「Blue Sky,True Mind」
秋桜、揺れる

秋桜、揺れる 11  翼

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目が覚めて、一瞬、自分がどこにいるのかわかんなかった。
起き上がろうとして、顔がジンジンして思い出した。


北川さんのマンションだ。


やっぱ、ネカフェと違って、寝心地いいよな。
すっげ、体が楽になった気がする。

しっかし、今、何時だ?
居候のくせに、寝坊してちゃマズいだろ。

時計代わりのスマホを見れば、朝八時過ぎ。
思ったよりは遅くはねぇけど、微妙っちゃ微妙。
北川さんらのベッドルームは、リビングの反対側にある。
ションベン行きてぇけど、起こしちまうか?


俺が住んでたボロアパートじゃねぇし、こっそり動きゃイケるか。
このマンション、セキュリティだけでも、かなりのグレードなのわかるしな。



そっと、部屋を出てトイレへ行こうとしたら、バスルームから原田さんが出てきた。
真っ裸のまんま、タオルで髪の毛拭いてる。

うっは、瑛士さんより、ずっと細いと思ったのに、いい勝負で筋肉ついてんなぁ。
ジロジロ見ちゃ失礼だと思って、視線落としたら、もっとヤバいもん、見ちまった。



......やっぱ、俺、人格変わってんの?



思わず、喉が鳴ったよ。
瑛士さんのとこにいる時なら、真っ赤になって逃げてたのにさ。

たった一週間だ。

たった一週間前に、これで最後って、一日中、瑛士さんに抱いてもらったばっかだ。
瑛士さん以外の男となんて、考えたこともなかったのに、今の俺、何者?


すっげぇ、ショック。
そんなとこまで底辺に落ちたってことかよ。



「どないした?傷、痛むんか?」


原田さんが、心配そうに声かけてきた。
喉鳴らしたのは、聞こえてなかったっぽい?


「いや...あの...」

誤魔化そうとしたけど、なんか上手く言えなくて、口籠っちまったんだ。
なんだろな、変わったのは周りだけじゃなくて、自分もだってことが、腹からは納得できてねぇんだろな。


「ゲイの男やったら、普通の反応やろ。別に、気にせんでええ。
 俺、結構、デカいしな」

半分からかうみてぇに、そう言ってくれたけど、俺が戸惑ってんのにも気づいたと思う。
頭くしゃっと撫でてくれて、そのまま台所へ歩いてった。




便座にへたり込んで、静まるの待った。
朝勃ち以上に、さっきのが響いてる。
原田さんが言ったみてぇに、普通の反応かもしんねぇ。
俺、色気づくの遅かったしな。


...それでも、さっきのは、衝撃だった。
目に入ってきた瞬間、下半身が疼いて、喉が鳴った。
そんな自分に驚いて、次に、イヤだって思った。
どれだけ、飢えてんだよ?


他のヤツので、ドキドキしたり、勃ったりしたことはあるよ。
でも、そこまでで終わってたのが、もっとくっきりと「欲しい」に、変わっちまってる。
それも、相手は、原田さんだってのに、だ。

なんだっけ、即物的って言うんだっけか。

こんなに、瑛士さんのこと好きで、会いたくてたまんねぇのに。
俺の体は、瑛士さんじゃなくても、簡単に反応しやがった。



底辺らしいっちゃ、底辺らしいんだろうけど。


こんなんじゃ、二度と瑛士さんに会えねぇ。
瑛士さんに、どんな顔して会えるっつんだ。

あんなに、大事にしてもらって、昨日だって心配してくれて。
なのに、俺はこのざまだよ。
ババァのこと言えやしねぇ。
俺だって、欲の塊じゃねぇか。



「翼、どうしたの?大丈夫かい?」


ノックの音と北川さんの声で、我に返った。
長いことトイレを占領してたみたいで、心配かけちまった。
立ち上がったら、膀胱はパンパン。

「すいません、すぐ出ます」

「ああ、倒れてるかもって、修が心配してるよ。
 朝御飯できてるから、ダイニングにおいで」

足音が遠ざかってから、便座上げてションベン。
溜めてたせいで、時間がかかって、それも、なんか情けなかった。



手と顔洗って、食堂に行ったら、朝メシは和食。
ばーちゃんが作ってくれてたみたいに、味噌汁と白いご飯に漬物。
玉子焼きや魚の干物を焼いたのと、野菜の煮物もあって、すっげ豪華。
一週間前までの俺なら、これだけでテンション上がってたはず。
でも、今は、美味そうだとは思っても、さっきのこと引きずって気分は落ちたまま。


「また、ニコニコ無理してる」

「とりあえず、食え。話は、それからや。
 今日は、二人とも時間あるから、何でも聞いたる」


二人に見透かされて、笑うの止めた。
でも、泣くのもイヤだったから、きちんと目の前のメシを食う。
それだけに、集中してた。

昨日のシチューも美味かったけど、今朝のもすげぇ。
味噌汁が、出汁に昆布使ってあって、赤くないのが、久しぶりだった。
具も俺が作るみたいにしょぼくない。わかめに油揚げと人参、えのきにネギ。
ジワーっと胃に滲みる感じがして、少しずつ、気分が戻ってきた。


せめて、皿洗いでもと思ったら、ここも瑛士さんとこと同じで、食洗機。
原田さんが、チャッチャッとセットして、俺の出番はなかった。



「ほら、合間にでも、これ食べて」

リビングに移動したら、北川さんがカフェオレとチョコ出してくれた。
それも、俺の好きなメーカーのナッツチョコ。
瑛士さんから聞いてたのかな。



「疲れやケガのせいちゃうな。どないしたんや?」

正面に原田さん、左横に北川さんがそれぞれ座って、心配そうな顔。
俺、あんまし言葉知らないし、頭悪いから時間かかったけど。
なんとか、さっき感じたことを説明してみた。

つっかえたり、言いたいことが上手く言えなかったりした。
それでも、二人は辛抱強く聞いてくれた。
北川さんは、俺の左手を握って、軽く叩いたり、頭を撫でてくれて、焦らないように励ましながら。


少しは説明できたかなと思ってたら、二人が何とも言えない表情になった。
心配してるような、でも、少し安心してるような、複雑な顔。



「お前もなぁ。運が良かったんか、悪かったんか...」

「運は良かったんだよ。ただ、縁がなかっただけ。
 でも、また繋がる縁だってあるんだし、簡単に諦めちゃダメだよ」


二人の言ってることは、なんとなくわかる気がした。
俺が瑛士さんに拾われたことは、運が良かった。
ただ、縁がなかったから、別れなきゃなんなかっただけ。

原田さんが、俺の考えを遮るように、話し出した。


「もう一人もそうやけど、翼もレアケースやねんで」



ノーマルと違って、初めて好きになった人とつきあってセックスする。
そんな幸運は、俺たちにはまず巡ってこぉへん。

俺も聡志も、気持ち悪いと思われるのが怖くて、ゲイだってことも自分の気持ちもずっと隠してた。

俺の好きやったんは、幼馴染でな。
妹と三人で仲良うて、二人がお互いに好きなんに気づいてからは、もう必死やったわ。
それが、親父が妹に、俺がゲイやってバラしよって。
妹は勘がいいから、俺の気持ちにも気がついた。
妹が傷つくのがイヤで、先回りして、相手にカミングアウトしたわ。
縁切りされても仕方ないって、高校生にしてはかなりの覚悟が必要やったな。
でも、そいつは「ゲイでも修は修」て、言うてくれたし、俺の気持ち自体には気づいてなかった。
せやから、妹もそいつのことも、大丈夫やって安心させたくて、弟分に頼んで彼氏の振りしてもろた。

その弟分も、ノーマルにずっと片想いしてたわ。
お互いに、淋しいのを埋めようと、ずっと一緒にいてた。
最初は、体だけやったけど、なんか、淋しいのが共鳴したんやろな。
あのまま、つきあえればよかったんやろうけど、どうしてもそうはならんかった。
そうこうするうちに、俺は聡志に口説かれて、一生懸命さにほだされて、今は見ての通りや。

聡志かって、俺かって、お互いにつきあうまで、本気で好きなヤツとなんかヤったことなかった。
大体は、声かけたりかけられたりで、二、三回、ほとんど一度っきりで終わる。
まともにつきあったことのないヤツも、結構いてる。
それは、ノーマルかって同じやけど、割合は、ノーマルの比やない。

そんなんがほとんどやのに、翼は瑛士と出会った。
あいつが、どれだけお前のこと大事にしてたか、それはお前が一番知ってるはずや。



「......これから先、瑛士以上の男が現れるとは限らん。
 でも、現れへんって決まったわけでもない。
 ほんで、メシの前に言うたように、翼の反応は、一般的なもんや。
 変な罪悪感なんか、持たんでええ」

「うん、遊びまくれとは言わないし、修に手は出してほしくないけど。
 ガチガチに考える必要はないんじゃないかなぁ」



そっか、初恋は実らないどころか、腐って堕ちるのが普通ってことなんだな。
それ言われたら、俺は運が良かったとしか言いようがない。

もし、これから先、瑛士さんと同じくらい好きになれるヤツができたら...。
今は、考えらんないけど、すっげ嬉しくて楽しいんだろうってくらいはわかる。

そんで、瑛士さんが忘れられなくて、次のヤツができなくても、瑛士さんにもらった想いは残ってる。



「...俺、なんか上手く言えないけど、中身がすっげガキだってことですね」

「恋愛に関して、すれてないってだけのこと。
 翼は、ちゃんと大人だよ。相手のことを思い遣ることができてるじゃない」



修さんと聡志さんの言葉は、ほんのり甘くって、じんわり温かくって。
瑛士さんのことを忘れるなんて、できっこないとは思うけどさ。

また夢を見ることぐらいはしてもいいのかな、少しだけど、そう思えた。 











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