「Time After Time」
午後五時の入場開始

午後五時の入場開始 2   冬威

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十二月下旬のある日。
業者を入れての、大掛かりな清掃をすると言う。

貴重な調度の保護や、細かい指示のため、笹井の人間は家に残る。
邪魔だからと、伊織、幸宏とともに追い出された。


「いつもなら、洋一が一緒に来てくれるんだけど、今年は隆一が腰が悪くてさ。
 年のこともあるし、そろそろ外回りのことも、洋一に覚えさせたいんだって」

「親父さんの名前、隆一なんだ。
 初めて聞いた気がする」


以前なら、屋外だけでなく、屋内の修繕なども担当していたらしい。
今では屋内は洋一がこなしてしまうので、会う機会がほとんどない。
伊織が指示する時も、直接ではなく、洋一か加代を間に挟んでいるようで、名前が出たことはなかった。


「ちょうど、僕より十歳年上でね。
 ものごころついた時から、ずっと構ってもらってたな」


伊織が話してくれているのに、幸宏が何か思いつめたような顔をしているのが気になった。
目配せすると、伊織も気がついたようで、すぐに話しかけている。


「幸宏、どうした?調子悪い?」

「いえ...ちょっと、相談したいことがあるんすよ。
 あまり人に聞かれたくないんです」

「わかった。ちょっと待って」


伊織は言うなり、携帯を取り出した。


「うん、僕。今日の予定は?じゃあ空いてるんだね。
 ありがと、使わせてもらうよ」


誰が相手かは、なんとなくわかった。


「俺、運転するよ。帝国?ニューオータニ?」

「ありがと、ニューオータニまでお願い」


久しぶりにハンドルを握り、ニューオータニまで移動した。
幸宏は、複雑そうな顔をして、後部座席に座っている。



ニューオータニのような古くからある高級ホテルには、常連を通り越して「住んでいる」客がいる。
一般客にはセミスイートまでしか宿泊させないが、そう言った客は、ほぼスイートにいる。
もちろん、そんな部屋に住んでいるのだから、信用のある大金持ちのみにだけ許されることだ。

相馬の家では、伊織の祖父の代から、学会などのため、常に部屋を用意している。
特に、父親は、ほとんどニューオータニに住んでいたようなものらしい。

さきほどの電話は、弟の孝徳かその秘書が相手。
いずれかの部屋か空いていないか、尋ねたのだ。




「昼食は、レストランで取ろうか。
 部屋では、僕がお茶を淹れるから、誰も来ないように言えるしね」

「はぁ」


幸宏は、まだ要領を得ていないようで、とりあえず頷いている様子だ。
確かに、最初に連れてこられた時には、自分も理解が追いつかなかった。

そして、部屋へ案内されて驚いた。

五つ星ホテルのスイートに宿泊したことはあっても、そこを住居にする人間がいるとは。
そんな世界があることは知っていたが、実際に見聞きすると衝撃はかなり大きかった。





「久しぶりに、久兵衛で寿司がいいな。
 二人とも、他に食べたいのある?」

「あ、久兵衛は久しぶりだな。あそこの寿司、美味いよね」


伊織が幸宏を見ると、ポカンとした顔。
声が出ないようで、慌てて頷いている。


ベルボーイが連絡したのだろう。
館内に入ると、すぐにスタッフが寄ってくる。


「いらっしゃいませ、相馬様。
 本日はお食事は、いかがなさいますか?」

「あ、孝徳が連絡してくれたんだね。
 んと、久兵衛で昼食の後に、部屋を使わせてもらう予定。
 部屋では、僕がお茶淹れるから、呼ぶまでは誰も来なくていいよ」

「かしこまりました。久兵衛は、本館のカウンターでよろしゅうございますか?
 今なら、テーブル席も空いてございますが」

「空いてるなら、テーブルの方がいいかな。三人だしね」


丁寧に喋る、品のある女性スタッフは、相馬担当だ。
伊織が、気楽に話しかけている。
自分のことにも気づいているようだが、さすが接客のプロ、顔には出さない。

VIP専用口へと車で入れば、キーを預けるだけ。
館内への入り口も別だから、一切、出入りの情報が外に漏れることはない。

普段は忘れているが、この男の実家の財力を、こういう時に思い知る。

VIP専用の出入り口、予約必須の店なのに、ふらっと入ってしまえる気楽さ。
担当コンシェルジェの存在。


案内されながら、コンシェルジェの伊織を見る目に、何か含むものがある気がした。

今まで、気にしたことはなかったが、この男も自分同様、女とも寝ることができる。



若作りしてるけど、四十は越えてそうだよな。
頭良さそうだし、伊織さんの好みかもね。



お互い、過去のことは言っても仕方ないと理解している。
それでも、向こうから寄ってくるものを排除したくなるのは、幼い独占欲か。
そして、男が相手だと闘志も湧くが、女だと脱力してしまうのは、自分でも理由がわからない。

伊織に言わせれば、どちらにしても、「そんな体力も気力もないよ」で終わるのだけど。




「うへっ」


店での昼食を終えて、専用エレベータで部屋へ移動。
中に入ると、幸宏が小さい声で驚いた。

ベッドルームが二部屋に、リビングもダイニングも、簡単なキッチンもある、スイートルーム。
バスルームの他にシャワールームもあり、自分のマンションよりも広い。


「新館の方がオシャレなんだけど、父や弟は落ち着かないって、ずっとこの部屋なんだ」

「ああ、一度泊まってみたけど、マンション替わりにするなら、こっちの方がいいよ。
 オシャレ過ぎて、オジサンには落ち着かない」

「オジサンって...君、ほんとにキャラ裏切るよね」


伊織が声を上げて笑って、やっと幸宏の緊張が解けたようだ。


「今、お茶淹れるから、座っててね」


幸宏にリビングに行くよう促し、自分は伊織の手伝い。


「顔色は悪くないし、悩んではいるけど、いい方向かな?」


明るく、だが小さな声で、囁いてきた。











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