「Blue Sky,True Mind」
秋桜、揺れる

秋桜、揺れる 8  和哉

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沖本がアパートに現れた翌週の土曜、原田たちに呼ばれて、いつもの溜まり場へ向かった。
及川が仕事でこちらに来ているから、誕生祝いを口実に集まろうと言うことだろう。



あれから、三度、沖本は訪問してきた。
一切、相手はしないことにした。
近所迷惑を考慮せずに済んだからだ。


最初の襲撃の後、隣の会社員には、菓子折りを持参して謝った。
どうやら、鷹揚な性格らしい。

「俺、ヘッドホンでゲームしてるから気にならないよ。あんたも大変だね」

肩を軽く叩いてきて、逆に慰められた。

古い二階建ての木造アパート。
自分の部屋は二階にあるが、今、一階はほとんど住民がいない。
老夫婦の大家が言うには、取り壊して立て直すにも資金がない。
今いる店子がいなくなったら、管理会社にでも頼んで手放す予定なので、新規に契約はしていない。

ひとまず、居留守を使い続けることは可能だということか。


しかし、隣には迷惑がかからなくとも、確実に体調は悪くなっている。
帰宅途中も油断できない。
いつやってくるかと思うと、部屋で寛げない。
今のところは、なんとか業務をこなしているが、支障をきたすのは、時間の問題だ。




引っ越し先をどうするか、北川たちに意見を聞きたい。
そう考えながら、バーの近くまで来た時、言い争う声が聞こえた。



「あんた、何してんだよ?」

高くて細いが、若い男と思われる声。

「邪魔しないでよ。あんたに関係ないでしょ!」

ヒステリックな沖本の声。


振り返ると、沖本と同じくらいの身長で、かなり華奢な体型の男が、沖本のスマホを指差している。
沖本は、普段の派手な服装や髪型とは違い、化粧が薄く、ジーンズにスニーカー。
髪もまとめたのか、バンダナで隠していて、声を聞くまで沖本とはわからなかった。


「さっきから、この店の入り口張ってたよな?
 興信所でもなさそうだけど、ストーカーかよ?
 脅しのネタにでもするつもりか?」


問い詰められて、沖本が逆上した。
殴りかかろうとしたので、止めようとしたが、距離が邪魔をした。


その時、信じられないものを見た。
男は避けるどころか、沖本にはわからないように、わざと殴られ、倒れた。
そして、逃げようとした沖本の足を蹴り、転倒させた。

顔を上げた男は、左頬と口の端から血を流しているようだ。


入り口の照明で照らされた男の顔を見て、思わず息を呑んだ。
流れる血の赤さが、そう思わせるのか、透明なほどに白い肌。
怯えも狼狽えもせず、冷静にこちらを見つめる瞳は大きく、闇のような漆黒。


......男だよな。
たぶん、英昭よりも、もっと背が低くて華奢だ。
印象は全然違うけど、どこか似てる。



騒ぎを聞きつけたのだろう、原田や北川たちが外へ出てきた。
原田が女を抑え、北川が男を抱き起こす。


「そこのにーちゃん、警察と救急車呼んでくれる?
 これ、縫うと思うから、病院行かないとさ」


立ち上がって、痛がりもせず自分の顔を指差し、じっとこっちを見ている。
容姿とは似つかわない、その目の力強さに、珍しく気圧された。



「翼、大丈夫?」

「あ、騒ぎ起こしてすみません。変な女がウロウロしてるから、つい」

バーの店員が救急箱を持ってきた。
翼と呼ばれた男の顔は、頬から顎にかけて、ざっくりと切れている。
綺麗に整った美しい顔に、醜い傷が強烈な印象を植え付ける。

「ファッションリングしてたから、抉れてるでしょ。
 警察来たら、病院連れてってもらって、被害届出してきます」


誰が呼んだのか、すぐに警察が駆けつけ、私人逮捕された沖本を連行。
他には目撃した者もおらず、被害程度も軽いせいか、残りの警察官もすぐに引き上げていった。
北川が被害者の男に付き添い、事情聴取に同行すると言う。
自分も行った方がいいのか迷ったが、北川が首を横に振った。

自分が行けば、沖本がここに来た理由は簡単に説明できる。
だが、それは、自分だけでなく、北川たちのことも話さなければならないということだ。
さらに、あの男がわざと殴られたように見えたと、言ってしまいかねない。
たぶん、それは、北川の企図するものではないのだ。

沖本自身が、自分の狙いを話すとは思えない。
そんなことをすれば、最大の屈辱を受けることになるからだ。

『自分に落ちない男を、脅迫するために尾行した』

あの女のプライドの高さを考えれば、簡単に口を割ることはないだろう。
「通りがかっただけ」だの、「言いがかりをつけられた」だの、ギャンギャン喚く姿が想像できた。
その性格を利用するためにも、自分は気づかなかったことにした方がいい。
被害者の男は、北川たちの知り合いではあっても、自分は話したこともない。

幸い、離れていたせいで、身分事項も連絡先も質問されなかった。
警察から見れば、ただの通りすがりということだ。
沖本との関係は、調べれば露見することとは言え、単純な傷害事件と判断されれば、警察も暇ではない。
何も自分から首を突っ込むことはない。

北川は、瞬時にそこまで判断して、自分に身振りだけで指示を与えたのだ。


「ちょっとケチついちゃったけど、先に始めといて。
 もう、英一や笙ちゃんも来るでしょ。修、頼むね。
 もう一人の主役は、ケガしてるし、終わったら、家に連れて帰るよ。
 顔合わせは、次の機会に、だね」




北川の言った通り、しばらくして、川上と及川がやってきた。
川上は、鮎川とメンバーの東野を、及川は初めて見る四人の男を連れている。


自分が原因で起こった事件だが、今、できることは何もない。

「せやから、聡志に任せとけ」

原田からそう小声で注意され、意識を切り替えた。



いつもより少し大きな個室へ案内されて、互いに挨拶を交わす。
及川が連れてきた四人のうち、若い三人に見覚えがあるような気がした。


「健太たちは、初めてやんな?紹介するわ」

原田が喋り始めた瞬間、大学の講堂が思い浮かんだ。


「あ、総代...」


つい、口から零れ出た言葉に、三人が反応する。

「え、同期の人?怜ちゃんが総代だって、知ってるってことかな?」

三人の中で少しだけ背が低い、色白の温和そうな男が、ニコニコ笑って質問してきた。
と言っても、三人ともが自分より背が高い。
残りの二人は、原田といい勝負か、少し高いくらいか。


「あ、この人、歴研の人じゃん。相田と仲良かった」

一見、日本人には見えない、華やかな容姿の男が自分を見て言った。
相田の知り合いということは、やはり、自分の同窓生だ。
そして、次々と記憶が蘇ってきた。


構内を連れ立って歩く、三人。
ファッションに関心のない自分でも、スタイルとセンスがいいのはわかった。
何と言っても、その強烈な存在感が印象に残っていた。
華があるという言葉を実感したのは、この三人を見た時だ。

そして、相田が騒いでいたことも思い出した。
現役で司法試験に合格した、稀有な二人。
相田は、予備試験に受からず、法科大学院へ進学し、修了後に司法試験に合格した。


「はい、相田とは高校でも同期でした」

「ああ、自分ら同い年やったな。
 今まで、タイミング合わへんかったもんな。もったいないことしたわ」

原田、川上、及川が興味深そうに、ニヤッと笑う。
この三人の笑いには、悪意はないことがわかっていても、次に何と言われるか身構える。



「こっちの、若い駿みてぇなのが、斎藤昌行。
 俺の大事な弟分で、SMSインディーズ時代のベース。
 今は、野上商事ってアパレル関連の会社社長だ」

紹介されて、頭を下げれば、斎藤も微笑みで返してくる。
確かに、鮎川に見た目も印象もよく似てはいる。
ただ、斎藤の方が若いはずなのに、その佇まいに奇妙な奥行きを感じさせる。

「で、こっちの温和そうな曲者は、私の雇い主。
 野上建設社長の野上健太さん」

及川の紹介の言葉に苦笑いしながら、握手を求めてくる。
最初に、自分の言葉に反応したのは、この男だ。
警戒心が強い方だと自覚しているが、野上はその警戒心を簡単に解いてしまうような雰囲気を持っている。
そういう意味では、確かに曲者かもしれない。


「俺は、斎藤怜。旧姓は海堂。健太の幼馴染兼顧問弁護士の一人」

よく通る声で答辞を読んでいた姿が、くっきりと思い浮かぶ。
全ての単位を上優で取得し、学部生で司法試験に合格した、同期ではトップの中のトップ。
しかし、本人はエリート然とした様子はどこにもなく、明るく太陽にように笑いかけてくる。

「で、俺は斎藤涼。旧姓は西田だよ。怜ちゃんとは、今は兄弟。
 同じく、健太の幼馴染で顧問弁護士の一人」

その怜と同様の成績で卒業し、どちらが総代でもおかしくなかったと言われていた男。
北欧系の血を引いているのか、瞳は翠で髪は薄茶、肌は白い。
体型は男性そのものだが、どこか中性的で、宗教画の大天使を思わせる。


冷静で動じないと言われてはいるが、目の前にいる三人とは格が違う。
健太も怜も涼も、穏やかに笑ってはいても、その若さからは考えられない凄みを感じる。
同じ男としての差を見せつけられた思いがしたが、そのことに焦りも妬みも感じなかった。

少しの差ならは、感じたかもしれない。しかし、そこにあるのは、圧倒的なまでの格差だ。


「義理だけどな。俺の自慢の息子たちだ」

低いが通りの良い声で、斎藤が言い切った。
その斎藤自身が只者でないことは、醸し出す空気からも読み取れる。


「ま、今はカタギとは言え、ヤクザの幹部を親父にしようってな。
 それも司法修習前によ。度胸があるにも程があるだろ」


呆れたように笑う、川上の言葉。
みなは知っていたのだろう、何の動揺もない。

ただ、自分を除いては。











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~ Comment ~

NoTitle

沖本ちゃん、「私と結婚すれば、全てが丸く収まるのよ! 」みたいな思考回路なのかしら・・?
和哉、女難が続くわね。

そして翼ー!!
あなたの女難、二重になっちゃた・・。顔の傷は残ることが多いのよっ。
せっかくきれいなお顔なのに。慰謝料、しっかりもらってね!
怜、涼、手伝ってあげてちょうだい。お願いします。m(__)m
きっと瑛士さんも怒るわ。  ともかく病院へGO!

でも、何が効くのかしら。 葵のもん/どころ・・じゃ無理だろうしな・・・。

お誕生日パーティだったのに~~。
美形勢揃いの、記念写真、撮りたかったのにー。


あ、笙さん!
確か一番年下だったわよね? (和哉と翼は別にして)
なのに、その貫禄。。  うっとりするなー。

Re: NoTitle

この手の人間は、「他人は自分の欲求達成の道具」でしかないのですよね。
でも、頭悪い(そんな思考回路になるくらいだから仕方ないんですが)から、結局はあんまり幸せにならないという(笑)

この時点で、和哉・怜・涼・健太は二十八歳、翼は二十四歳、瑛士・昌行四十歳、修は四十四歳、聡志・英一は四十三歳、笙は三十六歳となってます。(聡志と瑛士、笙は早生まれなので、学年は微妙に変わります)
で、駿が五十五歳...出てきてないけど、レンは六十六歳(爆)
確実に、みな歳を取ってますねぇ。

わ、メモメモ。

年齢表示、ありがとうございますー。(>◡<)。✧♡

メモって、PC横に貼っておこうっと。

あら、笙さん、女ざかりね。オトコマエだけど。

Re: わ、メモメモ。

一応、全ストーリーの主要登場人物の生年月日表と、年表はあるのです(笑)
まだ出てないキャラも話も載ってるので、ここには出せませんが。

> あら、笙さん、女ざかりね。オトコマエだけど。
↑これ、大笑いしました(爆)
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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