベースかギターを持って、昼過ぎから出ていって、夜中に帰る。

キャシーが、そう言ってた。
スーは、「本人のやりたいようにやらせる」って言ってるらしい。




一月、二月と、全部休んだ。
留年になるのかと思ったら、休学届が出てるって、先生から聞いた。

毎日、胃が痛くて、でも、俺からは何も言えなくてさ。

自分の受験のこともあるし、相変わらず、手は痺れたまんま。
気を抜くと、カンのことを考えるから、ただ必死で勉強してた。


それでも、寝る前に、つい思い出す。

カンの泣き顔や弱々しい声が、頭の中でグルグルして、冷たい人でなしだって、責め立てるんだ。


どうすればよかったんだよ?

あんなもの見せつけられて、平然とできるほど、俺は大人じゃない。
俺のこと、ほんとに好きなの?

ギターやベースを持ってってるなら、どこかでライブ演ってるんだろう。
本気でプロになるつもりで、いろいろ動いてるんだと思う。

だけどさ、こんなに中途半端な時期?

......俺が突き放したから、しかたないのか。



自分でもガキだなって、すごく情けないんだけど。

キャシーにも相談できなくて、またロウに頼っちゃった。
すっごく複雑だったけどね。ロウが困るのはわかってたし。

ただ、俺たち二人のことをよく知ってて、ずっと見てきたロウ以外、相談相手は思いつかなかったんだ。
キャシーは、俺の味方せざるを得ないでしょ?

二人ともと同じくらいに距離が近い、信頼できる仲間。
そんなの、ロウしか思いつかない。




「カンからも話は聞いてるよ。もうインターは行かないつもりだって」

「カンは、どこまで話した?」


探るような聞き方、卑怯だよなぁ、俺。


「今は、俺の知り合いから誘われて、バンド演ってる。
 インディーズだけどデビューして、そこそこ人気だよ。
 ライブ行ってみたけど、あれならプロで通用するかもね。
 ダイブやるような激しいとこじゃないから、心配しなくていいんじゃない?」


穏やかに笑ってるけど、ロウも心配してたんだろうな。
わざわざライブまで行ったくらいなんだし。

そのロウが心配しなくていいって言ってくれて、俺、ほんの少しだけ肩が軽くなった。

少なくとも、全身にタトゥー入れた、ピアスだらけのハードコアなバンドじゃない。
そんなとこだと、カンがケガでもするんじゃないかって、怖かったんだよ。


「襟ぐりが狭いシャツ着てるし、タトゥーは見せないようにしてる。
 カイが、タトゥーに拒絶反応するとは、思いもしなかったんだって。
 後悔しても、もう入れちゃったから、とにかくプロになるって、頑張ってる」

「............」


カンらしくない。カンが後悔するって、信じられない。
やりたいことはガマンしない代わりに、失敗しても後悔しない、それがカンだった。



「俺、どうすればいいんだろ......。
 ひどいこと言っちゃったのは、取り消せないし。
 でも、カンが俺のこと好きって、どっか信じられなくてさ......」

「ああ、俺のことが好きだって、二人とも思い込んでたんだよね?」


そのことは話さないでおこうと思ったのに。
ロウ自身からサラッと言われて、固まるしかなかった。



「カンの俺に対する気持ちは、憧れってヤツだったんだよ、たぶんね。
 何でもできて、頼りになる兄貴みたいな存在だったからさ。
 たまたま、カンがゲイだから恋愛感情とごっちゃにしたみたいだけど。
 俺が挫折して、引きこもって、同情も加わったから、余計じゃない?
 だけど、いざ、カイが離れてくって思ったら、そっちの方が衝撃だった。
 それで自覚したんだと思うよ、カイのこと好きなんだってさ」

「カンもそんなこと言ってた。でも、俺は、なんとなく納得できなかったんだ」


ロウが、親父みたいに、俺の頭を撫でた。
俺と同じくらい、大きな手。
でも、俺とは違って、他人を安心させてあげられるくらい、優しくて温かい。
身長は追い抜いたけど、ロウみたいには大人になれてないって、しみじみ思う。


「父さんたちもやってないし、日本では不利なことが多い。
 俺は、将来の目標を考えたら、とてもじゃないけど、タトゥーは無理。
 強制するつもりはなかったけど、みんな、俺の影響もあったんだと思う。
 それは、悪かったと思うよ。ゴメンな」

「ううん、ロウのせいじゃないよ。
 俺、ロウに注意されてなくても、タトゥーは生理的にダメだと思ったし。
 あの時は、すごくショックだったのと、カンが告ってきたので、パニックったんだ」


うん、ロウのせいじゃないことは、断言できる。


元々が好きじゃないのに、大きさとガブリエルだったのが、さらに拒否反応を呼び起こした。
メッセンジャーってさ、神様のメッセンジャーなんだよ?
キリスト教でもイスラム教でも、同性愛は禁忌じゃないか。




「それじゃあ、もしタトゥーを入れてなくて、カンが告ってたら、どうしてた?」

「それも、何度も考えてみた。タトゥーでパニックになったから、拒絶した形になったけど。
 いきなり過ぎて、素直には受け入れられなかったと思う。
 俺は、もうかなり諦めてたから、今さらな感じしたしさ」


そうなんだよなぁ。

無意識にゼロじゃないと思ってたみたいだけど、諦めようとはしてたんだ。
だから、受験勉強も頑張ってたし、小さな世界から抜け出そうとも思った。

それを、邪魔しようとしてる、そんなイヤな風に感じちゃったんだよね。

カンは、そんなつもりはなかったのかもしれないけど。



「カンは、カイが好きだよ。それは、俺でもわかった。
 カイがギターを弾けないままでも、今までの曲は残る。
 それは、俺が歌うんたって、言い張ってたしね。
 カイが予備校で友達と楽しそうにしてるのも、盗られそうで怖かったらしい。
 この前、家に来て、泣きそうになりながら、喋ってた」

「......カン、ずるいよ」


思わず、言葉が零れた。

本人からじゃなくて、ロウから聞いたら、信用するしかなくなるじゃん。
計算してるわけじゃないとこが、また、俺を追いつめる。


ロウが苦笑いしてる。
ゴメン、ロウが悪いわけじゃないのに。

弟分が二人して、痴話喧嘩みたいなことしてたら、苦笑いするしかないよね。


「とりあえず、好きにさせといたら?
 カンのことだから、結果を出すまでは、何言っても聞かないだろうし。
 カイだって、自分のことで目一杯なのに、カンの心配までしてられないだろ?」

「うん、そうだよね。俺が心配しても、カンはやりたいようにしかやらないし。
 俺だって、他人の心配してる余裕なんかないのにさ。
 ロウと話して、頭が冷えたよ。いつも、ありがと」




ロウの言うとおりだ。

わかってたつもりでも、ロウに言われることで、確認したかったんだな、俺。

タトゥーのことは、とりあえず置いといて、自分のやるべきことをやる。
カンのことは、向こうがアクション起こしてから考える。


「生理的に無理だって思い込んでるだけで、見慣れるかもしれないしね。
 とにかく、自分のことが先。できるだけの努力はするよ」


ロウが、右拳を突き出してきた。
コツンと当てて、腕を組んで、そのまま右肩同士をぶつけ合う。


いつものように気合を入れてもらって、深呼吸。


来年の四月には、ロウの後輩になれるように。
その時は、もっと大人になれてるといいな。


俺も、カンもね。











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