「Time After Time」
午後五時の入場開始

午後五時の入場開始 3   幸宏

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都心の高級ホテル、それもスイートルーム。
最初のうちは、驚きで、全く落ち着かなかった。

しかし、次第に驚きは薄れていき、冷静さが戻ってきた。
いつものように、伊織がハーブティーを淹れてくれたようで、香りが漂ってきた。
そして、三人でソファに座ってしまえば、何のことはない、これまでの日常と同様だ。
窓から見える景色が違うだけのこと。

いくら高級ホテルだろうと、伊織の自宅の方が素人目にも高級な調度や茶器が揃っている。
あの家に滞在した後では、この部屋が特別には見えなくなっていた。


もちろん、自分とは縁のなかった世界の話ではあるが。





「さて、幸宏の話を聞かせてもらおうかな」


カモミールティーを一口飲んで、伊織が微笑んだ。
自分から相談したいと言ってはみたものの、なかなか口に出せずにいたので助かった。


「んと、俺、いい年して情けないんすけど......。
 自分のこと、わかんなくなっちまったんすよね」

「それは...卓也君に対して?」

「それもあるんですけど、洋一君に対しても、です」


澤井は、少し驚いた風であったが、伊織はニコニコしたままだ。
ここで、洋一の名前が出るのは、予想していたのだろうか。


「もしかして、洋一君がフライングしたのかい?」


質問してきたのは、澤井の方だった。
澤井も、どうやら洋一の好意には、気づいていたらしい。


「まぁ、落ち着いて見えるけど、若いからねぇ。
 釘を刺しておこうと思ったけど、遅かったかな。
 ......で、わからなくて、困ってるってことは、洋一には返事してないの?」

「びっくりして、何も言えなかったんすよ。
 洋一君も、「タイミング悪かったから、仕切り直す」って言ってくれたんで」

「ああ、正解じゃない?とにかく、今は、自分のことだけ考えてていいよ。
 洋一もわかってたはずなのに、つい言っちゃったんだろうけどさ」

「俺、治ってからのこと、ちゃんと考えてなかったんす。
 そんな話してたら、養うから心配するなって、言われちゃいました」


洋一の好意には気づいてはいたが、さすがに、そんな告白の言葉までは予想していなかったのか、伊織が吹き出して笑う。
澤井までが声を上げて笑うものだから、尻がむず痒くなるような居心地の悪さを感じる。


「ゴメンね、笑っちゃって。
 洋一君も君も、若いなぁと思ってさ。
 ......男だしね、どっちの思いもわからなくはないけど」

「そこで、簡単に「養ってもらえる」ようなら、病気にはならないよね」



そう、卓也にだって、何度か言われたことがある。
自分が働くから、その間に、大阪で仕事を探せばいい、と。

それが素直に受け入れられていたなら、こんなにこじれることもなかった。

言われる度に、心は揺らいだ。
しかし、その都度、「養われる」ことに抵抗を覚えた。
無職の間に、卓也と別れることにでもなったら、惨め過ぎて。


「俺、ヒモにはなれないと思うんですよね」


大真面目に言ったのに、また二人は笑っている。

それ以上は、何を言っていいのか思いつかず、笑いが収まるのを待った。





「ヒモって...思った通り、思考が極端なとこがあるよね。
 ゼロイチとは、また違うんだけど」

「あー、物知らずなとこはあると思います。
 必要ないことに、好奇心が沸かないですし、流行りとかも気にならないタイプっす」

「それは、ずっと一緒にいるから、わかってはいたけどね。
 ......その極端な君が、洋一の告白には「戸惑ってる」けど、イヤがってはない。
 そんな感じに見えるけど、違う?」

「............」


ついさっきまで笑っていたのに、核心をついてきた。
相談の中心はそれだと言うのに、つい、また口ごもる。


「卓也君と精神的にも距離を置いたら、そばにいる洋一が気になりだした。
 その洋一が告白してきて、はっきり断れない自分がいた。
 だからと言って、簡単に乗り換えることもできない。
 君が悩んでいるのは、そんなところでしょ?」


心の中をサクサクと整理されて、頷くしかなかった。


「少なくとも、卓也君とのことに決着がつくまでは、洋一のことは考えなくていいよ。
 じゃないと、せっかく治ってきたのに、また逆戻りだもの。
 ああ、洋一を逃げ場にするのもありかもしれない。
 僕としては、あまり傷つけてはほしくないけど、一度や二度寝るくらいはいいんじゃない?」

「......いや、簡単に言わないでくださいってば。
 そんなことできるようなら、悩んでませんよ、俺」


澤井が、クスクスと笑いながら、肩を抱いてきた。


「じゃあ、俺にしとく?」


からかわれているのだと、やっとわかって、顔が赤くなる。

恋愛偏差値は、Fラン大クラスの自分。





「ん、冬威や洋一は無理だろうけどね。
 後腐れのない安全なヤツ、紹介しようか?
 向こうだって、一度は浮気してるんだし、律儀に君だけが操を守る必要はないしね」


操を守るの意味が、一瞬わからなくて。
わかった後に、古い言い回しだと、他人事のように思った。


「それも、なんか違うと思うんすよ。
 卓也が浮気したから、やり返すみたいなのって、性に合わないっつーか。
 Crossroadに出入りするようになって、誘われたりもしたけど。
 どうしても、遊びのセックスって考えられなくて。
 それくらいなら、自分でヤった方が罪悪感ないし」

「君の潔癖症は、そこら辺からも来てるのかな。
 ご両親、夫婦仲が良かったって言ってたもんね」


そう言われれば......


母親が死んだ後、一人でひっそり泣いていた父親の姿が、頭に浮かんだ。











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