「Happiness!」
水に流して

水に流して 1

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「頼るつもりはねぇよ。でも、俺もお前のこと好きだって、気がついたんだってば!」 


カンの言葉に、凍りついた。

嬉しいとは思えない、自分がいた。


「何言ってるか、自分でわかってんの?」

「ロウが好きだと思ってた。ロウに女ができて、諦めなきゃって頑張ってた。
 でもな、お前がギター弾けなくなったことや、俺より近いダチができた方が...」


カンが、一瞬、言い澱んだ。
俺は、その隙を突くように、ひどい言葉を投げつけた。


「それってさ、恋愛感情じゃないだろ?
 いつもそばにいる人間が遠くなったから、淋しくなっただけじゃない?」

「違うって!!」



自分でも、理由がわからない。

あんなに可愛いと思ってたのに。
こっちを振り向いてくれないかと、何度も願ったはずなのに。

必死になって、しがみついてくるカンに、優しくしてやれないどころか、きつい言葉をぶつけてる。



さっき見た、ガブリエルが、目に焼き付いて離れない。



タトゥーがあろうとなかろうと、カンはカン。

カンが言ってるのは、理屈では確かにそうだと思う。

でも、俺の感情はそれを受け入れられない。

見た目だけだったのかって言われたら、それは違うんだけど。



生理的な嫌悪感。


少しだけ冷静になって、思いついたのは、それ。


肩や二の腕なら、まだガマンできたと思う。
でも、あんなに大きくガッツリと刻まれてると、気持ちが引くのは止められない。



「俺は、カンの見た目だけが好きだったわけじゃないよ。
 でも、見た目も込みなのは、カンだって男だからわかるだろ?
 よりにもよって、ガブリエルなんて。
 俺はクリスチャンじゃないけどさ。
 それでも、罪悪感や背徳者だってこと突きつけられて、セックスなんてできるわけない!」



カンが腕を離した。

俺の正面に立った。

目を見開いて、じっと見上げてたかと思ったら、涙が溢れ出した。



「俺は、お前の曲を世界に伝える「メッセンジャー」になりてぇと思った。
 だから、迷わずガブリエルにしたんだよ。それが間違いだってぇのかよ」


カンは、もう声を荒げたりしなかった。
弱くか細い声で、ボソボソとそう言った。


ああ、そんなこと考えてたのか。


「メッセンジャーになりたいと思ってくれたのは嬉しい。
 でも、タトゥーを入れることと、それは別の話だよ。
 俺は、どうしてもタトゥーに抵抗がある。
 それは理屈じゃなくて、生理的なものだから、無理なものは無理なんだ」


俺が冷静になったのがわかったのか、カンは俯いて黙り込んだ。


「帰るね。カンが俺のこと好きなのは、すごく嬉しいけどさ。
 単純には喜べないよ、ごめん」


顔を見ちゃうと、どうしていいかわからなくなるから、それだけ言って、帰ってきた。
カンも、もう追いかけては来なかった。





家に帰っても、何もやる気が起きなくて、ベッドに寝っ転がってた。

気を抜くと、カンのタトゥーが頭に浮かぶ。


かさぶたが取れたって言ってたけど、まだ馴染んでないんだろう。
少し赤く腫れてて、痛そうでさ。

そして、何度も「もう、あの真っ白な体には触れない」って、ぐるぐるしちゃうんだ。

カンのマイペースなところも、自分の価値観で生きているところも、俺にはないもので。
だから、好きだったはずなのに、タトゥーだけは納得できないって、おかしいんじゃないか。


そうは思っても、どうしても無理なんだ。


好きだって言われたのも、本心かどうかわからないしさ。

カンだって、本当はわかってないのかもしれないじゃん?

ロウと俺を天秤にかける、そんな卑怯なことはしないと思いたい。
でも、本人が無意識にやってたら、それはどうしようもない。


俺を好きなんだとしたら、イクヤにヤキモチ妬いたのもわかる。
でも、一言も相談なしで、あんなことされたら、俺が心配するのもわかってただろ?


結局は、「自分の言うなりになる俺が好き」なんじゃないの?



クソッ、頭がガンガンしてきた。

せっかく、前向きに頑張ろうって、明るくなれたとこだったのに。




「カン、晩御飯よ。どうしたの?」


ガンガンとドアをノックされて、我に返った。
しばらく気づかなくて、キャシーを心配させちゃったみたい。

食欲はないけど、ちゃんと食べないと、またキャシーが心配する。
手の麻痺から、ずっと心配させちゃったのに、これ以上は哀しい顔させたくない。


ダイニングに行くと、親父が無精髭のまんま、座ってた。
レコーディングに煮詰まったら、キャシーの御飯を食べに帰ってくる。
普段は、キャシーが、お弁当作って持っていくんだけど、煮詰まったら、それじゃ足りないらしい。


と、いうことは、ムチャクチャ、機嫌が悪いんだよな......。

さっさと御飯食べて、部屋に戻るしかないか。


今、親父とぶつかったら、俺、ガチギレしそうなんだ。
八つ当たりだってわかってても、親父に怒鳴っちゃいそう。



「カンのことか?」


驚いたことに、親父が、先に切り出した。
キャシーを見ると、小さく頷いてるから、二人とも知ってるんだな。


「あ、うん。俺が文句言うことじゃないけどさ。
 もう少し、慎重に考えてもよかったんじゃないかなってね」

「んー、なんかずっと悩んでたみてぇだぞ。
 コウセイが心配してたけど、言い出したら聞かねぇだろ、カンはよ」


そっか、そうだった。

マイペースの俺様に見えて、メンバーのことは大事にしてるもんな。
トーイのことだって、ひとりだけ家の事情知ってたみたいだし。
コウセイは、一番に考えてるんだから、相談に乗ったりしたのかな。


「どうも、俺って、タトゥーに生理的嫌悪感があるみたいなんだ。
 実物見たら、血の気が引いちゃって、カンのこと、傷つけた」

「そっか、それはしかたねぇな。若いヤツらは、結構、入れてるの多いけど。
 俺も、あれだけは、どうしても理解できねぇしな」


生理的なモノはどうしようもない。
珍しく、親父が共感してくれて、驚いたけど、嬉しかった。




「ただなぁ、ダチなのは変わりねぇだろが。
 落ち着くまでは無理だろうが、あんまし冷たくしてやるな」


食べ終わった親父が、またレコーディングのために出ていった。

最後の一言に、どう反応していいかわかんなかったけど、親父は気にしてないみたい。




ダチならいいんだよ、ダチならね。

カンがあんなこと言い出さなきゃさ。
俺も、かなり諦めがついたとこだったんだし。

ただの幼馴染で、音楽仲間。

それだけなら、俺のこの嫌悪感も、少しずつは治まっていったと思う。


こんなこと、誰にも言えない。

たぶん、カンだって、そうだろう。

今頃、ひとりで泣いてるかもしれないと思うと、それはそれで、心が痛む。



あーあ、明日からどんな顔してればいいのかなぁ。

帰りはいいんだよ、補講に出るからさ。
カンは、普通に大学、行く気はないだろうし。


自分のことで精一杯なのに、ほんと、追い込んでくれるよね。

好きなヤツに好きって言ってもらって、こんなに複雑な気持ちになるなんて。

情けないけど、俺のスキルじゃ処理できないよ。

どうしたらいい?











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