「Time After Time」
午後五時の入場開始

午後五時の入場開始 5   幸宏

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ニューオータニからの帰り道、後部座席で、前の二人を見ながら考えた。



俺、もしかしたら、伊織さんに、失礼なこと言っちゃった?

養われるのがイヤなのは、俺のちっぽけなプライドだと思ってたけど、他にも何かあるのか?



いや、伊織とは状況が違うのだと、無意識に首を横に振る。
実家の財力に守られているのは、単純に養われているとは言い難い。

さらに、本人の能力を考えれば、自活することも充分に可能なはずだ。
それをせずに済んでいるから、しないだけのこと。


最初に焦ったことは解決したが、次に浮かんだのは、そうかもしれないと気が重い。


もし、卓也が病気で働けなくなったとしたら......当然、自分は助けるだろう。
それが長期間に渡ったとしても、すぐに復職できなかろうと。

自分ではそう思えるのに、卓也にはそれを許さなかった。
プライドが大事なら、さっさと転職活動をすればよかったのに、それもしなかった。

高島との浮気についても、卓也を盗られる焦りがあるにはあった。
しかし、もっと大きなショックは「高島に負けた」ことではないだろうか。

今まで、考えないようにしてきたことが、少しずつ心を侵食してくる。



あんなに、卓也のこと好きだと思ってたのになぁ。
高島のこと聞いただけで、もしかして、冷めちゃってるのか?



長い間の遠距離恋愛で、ただ執着だけを残しているのではないか。

そう考えてしまうのが怖くて、目を背けてきたのではないか。


最初の頃の必死さは、いつの間にか消えていった。
忙しさを言い訳にして、たまに会えることで満足していた。
卓也もそう見えていたから、積極的に大阪へ戻ろうとはしなかったのかもしれない。

忙しさの嵐が過ぎ去って、やっと足元を見る余裕ができた。
卓也のことを好きか嫌いかと、自分自身に問えば、もちろん「好き」だと言える。


しかし、その卓也は、自分の知っている卓也とは違ってはいないか。


一見、穏やかなように見えて、他人に対して容赦がない。
気を許していない人間には、わからないように距離を置く。

似た者同士だから、すぐに互いを理解した。
そして、表面に冷たさが出てしまう自分より、卓也の方がより厳しい。
内村や葛西のような、ごく近い関係の者しか知らない、卓也の本質。

その卓也が、高島を一晩だけとは言え、受け入れた。

本人や内村が言うように、淋しさからの気の迷いかもしれない。
しかし、それだけとは言い切れない部分がある気がして、ひっかかるのだ。


自分が、もし、卓也の立場なら......。

あれだけ悩まされたのに、また近くに来たら鬱陶しいと思うだろう。
例え、マンションのエントランスに現れたとしても、追い返すはずだ。

二人で暮らしていたマンションだ、そこに招き入れるなど身震いがする。

と、そこまで考えて、やはり、卓也が変わったのだと思い知る。
そして、記憶の底に沈んでいた、あることを思い出した。



俺の潔癖症の原因は、卓也、お前じゃんかよ。





卓也の告白から始まった、二人の関係。

慎重さと幼さが同居した、頭でっかちな二人。
体の繋がりができるまでは、告白から時間がかかった。
奥手の卓也が、受け入れる側の自分をどう扱えばいいのか、悩んだのだ。

現在のように、ネットで自由に検索できる時代でもなかった。
研究室にしかパソコンはなく、履歴が残るのはまずい。
ゲイのネットワークに参加していたわけでもなく、他に同類の知り合いもいなかった。

ただ、なんとなく男女のようにはいかないとは、わかっていた。
結局、勇気を振り絞って、その手の雑誌を遠い神戸まで買いに行った。
京都や大阪は、知り合いに遭遇する可能性があるからだ。

コンドームを買うまでは良かったが、ローションなどどこに行けば手に入るのか。
試行錯誤して、なんとか繋がることができた時、喜びよりも安堵が大きかった。

自分の体に配慮はしてくれた。
だから、毎回のように挿入するまではしなかった。
特に、翌日に響くことがあってからは、より慎重になった。


卓也が自分のアパートに泊まる時は、必ず、二人ともシャワーを浴びた。

セックスの前だからというだけではないのは、しばらくしてから気がついた。

卓也は、他人に触られることを嫌がった。
それは自身だけでなく、つきあいだしてからは、自分に対しても暗に要求してきた。
大学で、友人が肩を抱いてきた時や、軽く頭を撫でただけでも、卓也は機嫌が悪くなった。

学内で会わなくとも、普段の自分を知っているからか、アパートに来た途端に、シャワーを浴びるように要求してきた。
それが、いつの間にか強迫観念のように、生活に染み込んでいった。

一日に一度、体を洗わなければ眠れなくなったのだ。



習慣になっちゃってるから、忘れてたのかもしんねぇけどさ。
高校までは、そこまで潔癖ってわけじゃなかったよな、俺。

とっさに「シャワー」って、洗脳されてるみてぇなもんじゃん。

お前は、そんだけしてきてんのに、自分は、平気で他の男を触ったってことだよな?
それって、矛盾してねぇか?



そう思った時、卓也に確認したくなった。

同時に、自分はどうだろうかと考え始めた。



他の男とできんのか?
精神的なことじゃなくて、生理的に無理だったりしたら、どーすんだ?

自分でヤった方がマシとか言っちゃったけどよ。
俺、ずっと一人でガマンできんのかな。



卓也と別れた後、誰とも肌を合わさず、孤独に一生を送るかもしれない。

想像してみたら、前に座る二人が羨ましくてしかたなかった。











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