「Time After Time」
午後五時の入場開始

午後五時の入場開始 10   冬威

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隣の伊織が生欠伸をしている。

いつもなら既に寝ている時間だ。
滅多に人混みの中には出ないから、疲れも激しいのだろう。

右手で肩を抱き寄せ、自分にもたれ掛からせた。
左手で顔を覆い、寝るように促す。

到着までの少しの時間でも、眠ればマシになるはずだ。

伊織の体から力が抜けて、ゆっくりとしたリズムの呼吸に変わった。


眠ったようだと安心して顔を上げれば、バックミラー越しに洋一と目が合った。
ニッコリと笑う表情には、悪意はもう欠片もない。

声をかけようとしたら、信号待ちだったせいか、洋一が人差し指で唇を押さえた。
そっと寝かせておいてくれ、そういうサインのつもりだろう。
助手席の幸宏も、伊織が寝ていることに気づいているのか、行きのようには喋らない。

起こさない程度に、伊織の腕や手のひらをマッサージしてやる。
疲れが溜まりやすい伊織のために、加代に習ったのだ。
こうしておくと、少しはマシなようで、頭痛を訴える回数が減ってきた。



いつの間にか、眠ってしまったようだ。
エンジン音が消えた気配で、目が覚めた。
伊織を見ると、瞬きしている。
ゴソゴソとポケットから、携帯を取り出した。

窓ガラスをコツコツと叩く音がする。
見慣れた弟の顔が、そこにあった。


「はじめまして、皆さん。澤井冬威の弟の村尾七海です。
 他のメンツは、部屋へ荷物運んでます。
 ご案内しますんで、ついてきてください」

「早かったな。後に出たのに」

「全員、年甲斐もなく興奮してたから、テンション高いまんまだったんだよ。
 高速で、結構、スピード出しちゃった。
 それに、運転してるのが、こっちに慣れてるヤツだったからね」

「事故らずに済んでよかったよ」


ホッとした顔で言うと、七海がのんびりとした声で笑う。


「笙と要がいるのに、ヤバいことにはならないってば。
 ま、とにかく部屋へ行こうよ。
 みんな、待ってるよ」




マンションのエントランスで、七海が部屋番号を入力している。
すぐにオートロックが開いて、エレベーター前へ。
そこでも、また部屋番号を入力し、エレベーターが開く。
暗いので外観はわからなかったが、かなりセキュリティの厳しい、高級マンションのようだ。


「お久しぶりです。まずは、お茶でもいかがですか?」


玄関を入ると、すぐに女性の声が聞こえてきた。

女にしては少し低めの、冷静な口調で、確かに「女の子」のイメージはない。
その印象は、姿を見て、さらに深まった。


「エイチ、そっくり」


洋一が、小さな声でポソっと呟いた。
伊織は、クスクスと笑い出す。

画像で知っていたとは言え、生身を目の前にすると、洋一の気持ちがよくわかる。
身長は、英一とほぼ同じくらいだろう。
華奢で首が長いところも似ている。

笙の方が、若干、肩幅が狭いし、腰の位置が高い。
そこは、やはり、性別の差だろうか。


「そうだろ?俺も最初驚いたんだ」


幸宏が洋一に相槌を打つ。
笙は微笑んで、リビングへと促した。

すぐに、笙が夫と一緒に、飲み物を持ってくる。

七海のパートナーの烈、バンドリーダーの昇平、顔だけでなく、体格もルイに似た由人。
そして、穏やかで知的な風貌の要、今まで弟を支えてくれた、面々。


「烈君以外は、はじめまして、だね。
 今日は、お招きありがとう」


口々に、「はじめまして」と挨拶を返し、頭を下げてきた。


「伊織さん、うちの旦那の折島要。幼馴染の嘉納昇平と坂井由人。
 んで、澤井さんの弟の村尾七海さんとパートナーの江藤烈さん」

「冬威のパートナー、相馬伊織です。よろしくね。
 冬威は説明要らないよね?ああ、笙ちゃんは、幸宏知ってるか。
 一番若いのが、うちで働いてくれてる洋一」

「幸宏の説明は、みんなにしてあるよ。
 転活するかもしれないし、うちのメンバー、業種がいろいろだから」


幸宏が動揺するかと心配したが、特に焦っている様子はない。
既に笙とは会っていて、信頼しているからだろう。


「川瀬幸宏です。よろしくお願いします」

「はじめまして、笹井洋一です。
 伊織様付きとして、相馬家に仕えています」


ヒューッと小さな口笛の音がした。
どうやら、由人が吹いたようだ。
その仕草までルイによく似ている。


「そない、堅い言い方せんでもええで。
 会社の部下でもあるまいし、REALのファンやねやろ?
 俺は、REALが一番ちゅうわけやないけど、優児のギターは好きやしな。
 おんなじライブを楽しんだもん同士で、仲良うしようや」


昇平が、リーダーらしく、洋一を気遣った。

六人全員、個性はバラバラに見えるが、結束が堅いのは強く感じる。



「軽く蕎麦食べて、少し休みましょう。
 伊織さんたちは、隣の部屋を使ってください。
 ここと隣は、今回、特別にプライベートで貸してもらえたんで、遠慮なく」


驚いたことに、出された茶を飲んでいる間に、蕎麦が出来上がっていた。
しかも、出汁の香りが良く、かき揚げは揚げたてだ。


「うちの旦那、料理が趣味なんで、そこそこイケると思いますよ」

「お前と要が作るもんで、不味かったことあるかい。
 珍しくよそ行きやな、笙」

「初対面の人がニ人もいてはるやん。
 昇平、あんた、ビールだけで、もう酔うてしもたん?」

「ああ、こいつ、ずっと禁酒しとったやろ?
 せやから、回るん早いんや。
 蕎麦食わせたら、すぐに部屋に運ぶ」


笙と由人が、昇平の世話を焼くのを、弟と烈は楽しそうに見ている。
いつも、こんなふうに過ごしてきたのかと、自分まで楽しくなった。


「由人君は、ルイさんによく似てるよね」

「マジっすか?めっちゃ嬉しいっす!!」


背筋を伸ばして返事をする由人を、遮るように昇平が主張する。


「ギターは、俺のんが似てますよ!
 全曲、完コピしてますからね!!」

「はいはい、わかってるから、あんたの「ルイさん愛」は。
 おとなしくこれ食べて、寝なさい」



胃の弱い伊織には、量を少なめにして、かき揚げは別皿にしたものを渡している。
大根おろしも添えてあり、気配りの細やかさに感心する。


「こんな賑やかな年越しも、楽しいね」


疲れているはずなのに、ニコニコと嬉しそうな顔する伊織。
隣にいてくれることを、感謝しながら、蕎麦を味わった。











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