「Happiness!」
ところかまわず

ところかまわず 4

 ←ところかまわず 3 →ところかまわず 5

ロウからもらった資料を読み込んで、自分なりに考えた。

その結果、ロウと同じ大学の「日本研究コース」を、第一志望にすることに決めた。
中途半端かもしれないけど、ギターを諦めずに、普通に就職もって欲張るなら、それが一番だと思う。


ギターのことは話さずに、インターの先生に報告したら、ニコニコと賛成してくれた。


「音大受験できなくなったのは、とても残念だろうけど、吹っ切れて良かった。
 あの大学なら、講義は充実してるし、就職にも有利だ。
 もちろん、自分で努力することが必要だけどね」



ドライなようで、やっぱり心配してくれてたんだ。

この先生は、高校だけ日本だった「帰国子女」ってヤツらしい。

親の都合で、小学校中学校はステイツで通った。
高校受験に合わせて帰国したけど、どうしても馴染めなくて、大学はステイツに戻っちゃった。
親が病気になってしまって、慌てて日本で仕事を探したら、ちょうどここの教員募集があったらしい。


「今の調子で頑張れば、ロウみたいに推薦枠に入ることは、充分可能だよ」

「他にも希望者は、いそうですか?」

「いや、今のところは聞いてないよ」


あれ?カンはどうしたんだろう。


「ああ、カンが相談してきたな。頑張ればなんとかなるって話したよ。
 その後は、何も言ってこないなぁ、そう言えば」

「はぁ......」


とりあえず、お礼を言って、家に帰ることにした。




やる気出してたはずなのに、続かなかったのかなぁ。
それとも、やっぱり、カオルと一緒にいるのを見るのはつらいのかも。

そばにいたい気持ちと、絶対に自分を好きになってはもらえないつらさと。
簡単に割り切れないのは、よくわかるしね。


俺は、どうしたって、ロウとカンがいるところは見ちゃうから、もう開き直ったけどさ。

ギターを諦められるくらいなら、カンのことだって、いつかは諦められるんじゃないかってね。


同時に、ギターを諦めないなら、カンからは逃げないって覚悟を決めることでもあるし。



俺のギターと作る曲を、俺自身よりも評価してくれる。
俺の理想の歌い方で、理想の声で歌ってくれる、最高のヴォーカリスト。

それが、カンだ。

バンドとしてプロデビューするなら、カン以外のヴォーカリストは考えられない。



ギターを諦めないって、カンに報告した夜、頭が痛くなるほど考えた。

もっと俺の世界が広がれば、カンより好きなヤツが現れるかもしれない。

でも、音の世界は別だ。

散々、いろんなバンドを聴いてきて、幼馴染って贔屓目や慣れを差し引いて。
それでも、カン以上に、俺の曲を表現できるヤツはいない。

自分で歌うよりも、カンが歌う方がしっくり来るんだから、それは間違いないと思う。


だから、時間制限いっぱいは、足掻いてみようと決めたんだ。
親父の言い方だと、肚を括るってヤツ?かな。



もし、指が元通りになったとしても。
そして、カンがロウを諦めて、他の男とつきあいだしても、俺は曲を作ってギターを弾く。


カンを抱いた感覚を思い出して、頭の中が暴走することもあるけどさ。

ギターが弾けなくなった時に、思い知ったんだよ。
どれだけ、俺にとって音楽が大事で、それがカンとは切り離せないものかって。


逆を言えば、音楽から離れるんなら、カンとも離れられるんだよね。

指が元通りにならないなら、それはそれで、すっぱり諦めがつくってもんじゃない?



時間制限は自分で設定した。
大学の前半二年間に戻らなければ、もう音楽からは離れる。

もちろん、大学の講義や就活のための資格取得も頑張るけどさ。
離れた時は、どれだけ心が痛いか、考えるだけで怖いけどさ。


誰だって、完全に、計画通り・希望通りの人生なんて、生きてないよね。
俺だって、例外じゃないってこと。




親父とキャシーに話したら、二人とも頷いただけ。

ロウは、とても喜んでくれた。

そして、カンは......既読はついたけど、返事が来ない。
カンらしくない態度に、戸惑った。

でも、気にしてたら、俺は、また動けなくなる。

とにかく、推薦が無理でも、一般入試で合格できるように、頑張らなきゃ。



そーゆーわけで、冬休みから、受験対策に予備校に通うことにした。
インターの補講だけじゃ、俺には厳しいと思ったからね。

浮くのは覚悟してた。
日本人ばっかの中で、外見はガイジンそのものだからさ。

なのに、普通に扱ってくれるヤツがいたんだ。



それが、郁弥ーイクヤー、だ。


イクヤは、初日の授業で隣に座ってきて、自然に話しかけてきた。


「俺、上川郁弥っていうんだ。名前、何ていうの?どこの高校?」


ほんとに普通に話しかけてきたから、俺、びっくりしちゃってさ。
失礼な話だけど、イクヤの顔、マジマジと見ちゃった。


「あ、石田海。高校は、セントジョーンズ」

「ああ、インターナショナルスクールなのかぁ。初めて見る顔だと思ったんだ。
 セントジョーンズなら、俺の高校と隣駅だ」



それから、先生が来るまで、イクヤは明るく喋り続けた。


第一志望は俺と同じ大学なこととか、友達には「やっしゃん」って呼ばれてるとか。

俺は、質問されることに答えるだけで、ただ、ふんふんと話を聞いてた。
ニコニコしてて、警戒させないヤツでさ。

物珍しいからかと思ったけど、それでも遠巻きにされるよりは、楽しいかもだしね。



「教室に入ったら、すっごくカッコイイヤツがいるんだもん。
 友達になりたくてさ。図々しいかもしれないけど、よかったらメルアド交換しない?」



授業が終わって、帰り支度をしてたら、イクヤがそう切り出してきた。

授業態度はマジメだったし、わかんないとこは教えてくれたし、で、すっかり警戒心は失くなってた。


「うん、喜んで」


お互い、スマホ取り出して、最初にSNSの登録。


「ああ、親絡みじゃない、初めての日本人の友達かも」


自分のフレンドリスト見て、ついそう呟いたら、イクヤに聞かれてた。


「やったね!俺、第一号ってわけ?」


はしゃいでるのが、すっごく可愛くてさ。
見てるだけで和むんだ。

体型は、ハルよりは華奢で背が低いけど、カンよりは少しデカいかな。
ま、俺の肩までしか身長はないから、二人とあんまし変わんないか。

カンより色が白くて、二重のぱっちりした大きな目。
口はちっちゃいのに、よく動く。

なんとなく、小動物を思わせる、可愛らしい感じ。



「あー、今、可愛いって思ったでしょ?」


ちょっとむくれた顔になって、俺、すっごく焦る。
俺、顔に出ちゃってたのかな。

うん、そうだよな、男だったら、可愛いなんて思われたくないよな。


「ま、慣れてるから、別にいいけどね。
 つーか、カイなら許す!いくらでも、可愛いって褒めて」


イタズラっぽい表情になって、からかってるのか、本気なのか。
わかんなくて、さらに焦ってたら、イクヤが立ち上がった。


「じゃ、また明日ね!」


ブンブンと手を振って、走ってく背中に、慌てて声をかける。


「ああ、また明日。今日はありがと!!」


ちらっと振り向いて、ニッコリ笑うと、猛ダッシュで帰ってった。



俺も帰ろうと立ち上がって、なんか笑えてきた。

少し前まで、どんよりしてた頭の中が、すっきり晴れたような気がしたんだ。










にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【ところかまわず 3】へ
  • 【ところかまわず 5】へ

~ Comment ~

NoTitle

ロウに続いてカイも、自分の世界を広げて行ってるネ。

カンは?

そして、ニューフェイス、郁也!
新たな台風の目になりそうなんですが・・?

カイ、日本語は複雑だぞー、気を付けてね。

話は変わりますが、今日のこちら、雪が降りましたー。積もることは無いですが、寒いっ!!

Re: NoTitle

自分の世界が狭いことに気づいたら、大人への第一歩だと思うんですよね。
そういった意味では、リンが一番早かったのかな。
ハルも抜け、ロウも世界を広げ、カイもとうとう一歩踏み出した。

カンは、これからどうするかなぁ。


昨日まではポカポカしてたのに、今日は途端に冷え込んでます。
さすがに雪までは振りませんでしたが、猫がコタツから出てきません(笑)
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ところかまわず 3】へ
  • 【ところかまわず 5】へ