「Double Fantasy」
Mission 1

うさぎは淋しくても死なない 13

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ベッドに寝転んで、この一年を思い返してみた。


転勤してくるまで、ゲーム感覚で出世しようと働いていた。
その自分の小賢しさを恥じ、仕事に真剣に向き合うようになった。
能力のある人間が集まるとスムーズに仕事が進み、心から仕事が楽しいと思うようになった。
自分のことで精一杯だったのが、他の人間のことを考えるようになった。

そして、家族にべったり依存するのをやめた。


うん、俺、変わったよな。
大阪に来て、少しはマシになってきた。

それは、岡野さんと笙さんの影響が大なのは、わかりきってること。

普通の人間なんだから、岡野さんにも弱いところがあって当然なんだ。
俺、好きと尊敬が重なって、神聖化してたのかもしれない。


及川の話を聞いて、自分が感じたことは間違っていないと確信した。

ゲイである自分とは違った種類の孤独を背負って、岡野は嫌いな人間ばかりの職場で生きていく。
一人孤独を抱いて、誰に心を許すこともなく、ヴァーチャルな世界に逃げ続ける


ふと、智也を思い出した。


生理的に受けつけなくても、一人では淋しい、そう言ってた。
だから、瑞樹ちゃんと出会ったのは、智也さんにとって奇跡みたいなことだったに違いない。

岡野さんにとって、笙さんはそういう存在に近かったんだろうな。
もし、岡野さんにも他の世界があったなら、二人は職場で「いいコンビ」と言われはしても、あそこまで近づきはしなかった。
笙さんが独身だったら......お互いに警戒して、ただの先輩・後輩で終わったんじゃないかな。


笙さん、言ってたもんな。

『職場に恋愛なんか持ち込んだら、仕事になんない。他人はどうあれ、私には無理』

あの生活感のなさは、「普通の主婦らしくない」それだけが理由じゃないんだ。
徹底したプロ根性を持ってるからだ。

自分にしかできない仕事がある時は、どんなに体調が悪くても出勤してくる。
仕事は嫌いでも、給料をもらってる以上は働く、働くことに邪魔になるものは排除する。
それには、自分のプライベートも含まれるんだ。
だから、人に聞かれない限り、旦那さんのことは話さない。
飲んでても、趣味の話以外、会社のことしかネタにしない。

職場にいる時や職場の人間と飲む時は、完全に仕事モードで通してる。

そんな人、うちの会社にそうそういない。
男の人でさえ、家庭での愚痴や子供の話はするし、自分の仕事なのに他人に押しつける人もいる。

だから、いろんな人に信頼されて、多少の無理は聞いてもらえるようになったんだ。
観察眼を活かして、懐に飛び込むのが上手いだけじゃない。
それだけだったら、信頼までは勝ち取れない。
よそに無理を頼んで、気安く引き受けてはもらえない。


そりゃあ、岡野さんが惹かれるはずだよ。

笙さんが仕事モードに徹してるから、同じ世界の住人だって思い込んじゃったんだ。
ちょっと考えればわかることなのに、あまりにもシンクロするから、気づかなかったのかな。


考えていくうちに、岡野への怒りが消えていく。
ただ淋しさと岡野への同情だけが、心に湧いてくる。


ほんとにバカだなぁ、岡野さん。

俺と違ってノーマルなんだから、少し勇気を出せば、幸せが手に入るかもしれないのに。
このまま、オタク道まっしぐらって、年食ったらきついよ?
ギルドの人達が言ってたもん。
四十過ぎた辺りから、目や指がついていけなくなって、やめていく人が多いんだってさ。

原田さんだって結婚してるんだから、子供でもできたら相手してもらえなくなるよ。
一人で大丈夫って言うんなら、最初から関わらなければいいのに。
俺はまだしも、笙さんを切るの、つらかったでしょ。


痛み分け、そんな言葉が頭に浮かんだ。


少なくとも、気持ち悪いとは言われなかった。
俺が近づきすぎたから、慌てて逃げ出しただけ。
あの人の弱さに気づかなかった、俺も迂闊だったんだ。


原田さんと二人だけじゃ、あの世界は泳ぎきれない。
仕方なく、知らない人と組んで、ストレス溜めるに決まってる。
逃げ込んだ先にも、ストレスが待ってるんだ。
そう思うと、笑えてくる。


まぁ、頑張って。
次に会う時までには、この痛みもなくなってると思うからさ。


そう考えるようになって、気が楽になると同時に及川への感謝の思いがわく。


こんなにショックなのは、日高さんの時以来だった。
あの時は、初めてだったし、高校生のガキだったからすごく凹んだ。
今なら笑えるんだけど。

今度は、吹野の時みたいに、引きずることはないと思う。

笙さんが毒を抜いてくれたって感じがする。


やっぱり、女の人の方が強いのかなぁ。
瑞樹ちゃんは、自分にしっかり向き合って、俺のことまで守ってくれた。
笙さんも、自分だってつらいのに、俺のこと考えてくれた。

あんな強い女の人を守らなきゃなんない、ノーマルの男って大変だよな。
俺、絶対に無理。


そんなことまで思うようになった自分に気がついて、自然と笑えてきた。



月曜からは新人が来る。
落ち込んでなんかいられない。
どんなに大変だろうと、きっちり仕事してる笙さんに申し訳ないもん。

しばらくは、岡野さんを思い出して、心がチクっとするだろうけど。
あの二人の背中を追っかけた一年を、無駄にはしたくない。
プライベートはどうでも、岡野さんが仕事ができる人なのは変わりない。


明日は、久しぶりに大掃除でもしようっと。
ついでに、心の中も片づくといいんだけどな。










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