「Double Fantasy」
Mission 1

うさぎは淋しくても死なない 9

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「今のうちに三人で飲もう」

二月の最終金曜日、岡野がそう言い出した。
久しぶりに、岡野、及川の二人と飲む、それが嬉しくて仕方がない。


「ミニオフ会ってとこだな」

岡野は笑っているけれど、ミニオフ会という言葉にひっかかった。

もしかして、三人でって、岡野さん、原田さん、俺ってこと?
笙さんはどうして誘わないんだろう...。


心の中にポツンと染みができたようで、気分が落ち着かない。
及川は聞こえていたはずなのに、何も言ってこない。


絶対に、おかしいよ。
あんなに仲良かったのに、どうしてこんな風になっちゃったんだろう。
俺、笙さんも別の意味で、大好きなのに。


仕事中だから考えないようにしようとしてるのに、気を抜いたらすぐに二人のことを考える。

及川は、いつものように飄々として、他の人間とは普通に話している。
岡野にも、一見、以前と同じように話してるように見えるが、二人の間には見えない壁があるようだ。
どちらかと言うと、岡野の方が意識して線を引いてる気がする。


原田の都合で、いつもの店には行かなかった。
反対方向に住んでいるから、会社近くの居酒屋で済ます。

「嫁に遅くなるなって言われてるんです。すいません」


え?原田さんも結婚してるの?
笙さんといい勝負で、結婚してるように見えないけど。


ポカンとしていたのに気づかれたのか、岡野が笑って説明した。

「原田は同期と結婚したんだ。新人の時、俺の下にいた」

じゃあ、笙さんと一緒?

「まぁ、あいつの教育係は、岡野さんじゃなくて笙でしたけどね」


原田が茶化すように言うと、岡野は苦笑いしただけで答えない。
原田もおかしいと思ったらしく、それ以上は話すのをやめた。


原田さんもわからないんだ。
岡野さんに直接聞くのは、ものすごくマズい気がするしなぁ...。



原田が帰る時間になって、解散するのかと思っていたら、岡野が次の店へ移動した。

「まだ、時間早いだろ。もう一軒、つきあえ」

うーん、聞きたいことはたくさんあるけど...。
聞かないでおこう。
岡野さんの顔が、少し淋しそうに見えるから、ただ黙って聞くだけにしよう。



地下鉄を乗り継いで、次の店に移動した。
行き着いたのは、キタのショットバーだった。
酒の種類はたくさんあるが、内装に凝っているわけでもなく、値段も手頃。


岡野さんがこんなとこ来るなんて、意外。
ビールか日本酒しか飲んでるとこ見たことないもん。
笙さんは、結構飲むんだよね。
ジンやウォッカ、ブランデーが好きだって。


「ここさ、笙が学生時代によく来てたって、連れてこられたことがある。
 実は日本酒もあるんだ。メニューには載ってないけど」

岡野はそう言ったが、日本酒ではなくタンカレーのジンをロックで頼んだ。
及川がよく飲んでいた酒だ。
自分はジンが苦手だから、ウィスキーを頼もうとしたが、種類が多すぎて選べない。


こんな時は、知ったかぶりするより、お店の人に聞いた方がいいよな。

「すみません、ウィスキーで飲みやすいのをお願いしてもいいですか」

「はい、では、グレンフィディックのストレートをチェイサーと一緒にどうぞ」


すっと出てくるところが、さすがプロって感じ。
水割りやロックにしないのは、一番美味しい飲み方なんだろうな。



しばらく黙って二人でちびちび飲んだ。

俯いていた岡野が、顔を上げ視線は合わさずに呟いた。


「どうして、恋愛抜きでは、一番になれないんだろうな」


ここで、何か気の利いたことを言えるほど、人生の経験値は高くない。
及川のことを言ってるのは、わかりきっている。
しかし、はっきりとした意味が掴めずに、ただ黙っていた。


最初、二人はつきあってると思った。
笙さんが結婚してるって驚いたけど、よく見てると確かに色恋は感じなかった。


岡野さんには、彼女がいない。
それどころか、今まで、まともに女の子とつきあったことがない。
会社でも寄ってくる女の子が何人かいたけど、少しでもそういう気配を見せたらシャットアウトしてた。
そう、笙さんから聞いてる。
自分との関係が続いてるのも、一切、色がないせいだ、とも。



この人は、俺と同類だ。

もちろん、ゲイってわけじゃない。
人との関わり方が似てるんだ。

他人をずっと警戒してきたから、信頼できる人間は限られる。
一人で生きていくと思いながらも、誰かわかってくれる人間を探してる。
一人でいいから、自分のことを一番大事にしてくれる人間を探してる。

ゲイの俺と違って、いくらでも機会はあったはずなのに、笙さんと出会ったことが裏目に出たんだ。


「魂の双子」、そこまで言い切れる人間なんか、そうそういない。
でも、笙さんの一番は旦那さん。



「俺じゃダメですか」



ポロッと口に出していた。
岡野の顔があまりにも淋しそうで、心が痛くなるほど切なくなって。


岡野の表情が消えた。
マズいと思って、すぐに誤魔化した。


「恋愛抜きでしょ?俺、岡野さんが一番好きですよ」

「驚かすなよ。心臓が止まるかと思った」


岡野は、苦笑いしてグラスを持ち上げた。

その指はいつもと同じように、整っていて。


はぁ、誤魔化せたかなぁ。
ものすごく、ヤバかった。マジでヤバかった。
飲み過ぎて、本音が出ちゃったのかな。
でも、あんなに淋しそうな岡野さん見てたら、なんとかしてあげたくなったんだ。


「これ飲んだら帰るか」

また浮かんできた淋しさを消さないまま、岡野が微笑んでそう言った。










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