「Time After Time」
午後五時の入場開始

午後五時の入場開始 6   冬威

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大掃除の終わったリビングは、いつもにも増して、明るく過ごしやすくなっていた。


「みんな、ありがとね。また一年よろしく」


ニコニコと嬉しそうな伊織が、笹井の人間に挨拶する。
笹井の三人は、深々と頭を下げて、伊織の好意に応える。

これまでも、ずっとこうしてきたのだと、当たり前のことが微笑ましく思えた。


一方、幸宏はと言えば、相談を切り上げた後、明るい顔をしていたのに、また暗い表情に戻っている。
車の中でも、何か考え込んでは、怒りが湧いたようで、表情にわずかながら出ていた。

自分の中で整理できるまでは、伊織には話さないだろう。
増して、自分には相談してこない。

しかし、洋一になら、もしかしたら話すかもしれない。
伊織もそう考えたらしく、帰って早々、自室へ行こうと促された。


「少し、冬威と話したいことがあるんだ。
 夕食は、みんなで一緒がいいな。
 加代さん、いつもの時間でお願い」


そう言って、さっさと移動してしまった。





「...頭で納得してただけって、気がついたみたいだね」


幸宏のことだとは、すぐに理解した。
ただ、詳しい内容までは、考えが及ばない。


「んーとさ、僕は卓也君を直接は知らないから、経験を踏まえての想像だけど」


そう、前置きして、伊織が語り始めた。



さっきも説明したみたいに、親が一番身近な例になるのは、多くの人に共通するよね。
僕自身、父は全国各地に愛人がいるような人だったから、そんなものだと思ってた。

そんな父を憎いとも嫌いだとも思ってないのは、母がそれを許容してたからだと思う。
本心はわからないけどね。
自分も医師として忙しくしてたし、「亭主元気で留守がいい」タイプだった。
そして、父は、母のことを「同志」として尊重してた。
僕たち子どものことは、ご覧の通り、贅沢いっぱいに育ててくれたしね。

君と僕の違いは、そこだと思う。

お父さんを悪く言っては申し訳ないけど、お母さんや君たち子どもへの暴力なんて、最低だと思うもの。
だから、君がお父さんを良く思えないのは、当たり前のこと。

で、幸宏は、自分でも言ってたとおり、ご両親が珍しいくらいに仲が良かった。
好きな相手には、誠実に向き合って、精一杯に愛情を示すのが当たり前だと思ってる。

だけど、卓也君はどうだろう?

卓也君のお兄さんは、奥さんのご両親、つまり、大樹君のご両親に、より心を開いてるらしいんだよね。
卓也君自身も、お兄さんも、自分の両親には、話せない秘密を抱えてた。
それを明かさないまま、亡くなったらしい。
ごく普通の家族っぽいけど、その分、抑圧は厳しかったんじゃないかな。

そして、いろんな情報を総合してると、卓也君て、どうも「無自覚に相手を支配する」タイプっぽいんだ。
自覚がないから、本人は悪気がない。
幸宏の「自分のせいだ」って思い込む性格が、それを助長してる。

遠恋は、確かに、幸宏が原因だけどさ。
いくらでも、解決方法はあったはずなんだよ。

養われるのがイヤって言うなら、卓也君の方が先に動いてもよかったわけでしょ。
できなかったとは言えないよね?
だって、浮気相手と離れるために、こっちに転職するなんて言い出してるんだしさ。

幸宏を手放したくないんなら、自分も努力しなきゃ。
なのに、自分は、したい仕事も幸宏も手放さずに、幸宏だけに選択を迫ってた。
はっきり言わないだけでさ。

幸宏の潔癖気味なところも、卓也君とつきあい始めてからじゃないかな。
他人に触られるのが嫌いで、それを幸宏にも要求してたらしいしね。


 ......幸宏自身、無意識だったんだろうね。
 一見、幸宏の方が気が強く見えるし、始まりが卓也君からだったからさ。
 あの子は、卓也君に嫌われないように、必死に努力してきたんだよ。
 まだ、高校生だったんだもの。たった一人で淋しかったろうに。
 卓也君に縋って、でも、最後の最後で、安全装置が働いてた」



ああ、そうだろうな。
彼も、一人っ子とは言え、長男だ。



「自分で稼ぐってことが、完全に依存しないでいられる、最後の砦になってたわけだ」

「そう。君なら、わかるよね。
 で、距離を置いて、どんどん冷静になってきたところに、洋一が告った。
 それをスルーできないことで、卓也君に対しての本音に気づきつつある」

「許すにしても、別れるにしても、はっきり自覚するのは、いいことじゃない?
 彼の性格なら、今度もなし崩しになんかしてたら、病気がひどくなりそうだ」

「君、カウンセラーになれそうだよね。
 僕が心配してるのは、そこだったんだ。
 だから、洋一のフライングは、実はありがたかった。
 より、卓也君を相対化できるからね」



伊織が、洋一の告白を楽観的に考えているのは、意外に思えた。
使用人であり、甥のような弟のような、近い存在。
大事にしているのは、傍目でもよくわかる。

表情に出たのだろう。
微笑んで、首を横に振る。


「洋一は大丈夫だよ。あれは、わかってて言ったと思う。
 ああ見えて、コミュニケーションスキルは高いし、そこそこ遊んでもきてるからね」

「伊織さんがそう言うんなら、安心だね。
 俺としては、会ったことのない卓也君より、洋一君に味方したくなってるしさ」


今度は、クスクスと声を上げて、伊織が笑う。

その肩を抱きながら、幸宏は、今どうしているのかと、ふと思った。











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