「Time After Time」
午後三時のメッセージ

午後三時のメッセージ 16   冬威

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『音合わせは順調だ。剛さんは、なんとか痛み止めが効いてるっぽい。
 ガキんちょどもも、張り切ってるぜ。
 当日は、ギャンギャンに聴かせてやっから、楽しみにしとけよ』


英一からのメッセージに、つい顔が緩む。

剛の体調は、伊織から聞いていた。
REALの専属医は、伊織と繋がりのある整形外科医だからだ。

それでも、友人に気にかけてもらうのは、やはり嬉しいものだ。


「ガキんちょ...ああ、海たちのことか。
 洋一と同年代だもんね」


伊織が、後ろから抱きついてきて、覗き込んでくる。
画面を読んで、一緒に笑う。


お互い、隠し事は一切ない。
だから、平気で携帯の画面も見せるし、代わりに電話に出たりもする。

ただ仕事用の携帯電話は、当たり前だが、触らない。

自分も伊織も、ほとんどかかってくることはなくなったが、油断は禁物だ。
伊織に迷惑をかけるわけにはいかない。
さらに、伊織の業務上、秘匿すべき情報を知ってしまうことは避けたい。
知らずにいれば、漏らすこともない。



「っていうかさ。親父のユージたちが、伊織さんと同い年なんだよ?
 サムには孫もいたりするし。
 ......どう考えても不思議なんだけどさ」


伊織は、白髪と笑い皺がなければ、ニ十代で充分通る。
美容整形やエステで誤魔化してきた自分より、ずっと若く見えるのだ。
かろうじて、三十代に見えるのは、白髪と落ち着いた物腰のせいだ。


「病気以外に苦労したことないからじゃない?
 胃が弱くて少食だから、肥満にもなりようがないしね」

「それが羨ましいんだよ。
 俺なんか、ジムサボったら、すぐに腹に来るもん。
 弟も同じみたい。あいつ、酒はダメだけど、甘い物とか美味い物に目がないしね」


伊織が、隣に座ってきた。
何かを思い出したようで、じっと顔を覗き込んでくる。


「あ、そうだ!お正月のおせちなんだけどね。笙ちゃんからメールが着たんだ。
 人数多いし、僕たちもいるから、関東風も作ろうかって」

「伊織さんは、いつもどうしてるの?」

「うちの実家、元々が中部地方だから、どっちでもないんだよね。
 加代さんが、僕の好みに合わせて、作ってくれてる。
 どっちかと言うと、関西よりの味付けかな」

「そっかぁ。俺は、もう何年もまともにおせち食べてないからさ。
 関西風って食べたことないから、楽しみかも。
 笙ちゃんには、わざわざ別に作らなくてもいいよって、伝えてくれる?」

「うん、メールしとくね」



今年は、一人の年越しではないのだと実感して、また顔が笑う。
大事なパートナーや、弟とその友人たちと過ごす。


ふっと、来年はどうしようかと、鬼が笑うようなことを考えた。


来年も、その次も、ずっと。
伊織と一緒にいられる、こんな幸せはないんじゃないか。


そんなことを考えている自分が、夢見がちな少女のようで、気恥ずかしくなる。

若い頃とは違う。
輝くような未来もない代わりに、いつ終わるかわからない苦しみもない。

人生に終わりが来るのを粛々と受け止め、「今」を大事にしなければ。



「何、どうしたの?
 笑ってたかと思ったら、急に神妙な顔してさ」


伊織がメールを送信し終わったのにも気がつかなかった。
抱きつかれて、腰に腕を回しながら、どう説明しようかと少し考える。


「......んーとさ。久しぶりだから、年越しや正月に一人じゃないの。
 その前は、イヤイヤ行ってたハワイだったし。
 来年も次の年も、ずっと一緒だといいなぁって、考えてたんだよね」

「うん。それで楽しそうだったのは、わかった。で?」

「もう若くないんだから、そんな先のこと考えるより、今を大事にしようと思い直した。
 母さんがいなくなった時も、ルイさんがいなくなった時も、後ですっごく悔やんだんだ。
 何も恩返しできなかったなってさ。
 今は、俺が先にいなくなる可能性だってあるんだしね」


伊織の右手が、優しく頭を撫でてくる。


「何年ぶりだろうね、一緒に年越しするのは」

「んー、春樹が生まれる前の年だっけ。
 まだルイさんが生きててさ。
 毎年、Crossroadに集まって、夜通し騒いでたよね」

「...父もまだ元気で、ルイさんと仲が良くて。
 楽しかったなぁ」


数は多くないが、二人共通の思い出が、少しの感傷と優しい気持ちを呼び起こす。

あの店は、自分にとっても、気楽に飲める貴重な隠れ家だった。
伊織が話をつけてくれ、年明けにはまた出入りできるのが、嬉しくてありがたい。


海と完に配慮して、自分を遠ざけたのだと思っていた。
しかし、北川は、自分のことも考えてくれていたのは、伊織の話で知った。


『ユージたちとの和解がまだだったからね。
 いずれ、英一に間を取り持ってもらうつもりではあったんだ。
 春樹君のことがあって、海はまだしも、完は納得させるのも難しいし。
 なのに、自分から地雷踏みに来ちゃうんだから、ほんと焦ったよ』


北川が、伊織にそう零していたらしい。



聡志さん、すいませんでした。
親身になってもらってたのに、恩を仇で返すようなことして。



腕の中の愛しい男と同じ。
華奢で儚げに見えるが、強烈な意志と高性能な頭脳の持ち主。
そして、驚くほどの人脈と情報網。

本気で怒らせたら、自分などひとたまりもなかったはずだ。
出禁だけで終わったのは、それ以上は必要ないと判断してくれたからだ。
それには、伊織のおかげもあっただろう。


「伊織さん、ありがとう」


唐突な発言に驚くこともなく、愛しい男は腕の中で軽く頷いていた。











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