「Time After Time」
午後五時の入場開始

午後五時の入場開始 4   冬威

 ←開店休業のお知らせ 20180426 →午後五時の入場開始 5   幸宏

伊織の向かいに座った幸宏は、何かを思いついたのか、考え込みだした。

若いと言っても、既に四十。
対等に接していたつもりだったが、どうにもこの方面は純粋なようで。

特殊な世界に住んで、いい加減な遊び人を演じていた自分では、相談に乗るにも勝手がわからない。
ここはプロに任せておこうと、伊織のアシストに回ることにした。





「......伊織さん、細かいことまで覚えてますよね。
 言われて、やっと自覚しました。
 俺の恋愛って、両親の影響受けまくってて、こだわりが強くなってるんだ」

「そう、そして相手が真面目な卓也君だったから、その年まで保ったんだよ」


二人の会話を聞いていて、ぼんやりと考えた。
確かに、一番身近な「恋愛関係の例」は、両親だろう。

幸宏の両親は、息子でも恥ずかしくなるほど、仲の良い夫婦だったらしい。
母親が亡くなって、父親は現実を受け止めきれず仕事に逃げたほどだ。



ああ、レンさんとこも、そうだよなぁ。
一時期離婚してたなんて、誰も信じないくらい、今でも仲いいし。
だからか、エイチも駿さんとつきあいだしてからは、一切遊ばなくなったよな。

ユージも、そうか。
コウセイのことばっか気にしてたから、忘れてたけど。
キャシーに出会ったら、いきなり結婚するって言い出して、あれは驚いたよな。
それ以降、「寄ってくる女がクソに見える」とか、本気で言ってたのが笑えた。

ということは、カイとカンも、影響受けてるんだろうな。
純粋培養って、からかわれてるくらいだしね。


うちは...人でなしの親父のおかげで、幻想は持てなかったけど。

そっか、俺、適当に遊んでたのに、罪悪感とか感じなかったのって、親父の血かもな。
ななが、影響を受けずに済んだのは、思春期前に親父と離れたからかも。



殺してやりたいと思ったほど憎んだ父親に、悔しいが自分は似ている。

だから、余計に、春樹には近寄りたくなかったし、なかなか愛情も持てなかった。
我が子は、自分の所有物だと考え、平然と殴る蹴るを繰り返していた。
あの父親のようにはなりたくなかったから。

しかし、今現在、息子は立派に成人した。
そして、常に寄り添ってくれるパートナーがいる。
他に目移りするようなことも、あの子なら、まずないだろう。

自分と瞳という、不幸な例を見続けてきた。
哀しいが、反面教師としてほしいと思う。


妹と弟も自立して、幸せに暮らしている。
父親から受けた虐待も、間違った倫理観も、二人を歪ませることはなかった。

負のスパイラルに陥らなかっただけ、自分たち兄弟は運が良かったのかもしれない。





不意に、メールの着信音が響いた。


「ごめん!俺だ。
 マナーモードにするの忘れてたよ」


二人に謝って、ベッドルームへ移動する。
たぶん、弟だろうと踏んだからだ。
幸宏が真剣に相談している横で、メールを読んだり返信したりは、避けたいと思った。

しかし、メッセージではなく、メールなのは珍しい。
と、送信者を見れば、意外な人物。


西山翼、だ。


『俺、よくわからないまんま、失礼な態度とって、すみませんでした。
 聡志さんと修さんに、事情聞きました。
 年明けからいらっしゃるんですよね?
 夜だけでなく、喫茶の方も、ご来店をお待ちしてます!』


もうすぐ年が明ける。
出禁が解除になり、伊織とCrossroadに通う。

だから、オーナーの北川が、昼の責任者である西山にその旨を説明したのだろう。

もう、あの厳しい視線は浴びなくて済む、そう思えば可笑しくもあった。

整った中性的な顔が、一瞬にして、視線で人を殺せるほどに厳しくなる。
口元や目元は笑ったままなのが、さらに迫力を増すのだ。

プロ意識が高く、店や常連を守るためなら、とことん強くなる。
あの小さく華奢な体に、強靭な精神を宿しているのは、伊織や北川のようだと思う。


アドレスを知っているのが、不思議だった。
北川や英一たちなら、他人に教えてもいいかと、まず連絡してくるはずだ。


記憶を辿って、西山と最初に会った時のことを思い出した。
綺麗な人形のような顔に、暗い瞳が気になって、ナンパ用の名刺を渡したのだ。



...名刺、捨てずに取っておいてくれたんだ。
あの子、元から強かったんだろうけど、ほんと成長したよなぁ。
俺なんかより、よっぽど苦労したんだろうに。

あの子と甲斐がいる限りは、Crossroadも安泰だ。



「こちらこそ、年明けからよろしく。
 伊織さんと二人で行くことが多いと思う。
 この前は、本当にごめんな」


簡単に返信して、リビングに戻ると、幸宏の表情が柔らかくなっていた。


「誰だったの?七海君?」

「いや、俺もそうだと思ったんだけど、翼君だった。
 年明けから解禁って話、聡志さんから聞いたって。
 今まですみませんでしたって、律儀だよね」


幸宏が、どう結論を出したのか気になった。
しかし、下手に混ぜっ返すようなことは避けたい。


「このお茶を飲んだら、帰ろうか。
 洋一からも、もう終わったってメッセージが来たんだ」

「あ、帰りに俺のマンションに寄ってもいいかな?
 まだ荷物が残ってたみたいでさ」


伊織が、嬉しそうに微笑む。

一緒に住み始めてから、結局、一晩も自分のマンションで過ごすことがなかった。
それは、つまり、二人の生活が快適だったことの証明だ。
息苦しくなった時の逃げ場を残せと、伊織が忠告してきたのは、結果としては無駄に終わった。

逃げ場の必要などないと判断し、年明けには、不動産屋に引き渡すことが決まっている。




「あそこ、僕が買うことにしたからね。
 賃貸に出すって、不動産屋とは話がついてる。
 君がずっと住んでたんだもん。他人のものになるのは、僕がイヤだ」


伊織の言葉が、あまりにも伊織らしくて......。

幸宏がいるというのに、つい、抱きしめてしまった。











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