「Happiness!」
ところかまわず

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家に帰ったら、キャシーが晩御飯を作ってて、手伝おうとしたら必要ないって言われた。
とりあえずは、部屋へ戻って、もらった資料を読んでみた。


ネットで調べてもいまいちわからなかったことを、ロウが英訳してくれてて、しみじみありがたかった。

調べながら思ったんだよな。
俺、ここでも中途半端だってね。

日常会話は日本語だし、ギター弾けなくなってから、ずっと日本語の本を読んだから、かなり読む力は伸びた。
それでも、学校案内の文章の意味がわからないことがあった。
普通に日本の学校に行ってる学生は、これをすらすらと読むんだろう。

そう考えると、ロウが行ってるような、通常授業は全て英語の大学の方が、俺にとっては楽なはず。

だけど、日本文学を勉強するのに、そんな程度の日本語力でいいのかって話でさ。
受験はなんとかなっても、入ってから「普通の日本人なら知ってる」ことを知らないのは、相当なハンデになる。

今さら、普通の高校に転校するわけにもいかないしね。

ロウが教えてくれたけど、インターを卒業したら、高卒資格は与えられる。
だけど、根本的な教育課程が違うから、今からだと、単位計算が合わなくなる。

ハルとリンがすんなり転校できたのは、まだ日本では中学生だったからだ。



キャシーの呼ぶ声がして、一旦、考えるのは止めた。

御飯の時には、難しいこと考えたくないしさ。
深刻な顔してたら、またキャシーに心配かけちゃう。



「いただきます」


親父と三人、大好きな和食の晩御飯。
ハンバーガーも焼肉も好きだけど、俺、一番好きなのは、日本の「家庭の味」なんだ。

キャシーが、ばーちゃんに教えてもらって、一生懸命に覚えたせいかな。
すごく美味しく感じるんだよね。


今日は、サンマの塩焼きに大根おろし、焼き茄子、ほうれん草のおひたし、豚汁。

親父の好きなサンマと、俺の好きな豚汁、両方を作ってくれてる。
キャシー自身は、日本に来るまで、魚も豚肉もほとんど食べてなかったのにね。



「あの、進路のことなんだけど...」


返事はわかってたけど、一応、きちんと報告しとこうと思って、親父に話しかけた。

好きなもの食べてる時は、まだ話しかけやすいしさ。


「ああ、音大は無理なんだろ?普通に大学行くにしろ、留学するにしろ、好きにしていい。
 お前の人生なんだから、お前が決めろ。金なら心配すんな」


最後の一言だけは、意外だった。
そんな優しいこと言うなんて、思ってもなかったからさ。


「俺も、祖父さんに甘えっぱなしだったからな。
 偉そうなことは言えねぇしよ。
 弾けなくなった原因はわかんねぇんだから、お前の責任でもねぇ。
 必死で稼いできたんだ。金ぐらいは出してやるよ」


こっちは向かずに、お椀を持ったまま、一気にそう言った。
言った後は、照れてるのか、気難しい顔で黙々と食べ続けてる。

キャシーは、可笑しそうにしてるけど、笑うのはガマンしてる。
親父が不機嫌になると、後がめんどくさいからね。



これで、後は、俺の意志と努力と運次第。

気難しい親父に話すのも、結構、プレッシャーだったんだよね。
まさか、あんなにあっさり終わるとはさ。




後片付けを手伝いながら、キャシーには、詳しく話した。

自分で調べたこと、ロウに教えてもらったこと、まだはっきりとは決めてないけど。

そして、親父に話すと揉めそうで黙ってたことも。


「俺、完全には、ギター諦めてないからね。
 少しマシになってきてるし、可能性はゼロじゃないと思ってる。
 もし、学生の間に、もっと指が動くようになった場合は、プロ目指す。
 その時は、親父に文句言われないくらい、必死で練習するよ」


キャシーは、すっごく驚いて目を丸くしたけど、すぐに思いっきりの笑顔になった。

ぎゅーっとハグされて、顔中にキスされる。


「そうよ!簡単に諦めちゃダメ!!
 それでこそ、ユージと私の息子だわ!!」


こんな時にも日本語って、ほーんと、キャシーってすごいよ。
日系のスーでさえ、キレると英語になっちゃうらしいのにさ。

ああ、そこら辺もカンは似てるのか。

カンとスーが言い合いになって、ヒートアップすると早口の英語になる。
コウセイはついていけなくなって、仲裁できずに見てるだけ。



でも、喜び方はアメリカンなまんまなんだよなぁ。
そーゆーところが面白いと思えるようになったのは、ロウのおかげかも。




逆手に取る、だっけ。


どっちつかずの自分が、寓話のコウモリみたいで、イヤだったけどさ。
ロウに言われて、視界が開けた気がしたんだ。


このまま、ギターが弾けないままでも、なんとかなるんじゃないか。
少なくとも、金の心配はしなくいい分、俺はすごく運がいいんだよね。

いつかは、自分の足で立たなきゃなんないけどさ。

焦らずに、拗ねたり、いじけたりもせずに、自分のできることをしよう。



部屋で、資料の続きを読んでたら、スマホにメッセが来た。

グループじゃなく、カンから直接で、どうしたんだろうって、タップした。


『どうすんのか、もう決めたのか?』


せっかちなカンらしいよ、本当に。


「まだ、はっきりとは決めてないけどね。
 ただ、ギターを、完全に諦めなくてもいいんじゃないかとは思ってる。
 治る可能性は低くても、ゼロと決まったわけじゃないしね」


そう返事したら、いきなりコール音。


『マジ?もうギターは触んねぇのかと思ってた!!』


カンにしては、早口の大声。
そして、すごく嬉しそうなんだよね。


また、ズキンと心が痛む。


「でも、学生の間に戻らなかったら、その時はすっぱり諦めるよ」

『ああ、それはしかたねぇよ。それでも、俺は嬉しいんだ。
 お前とバンド演れる可能性が、ゼロじゃなくなったんだからよ』


音の世界にしがみついてる間は、カンとは離れられない。
気にしないようにしてたけど、本人が突きつけてくるんだもんなぁ。


「あんまり期待はしないでよね。ほんと、前とは大違いなんだからさ」


ちょっとの間、何か考えてる気配がして、カンがまた話しだした。


『あのさ、俺はお前のギターが好きだけどよ。超絶テクだからってわけじゃねぇ。
 お前がギターで作り出す、リフやメロディが、好きなんだって。
 誤解すんなよ。巧いだけのギタリストになんか、俺は興味ねぇんだ』


あああっ、ほんとに、もうっ。


「カンさぁ、俺の弱点、知り尽くしてるよね......」


ため息混じりにそう言うと、カンは「何、わかんねーこと言ってんだ?」状態でさ。


『とにかく、俺は嬉しいって言いたかっただけ。んじゃ、おやすみ』


おやすみって返す前に、通話切られちゃったよ。


一番好きなヤツに、一番好きなこと、それも自分でもやり甲斐があると思ってること、褒められる。
それって、最高に幸せなはずなんだけどさぁ。


............ま、いいか。


いつか、この痛みも薄くなる時が来るんだろう。

カンより好きになれるヤツが現れるかもしれないし、そいつが俺のこと好きになってくれるかもしれないし。

ノーマルより可能性は低いだろうけど、ゼロじゃないよね、これもさ。 











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