「Happiness!」
ところかまわず

ところかまわず 2

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「カンが凹んでたよ」


久しぶりのロウん家で、いきなり言われて驚いた。

俺がギター弾けなくなったのに、曲は作れって言ったの、すっごく後悔してるらしい。




「つらいのはカイなのに、自分勝手なこと言って悪かったって。
 ずっと様子がおかしいってわかってたけど、つい言っちゃったらしいよ」


長くなった髪を後ろで束ねて、少し男臭くなってるロウ。
昔の親父っぽくてさ、自由に好きなことを楽しんでるって感じがする。
優等生で生真面目だったなんて、今のロウを見ても、誰も思わないだろうな。



「ん、カンがああ言ってくれたのは、嬉しいよ。
 でも、ギター弾けないのに、音楽にずっと関わってくのは......」

「やっぱり、つらい?」



言いにくかったのを、ロウに当てられて、俺、苦笑い。
黙って頷いたら、ロウが優しい顔で微笑んだ。


「たぶん、俺たちの中で一番才能があるのは、カイだしね。
 もっと落ち込んでるかと思ったけど」



そこから、初めて左手が麻痺してからのことを、ポツポツと話した。


最初に病院に行ってからの三週間、毎朝、まだ痺れてるって焦ったこと。

大きな病院で、いろいろ検査しても、原因がわからなかったこと。

少しはマシになったけど、以前のようには動かせないこと。

もう音大は無理だって諦めて、受け入れたこと。

そして、ギターやピアノを触らない分、日本語の本を読みまくったこと。



「俺、見た目はガイジンだけど、中身は日本人だなぁって、すごく感じたんだよね。
 自分の感情を表現するのは、日本語の方がしっくり来るし。
 だから、普通に大学行くなら、日本文学の勉強がしたいと思ったんだ」


ロウは、ずっと黙って聞いてくれた。
言葉が見つからなくて、間が空いても、辛抱強く。


「心配してるのは、それじゃ就職に不利だってことだろ?」


俺が頷くと、いろんな大学の資料や、就活資料を渡してきた。
前もって、準備してくれてたのは、さすがだよね。


「うちの大学にも「日本研究」ってコースがある。
 文学だけでなく文化全体や、外から見た日本についてだとかね。
 就職のことは、今から決めなくてもいいんじゃないかな。
 確かに、俺もそうだけど、見た目がガイジンだと異質だと思われがち。
 でも、逆手に取ることもできるんだよ」


逆手に取る?

意味がよくわからなくて、俺、ポカンとしてた。


「普通に就職するにしても、英語を日本語と同じくらい使えるのは有利だよ。
 それに、インターに通ってるんだし、キャシーやスーみたいな人がそばにいる。
 企業がグローバル化して、大きな会社は日本人ばかりじゃない。
 だから、もっと日本を知ることで、ガイジンとの間に入ることもできる」


ロウが説明してくれたのは、一般企業のことだけじゃなかった。

インターには来れない、外国の子どもたちのために、日本語を教えるボランティア。
クールジャパンって評価されて、海外でも人気のある日本人作家のこと。

日本に住み続けるにしても、キャシーやスーが日本に来た頃と違って、偏見や差別はかなり減ってること。



「それにさ、カイ、日本語で曲作りだしただろ?
 あの歌詞には、言葉のセンスが感じられるんだよね。
 それは、父さんも感心してた。

 『やっぱり、優児の息子だな』

 ってね。
 だから、言葉で表現するクリエイティブな仕事も、選択肢に入れてみたら?」



俺、ポカン、リピート。

思ってもみなかったことを、いきなり提案されて、理解するのに時間がかかっちゃった。



頭の先まで、音の世界にハマってて、言葉ってあんまり重要視してなかったけど。

考えたら、俺が、SMSに惹かれたのは、確かに歌詞は大きな要因。

ツインギターとツインヴォーカル、凝ってるけどひねりすぎないアレンジ。
そして、しっかりしたテクに支えられて、表現されてる、いろんな感情。
日常的なありふれた言葉を使った、でもどこか他とは違う歌詞が、ピタッと来るんだ。




「それにさ、完全に諦めることはないんじゃないの?
 もし、在学中に麻痺が治ったら、そこから猛練習すればいい。
 音大にこだわる必要はないしさ」



ロウの言葉に、反発する気にはなれなかった。

自分の思い込み過ぎに気づかされたから。


そうだよ、俺は、クラッシックのソリストになりたいわけじゃない。
親父だって、ケガで弾けなかった時期があったって聞いてる。

サムだって、ベースを弾き始めたのは、十八の時からだ。
そのサムは、今じゃ、業界で「ベースの神様」扱い。


少しはマシになったんだから、可能性はゼロじゃないんだよね。
今だって、難しいのはキツイけど、意識してれば、弾けないことはないんだし。


「俺、ボランティアでいろんなとこ行ってるだろ?
 身体障害を持つ人たちのスポーツ大会のお手伝いなんかもするんだよ。
 義足で、俺よりずっと早く走る人が、たくさんいる。
 神経断裂だとか、そんな絶望的な話じゃないんだから」



手足を失くす......そんな状況でも立ち直って、スポーツに打ち込んでる人がいる。
パラリンピックなんかで知ってはいたけど、間近で見たロウに言われると、なんかずーんと来た。




しばらくして、顔を上げると、ロウが、感心したようにため息を吐いた。


「やっぱり、カイは優しいなぁ。俺なんか、自分のことで精一杯だった。
 一度挫折しただけで、引きこもったりしたしさ。
 あの時は、心配かけて、本当にゴメン」


ロウが頭下げたから、俺、慌てちゃって。


「ううん、俺、役立たずだったし。謝ることないよ。
 俺は、ひとりで考えてると気が狂いそうだったから、普通に生活してただけ。
 引きこもるのって、自分に真剣に向き合わなきゃなんないでしょ」



そこまで言って気がついた。



俺には、どこか覚悟が足りなかったんだって。

ロウほどの熱い思いもなかったし、目標に向かう努力も、ちゃんとやってこなかった。
親父が言う「腰が座ってない」ってヤツだったんだよね。

だから、親父は「死ぬほど努力すれば」って言ってたんだ。
俺なりに、頑張ってたつもりなんだけど、見抜かれてたってことかな。




「決めるのはカイだし、無責任かもだけど。
 就職に有利かどうかじゃなく、研究したい分野で大学を決めるのはありだと思う。
 渡した資料は、日本文学や文章表現のコースがあって、評判のいい大学のもの。
 カオルや友達にも聞いて、調べてみたんだ」

「ありがと。じっくり読ませてもらうね」



ロウが渡してくれた、トートバッグに資料を入れて立ち上がる。
ロウも立ち上がって、握った拳を差し出してきた。 

コツンと当てて、腕を組んだ後、肩をぶつける。

俺たちがライブを演る時に、気合を入れ合う儀式。



「たくさん悩んだし、みんなに迷惑かけたけど、あの時間は無駄じゃなかった。
 今はそう思えるし、先になったら、笑えるように、俺も頑張る」


優しくてたくましくなった、大事な兄貴分。
ロウに見送られて、俺は家へと戻った。


ずっしり重い資料に、久しぶりにワクワクしながら。











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