「Double Fantasy」
Mission 5

物語はまだ続く 4

 ←物語はまだ続く 3 →物語はまだ続く 5

ノックしたのは、鏑木小夜子だった。

真っ黒な長い髪、きちんと化粧された整った顔。
レディスはよくわからないけど、高そうなブランドのスーツ。
爪は長く、派手なネイルアートが施されている。


「三神さん、書類を受け取ってください」


及川に促されて、三神が鏑木に近寄った。
鏑木は、バッグから取り出し、封筒ごと乱暴に押しつけた。
憮然とした表情で、納得がいかないと文句を言い出す。

「なんで、私がこんなことしなきゃいけないのよ?
 私は、無茶なこと要求してないでしょ?
 自分の子供なんだから、養育費を出すのは当然じゃない!」

「まぁ、落ち着いて」


及川が鼻で笑って、戸籍謄本と住民票を眺めた。


「やっぱりね」

すぐに、自分に渡してくる。

「見てみ。メモリ読んでたらわかるはずやで」



...............何なのさ、これ。


もう、ため息しか出ないよ。



「あのさ、誠ってバカなの?」


三神と本橋がギョッとしてる。
呆れたように話す自分に驚いているのだろう。
普段、二人の前ではこんな口調では喋らない。


「誠と別れてから一年半後に生まれてるよ、この健吾君」


三神が睨んでも、鏑木は不満気な表情のままだ。


「それに、親権は父親になってる。この人が持ってるのは監護権だけ。
 つまり、この子のお父さんは自分の子供だと思ってるってこと。
 離婚の原因は別にあるはず。
 だから、養育費は要求したけど、認知までは言い出さなかったんだ」

「監護権を持っているのに、親子で住所が違う。
 実家に預けて、自分は男と暮らしてる。
 これじゃ、義務の不履行だから、父親にバレたら監護権も取り上げられる。
 当然、養育費はもらえなくなる。
 その保険のつもりで、金づる作っとこうってことでしょ。
 三神さんの他にも、被害者いるんじゃない?」


自分と及川の説明で、本橋が苦り切った顔になった。


「あんたね、このくらい調べてから悩みなさいよ!
 大樹がこんなになるまで解決できないって、大樹が言ったとおりバカじゃないの?!」


三神は、二人の迫力に圧されて、ただ恐縮している。



及川が鏑木の正面に立って、顔を覗き込む。
手をポケットに突っ込み、さらに凄みを増した笑い顔。
ヒールを履いていても、及川の方が背が高い。
鏑木が怯むには充分だ。


「でさ、あんた、お金要求したでしょ?
 立派に詐欺だよ、それ。三神さんが被害届だしたら、警察沙汰になる。
 それに、損害賠償請求もできるんだよ。
 そのくらい、わかってるよね?」

強がっていた鏑木が、途端に顔色を変えた。

「お金は返すわよ!それでいいでしょ?!」

「返金してもやった事実は取り消せないから、被害届は出せるよ。
 メールで「養育費としてはこれくらい当然よね」って、振り込み口座を指定した。
 詐欺って立証するのが難しいけど、これだけあれば警察も受理してくれる。
 あんた、迂闊もいいとこだよね」

そこまで言って、及川は三神を振り返りじっと見た。

「兄貴もそうやけど、どっか浮世離れしてんねんな、業界の人って」

及川が軽くため息を吐いた。

「被害届をどうするかは、三神さんの自由にしてください。
 ただ、犀川とはきちんと話し合ってもらいます。
 犀川の結論次第では、大阪に連れ戻しますから」


三神が力強く頷いた。
その顔には、さっきまでの狼狽や困惑はどこにもなかった。


及川が近づいてきて、頭を撫でてきた。

「あんたがついててあげやんとあかん人かもな」

そう耳元で囁いて、ニヤッと笑った。


「では、今日のところは失礼します。
 大阪に戻りますが、何かあればすぐに参りますので」

軽く頭を下げて、さっさと部屋を出て行った。
その後姿は、以前と変わらず颯爽としていて、ため息が出る。

やっぱり、カッコいいよなぁ。
俺なんかより、ずっと男らしいしさ。 



「小夜子」

ずっと黙っていた三神が口を開いた。
鏑木は、真っ青な顔で唇を噛んでいる。

「金は返さなくていいから、二度と俺の前に現れるな。
 次に何かやったら、安西さんに連絡するからな」

「やめてよ!安西に知れたら、健吾を取り上げられちゃうじゃない」

ひどく焦った顔でそう言って、鏑木は逃げるように帰って行った。




部屋の中に、安堵の空気が漂った。



本橋が椅子に座り込んで、大きく息を吐く。

「あー、緊張した。及川さんって、静かに話してるのにすごく怖いんだもん」

「うん、大樹からは聞いてたけど、あそこまでとは思わなかった」


二人の感想に、思わず笑ってしまう。

「強烈でしょ?俺、あの人に根性叩き直してもらったんです」

二人とも、納得したとばかりに、大きく頷く。


「で、もうこんな可能性はない?」

質問すると、三神が苦い顔で答える。

「ああ、小夜子のことがあったから、関係のあった女、全部チェックした。
 小夜子以外、別れてすぐに結婚したヤツも子供産んだヤツもいない」

「じゃあ、俺、出て行かなくてもいい?」

「当たり前だろ。俺は、最初から別れるつもりなんかなかったんだから」



笙さん、ありがとうございます。

すぐに言わなきゃいけなかったのに、さっさと帰っちゃうんだもん。
そこが笙さんらしいんだけどさ。
面と向かってお礼なんか言ったら、「このくらい、自分で何とかしろ」って言われそう。
照れ隠しなんだけど、半分は本音だから、怖いんだよ。

後で電話しよう。ちゃんと、言葉にしなきゃね。
それと、東京に残りますって言わないと。


『あんたがついててあげやんとあかん人かもな』


そう言ってたから、残るってわかってるとは思う。


って.........!!


笙さんにはお見通しだったってことじゃん!
誠が抜けてるのも、俺たちが別れないのも。

笑ってたもんなぁ。
あー、恥ずかしいったら...やっばり、笙さんだ。



状況は好転したけど、会社はやっぱり辞める。
続けるのは、もう無理だ。
それがわかってたから、笙さんも「大阪に連れて帰る」って言ったんだろうしな。
転職先...笙さんなら、東京でもツテはありそうだけど、そこまで甘えちゃダメ。
あんなに悩んでたのに、たった一日で解決してくれたんだもん。



「大樹、会社辞めるつもりなの?」


本橋が真面目な顔で、質問してきた。










にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ 3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ 3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ  3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ  3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【物語はまだ続く 3】へ
  • 【物語はまだ続く 5】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【物語はまだ続く 3】へ
  • 【物語はまだ続く 5】へ