「Happiness!」
ところかまわず

ところかまわず 12

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カンの襟元からちらっと見えたのは、どう考えてもタトゥー。

大晦日の時は、ハイネックだったからか、気づかなかった。


「いつ?どうして?何なんだよ、一体?」


つい興奮して、質問攻めにしちゃったら、鬱陶しそうな顔のカン。


「冬休み入ってすぐにやったんだ。
 やっとかさぶた取れて、綺麗になってきたとこ」

「だから、どうしてさ?日本だと、いろいろ制約があるのはわかってるよね?」



俺を見上げてたのが、真っ直ぐに向き直って、真剣な顔つき。

その顔見てたら、こっちも真剣に聞かなきゃいけないくらいはわかる。



「お前にもロウにも頼らずに、プロのミュージシャンになるって決めたんだ」




............え?


カンは、それ以上、何も言わずに歩き出した。

俺は、何も言えずに隣を歩いた。



タトゥーを入れることは、珍しいことじゃない。
対バンで出会った日本人だって、結構、入れてるヤツはいた。

それでも、日本では制約がきついし、入れる気には到底なれない。
ファッション感覚で入れるものじゃないと思う。


プールやサウナ、スポーツジムの入会もアウト。
病院でも、MRI検査で確認された。
染料が磁気を反射して、ちゃんと撮影できないんだって。
それに、肝炎に感染したって話も聞いたしさ。

将来、後悔して消すにしても、その部分は傷跡になって残るんでしょ?


どう考えたって、日本に住んでる限りは、不利でしかない。
親父たちだって、ピアスはしてても、タトゥーまではしてない。


ゲイだってだけで、充分、生きづらいのに。

見た目でわかるハンデ増やして、どうするんだよ?




その日一日、ずっと憂鬱で、話す気にはなれなかった。

覚悟を決めたってことなんだろうけど、タトゥーじゃなくてもいいんじゃないの?
口を開けば、絶対にそう言っちゃうと思ったし、言っても、カンは聞かないのもわかってたし。

もう入れちゃったんだから、何言っても無駄だしね。





「今日、俺ん家来てくれよ。ちゃんと話しときてぇし」


帰り着いて、エレベータの中で、カンがボソッと言う。
来い、じゃなくて、来てくれって、カンらしくない。

でも、そう言われると、拒否できないとこも、俺の弱さ。


「ん。着替えてから、行くよ」


エレベータを降りるカンが、振り向いて頷いた。
すぐに、扉は閉まって、また止まる。


家に帰ると、キャシーがいない。
今まで、何も言ってなかったから、キャシーも知らないのかもしれない。

相談したかったけど、約束したから、とりあえずは行かなきゃ。


ノロノロと着替えて、重い足を引きずって、カンの家へ。
インターホンを鳴らすと、すぐにカンが出迎えた。


スーもいないってことは、キャシーと二人でボランティアか何かかな。
親父たちは、今、レコーディングで詰めてるしな。


大晦日の時は、特に感じなかったのに、二人っきりって、妙に実感した。


カンの部屋へ入る。

カンは、俺をじっと見てから、するっとセーターをTシャツごと脱いだ。



翼を広げた大天使、たぶんガブリエル。
黒のグラデーションで、みぞおちあたりから鎖骨まで、大きく描かれていた。

白い肌に、くっきりと。


ここまで大きなモノだと思ってなかったから、見せつけられて、息を呑んだ。




「お前が言いたいのは、日本で普通に生きていけなくなるってことだろ?
 俺は、ミュージシャンになるんだ。普通じゃなくても構わねぇ。
 つーか、これは、後戻りできねぇって、自分を追い込むための印だよ」


言い終わると、セーターを着てベッドに座り込んだ。


「ロウからもお前からも、卒業しなきゃな」

「スーとコウセイは?」

「スーは、卒業まで待てって言った。
 だから、見えないとこだけで譲歩した。
 コウセイは、そこまで覚悟してるなら、何も言わないってさ。
 ただ、親の七光は期待すんなってよ」


二人とも...俺が言うのはおかしいけどさ。

自由過ぎない?先のこと考えたら、普通は止めるでしょ?!



「俺は、指が動くようになったとしても、タトゥーは入れない」

「ああ、お前に強制するつもりはねぇよ」


淡々と言うカンの顔見てて、なんか哀しくなってきてさ。

俺の大好きな、可愛くて仕方なかった、カン。

あの白い肌には、もう触れないんだって思うと、情けないけど泣けてきた。



「何、泣いてんだ?」


不思議そうな顔してるけどさ。
ちょっと考えたらわかるんじゃない?

俺、カンのこと好きだって、話したよね?


想いが叶うことはない、もう触れ合うことはない。
そう、言い聞かせてはきたけど、目の前にいるカンは、全くの別人みたいに思えてさ。


ああ、そうか。

俺、カンのことも、可能性はゼロじゃないって、どこかで思ってたんだ。
だから、完璧に拒絶された気がして、哀しいんだ。



「いや、俺の好きだったカンは、もうどこにもいないんだって、思い知っただけだよ」


なんとか、涙を堪えてそう言うと、カンがすごく傷ついたって顔になった。


「タトゥーがあろうとなかろうと、俺は俺じゃねぇか」

「ロウが同じことしたら、カンは冷静でいられる?」



カンが、詰まった。


ロウがタトゥーなんてするわけないもんね。
でもさ、想像してみてよ。

俺たちの知ってるロウじゃないだろ?



「お前なら、わかってくれると思ってたのに」

「何をわかれって言うんだよ?
 ここは日本で、ステイツじゃない。
 普通じゃなくていいって、言ってるけどさ。
 俺たちは、充分に普通じゃないんだよ、わかってる?」



カンは、俺に甘えてる。

俺だけは、全面的に味方になってくれると思いこんでる。

幼馴染ってだけじゃなく、俺が自分を好きだって知ってるから。
それに、ヴォーカリストとして、俺が必要としてるのもね。

確かに、俺の音楽を一番に表現できるのは、カン。

だけど、俺、言ったよね?
期限内に指が戻らなかったら、すっぱり諦めるんだよ。

それって、カンから離れてくってことなんだけどさ。



「理解はできない。でも、もう何も言わない」


帰ろうとして立ち上がったら、カンが抱きついてきた。


「行くなよ。お前が離れてったら、俺、ひとりになるじゃん!」

「あのさ。もう、頼らないんでしょ?俺のこと、好きなわけでもないよね?
 そのタトゥーは、脅しのつもり?」


どんどん冷静になってきて、口からはきつい言葉しか出てこない。

カンの顔は見えないけど、ちっちゃい子どもみたいに、首を横に振ってる。



「頼るつもりはねぇよ。でも、俺もお前のこと好きだって、気がついたんだってば!」 











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Re: こんばんは

Kさん、こんばんはー。

カイ、「自分が普通じゃない」って思い込んでますけど、今までの主要キャラの中で、一番、中身は普通かもです(笑)
まだ十七歳ですし、これから頑張って、どれだけ成長できるか。

長い目で見守ってやって下さいm(_ _)m


そっち?

私はてっきり、引っかき傷とかそのたぐいかと♡♡

タトゥーかあ。
宗教とかでも入れるのがあるって聞いたことあるけど。覚悟としては分かるけど。
はっきり線引きされた気になっちゃうよね、カイは。
離れかけてる気持ちを引き戻すため・にしたのかもしれないけど、カン、ベクトルはもうすれ違ってるんだよ~。
友達だって努力しないと続かない。ましてや恋愛は・・・。

カイ、ブレないでいられるかなあ。

Re: そっち?

> 私はてっきり、引っかき傷とかそのたぐいかと♡♡

カイも、それだったら、諦めがついたと思うんですよね(笑)

> タトゥーかあ。

これは、世代だけじゃなくて、ほんとに感覚の違いだと思うんですが。
やっぱり、日本だとまだ制約は厳しいし。
好きなミュージシャンでも、上半身ほとんどに入ってたりするの見ると、私なんかはちょっと引きます。
肩や二の腕、足首にちょろっとなら、まだ気にならないんですけどね...。
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