「Double Fantasy」
Mission 1

うさぎは淋しくても死なない 7

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「あんまり張り切ると息切れするよ」


岡野が研修でいなくなった初日、及川が宥めるように話しかけてきた。


そんなこと言っても、岡野さんいないんだから頑張らなきゃじゃん。
いくら笙さんが仕事できるからって、頼りっ放しはマズいよ。
無理させて倒れられたら、そっちの方が困るしさ。
岡野さんの夏休みの時みたいに、真っ青な顔で仕事してるの見たくないよ。
俺がミスしたせいなんだけどさ...。


「もう、システム改修の影響はなくなってきてる。
 新しく増えたのは、あんたが担当してる業務だけでしょ。
 それも、大した量じゃない。
 だから、元の暇な部署に戻るだけ」

笙さん、どこまでも冷静...。
でも、岡野さんの分はどうするんだろ。

「大丈夫、天野さんも真鍋さんも手伝ってくれるから。
 あんたも慣れて、なめた仕事しなくなったしさ」

サラッと言われて、グサッと刺さった。

「それは、もう言わないでくださいよ。反省したじゃないですか」

「はいはい。まぁ、肩の力抜いて、楽しくやろう」



実際、勢い込んだものの、せいぜい三十分から一時間の残業で済んだ。
それも、会議や出張、休みなどで、人手が足りなかった時だけ。
普段は、ほぼ定時に終わる。


「ね、言ったじゃん。そんなに焦らなくても、なんとかなるもんだよ」


一週間が終わって、及川がニヤッと笑った。


この人、全体の業務量と全員の能力把握して、仕事の割り振りしながら自分の仕事してた。
首席も統括も、何を手伝えばいいのか悩まなくて済んでるし、部下の笙さんから言われても素直に聞いてた。

すげぇや。岡野さんが言ってた通りじゃん。



『思考回路は同じだけど得意分野は違う。あいつは全体を見て仕切るのが上手い。
 それに、上のウケがいいせいか、新人の頃から平気で仕切ってたけど、睨まれることがなかった』

コミュニケーション能力が高いってことか。
顔が広いのは当然だ。


『俺にはそれができない。仕切るためには、嫌いな人間とも必要以上の話をしなきゃならないから。
 仕切ってる人間をフォローする方が得意なんだ』


この部門の業務は個人個人でやることが多いから、それほど感じなかった。
でも、この二人が現場で組んでいたなら、それはスムーズに進むだろう。
「二枚刃」の通り名がつくわけだ。


「真鍋さん、天野さん、予定ないなら行きましょう」

及川が首席と統括を飲みに誘っている。


俺は誘われないの?
なんか、複雑。
確かに、今は飲みに行っても岡野さんいないから、DFやりたい方が強いけど。
ギルドの人達が、ダンジョン連れてってくれるって言ってたし。
でも、スルーされるのもなぁ...。


「犀川は誘わんのか」

天野がすぐに気づいて、及川に聞いている。

「犀川、今はゲームの方が楽しいでしょ。
 おっさん、おばさん相手に飲むよりは、ね」

「いや、そんなこと...あります」

素直に頷くと、及川に頭を軽くこづかれた。

「岡野さんからメール来たんだよ。ハマりかけだから、飲みに誘うなって」

「次は絶対に行きますから。誘うの止めとかナシですよ」


わかってるって顔で、及川が頷いたから、帰る準備を始めた。
三人を見送って、端末やサーバーを点検して、自分も帰る。


岡野さん、俺がゲームも頑張るってわかってたんだ。
わざわざ、及川さんにメールまでしてくれるって。
ほんっと、優しいよなぁ。

すっごく嬉しい。
会えなくても、一緒にできなくても、こんなに嬉しいことないよ。
俺、DF始めて、良かったぁ。
岡野さんが戻ってくるまでに、レベル合わせよう。
ちゃんと、役に立てるように。



いつもの時間にログインして、スカイプを立ち上げる。
すぐに誘いが来て、グループ会話に参加した。


「サイッチ、ダンジョンの位置はわかる?」

挨拶もそこそこにマスターから質問された。

「はい、ウィスタル平原からポパーダ原野へ出てすぐのとこですよね」

ちゃんと、前もって調べておいたんだ。
手伝ってもらうんだから、そのくらいはしないとね。

「うい、じゃあ。来れる人は入り口に集合。私は狩人で行く」

「俺、白騎士やろうか」

「ルドさんが盾やるんなら、俺が白魔やる」

「ユエさん、白か。じゃ、俺は黒魔で、リチさんと範囲攻撃で殲滅しよう」


このギルドって、チームワークいいよな。
いつも、すぐに役割分担が決まるもん。

「今日は、サイッチの装備取りが最優先ね。
 取れて時間があれば、ジョブチェンして経験値稼ぎしよう」

マスターの仕切りも完璧なんだよな。
なんとなくだけど、笙さんに似てるんだ。


ギルドハウスから、貸し騎馬に乗ってダンジョンへ急ぐ。
自分の馬を持てるのは、最初のミッションをコンプした後。


入り口で待ってたら、ぽつぽつと四人がやって来た。

ルドさんはエルフの男、ユエさんはヒューマンの男、ジュピさんはピューマの女だったよな。
ジュピさん、このキャラメイキングは、やっぱりオタク確定。
猫耳に尻尾で、グラマー過ぎないもん。
オタクって、大人ぼい体型、あんま好きじゃないもんな。
童顔に巨乳なら別だけど。


五人揃ったら、Ritiが説明を始めた。

「ここのダンジョンのNMは、時間ポップと抽選ポップで、時間は十五分間隔。
 この二種類で、低レベル白魔術師用のいい装備が揃うんだ」

NMって、ノートリアスモンスターのことだよな。
時間ポップってのは、一定の時間が経てば必ずポップするヤツか。
抽選ポップってなんだろ?
調べる時間あるかな。

「普通のモンスターを倒した後、一定時間したら次のが出現するよね。
 それが普通のかNMか、ランダムで決まるのが、抽選ポップ。
 時間ポップのを狩りながら、合間に抽選狙いね」

「NMのドロップ品は、必ず落とすのとこれまた抽選のとあるけど、ここのは絶対に落とすやつ」

マスターの説明にYueroonが補足した。


なーんか、笙さんと岡野さんみたいだ。
笑いそうになったけど、通話中だからなんとか堪えた。


「んじゃ、しゅっぱーつ!」

マスターの掛け声でダンジョン突入。
自分以外の全員で、ガンガン敵を殲滅しながら進む。
モンスターが低レベルだから、高レベルの白魔術師が一発殴っただけでも倒せてしまう。

暗い洞窟のような通路を抜けると、あちこちに鍾乳洞と沼がある、不気味な場所へ着いた


「ちょい、サーチするわ」

サーチ、えっと、ああ狩人だけが使える能力だ。
マップにどのモンスターがいるかマーキングされるんだよな。


「いた、時間ポップ。西に移動」

そこには、普通のより一回り大きくて色の違うモンスターがいた。
Rudolfが注意を惹きつけて、RitiとJupiterが範囲攻撃で、周りの敵ごと簡単に倒す。

一匹目はあっさり倒して、白魔術師のローブとボトム、靴をゲット。


これ、レベル12から20まで使えるんだよな。
ショップのや職人製より、性能いいんだ。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。さっ、次行くよ。
 わいてないから、殲滅しなきゃ」


サクサク進めようとするところも、笙さんぽい。
こういう人がリーダーに向いてるんだろうな。


その日は、抽選ポップがなかなか出現せず、全部の装備が揃うまで時間がかかった。


「よっしゃ、これで全部揃ったね。いい時間だから、戻って落ちるわ」

「そうだね、俺も落ちる」

「リチさんとルドさんが落ちるなら、俺も落ちようかな。ユエさんは、地下サークル?」


Jupiterの質問の意味がよくわからなくて、ノートで調べようとしたら、Yueroonが説明しだした。

「地下って、ランクを上げて特定のミッションをコンプすると、行けるようになるダンジョン。
 各地のダンジョンと地形は同じだけど、モンスターの種類もレベルも全然違うんだ。
 最高ランクの装備や貴重アイテムを落とす代わりに、攻略が難しいし多人数じゃないと無理」

「ギルドは一つしか所属できないから、攻略サークルに入るのね。
 専門のギルドがあるけど、廃人ばっかだし、楽しくないから。
 で、今のところ、入ってるのはユエさんと私だけ。別のとこだけど」

あー、あのウェディングドレスみたいなの、そこでドロップするんだった。
早く行けるようになりたいなぁ。

でも、あんまり早く進んじゃうと、それだけ終わりが近くなるよな。
うん、仕事と同じ。焦らない、焦らない。


「スカ、落とすよ。おやすみー」

「おやすみなさい」

言い終わる前に、Ritiが通話切断したのが、また可笑しくて。
装備が揃ったのが嬉しくて。



岡野さんに、レベルと装備の報告しようっと。


『おめでとう、よかったな。いいギルドに誘ってもらったみたいで、安心した』

短い返事でも、文字を見てるだけで心がじわっと温かくなる。


絶対に、メールには書かないけど。

早く帰ってきて下さいね。淋しいです。










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