「Time After Time」
午後三時のメッセージ

午後三時のメッセージ 13   冬威

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「二人とも喜んでたね」


伊織の部屋で、受験勉強前に茶を飲んで、少しお喋りする。
毎日の習慣だが、楽しくて仕方がない。

特に今朝は、心が浮き立つような感じが、くすぐったくも嬉しい。
朝食の時に、洋一が見せた表情で、壁がさらに薄くなったように感じたからだ。
最初の頃に気を抜いて、警戒心むき出しの顔を見せていたのとは大きく違う。


「媚びを売るつもりはないけど、洋一君と仲良くなりたいんだよね。
 REALのファンだって聞いたから、エイチに頼んでみたら、ギリギリ間に合ったみたい。
 ラッキーだったよ」

「ありがと。僕、嬉しいよ。
 笹井の人間は僕の家族だって、冬威も思ってくれてるんだって、すごく実感した」

「それもあるけど...」


伊織が眉を少し上げて、問いかけるような顔になる。
他の人間には、必ず「言葉にする」男だが、ごく近い存在にだけ、こんな表情をする。
それを知ったのも、つきあいだしてから。


「洋一君も幸宏君も、なんだか可愛いんだよね。
 一生懸命だなぁって、見てて応援したくなるんだ。
 俺たちには縁のない、「キラキラしたもの」持ってるでしょ?
 弟の若い頃みたいでさ」

「えっと、七海君だっけ?君に似てる?」


興味津々と言った、まるで子どものような顔になる。
可愛くてしかたない。年甲斐もなく、ジタバタしたくなるほどだ。


「妹と顔は似てるけど、弟とはあまり似てないんだ。
 あ、画像見る?」


スマホを取り出すと、ブンブンと音がしそうなほど、首を縦に振っている。
素直に好意を示してくれるところは、本当に可愛らしい。



妹やその家族、弟とそのパートナーの画像を見せた後、弟の演奏動画をパソコンに移した。


「これ、二十代の頃のやつなんだ。
 本人はイヤがったけど、笙ちゃんがエイチ経由で動画くれた」

「うわ、全員巧くない?アマには思えないよ!」
 

コピーやオリジナルを何曲か見せる。
ヘッドホンで、夢中になって聴きながら、時折、感想を言ってくる。



「ベースの子が、弟のパートナー。
 ヴォーカルの子はね、笙ちゃんの旦那さんだよ。
 メインギターの子がリーダーで、サイドの子だけ、大学が別なんだ」


動画が終了したら、メンバー全員の画像を見ながら、一人一人を紹介していく。
楽しげに頷いているのを見ていると、自分まで楽しくなる。

そして、予想した通りの反応もあった。


「あのさ、弟君、えっと、七海君か。
 洋一に、少し似てるよね?」

「あ、やっぱり、そう思った?
 弟の方が、少し背は低いんだけどね」

「だから、余計に仲良くなりたかったんじゃない?
 冬威、ブラコンでシスコンだもんね」


自分でも自覚しているので、指摘されても笑うしかなかった。
ブラコンと言われることは、別に恥ずかしくはないが、洋一本人には、黙っておいた方がよさそうだ。
やっと近くなった距離を、また遠ざけるのは、本意ではない。


「それにしても、笙ちゃんって、変わってなくない?
 エステも美容整形も興味なさそうなのに。
 英一君と兄妹っぽいのは、ほんとに昔からなんだね。
 まぁ、中身の方がもっと似てるけど」

「あー、中身が似てるのは、宗次郎の影響もあるかも。
 二人とも、ずっとあいつのフォローしてきたから、中身が似ちゃったって話してたよ」


少しおどけて言えば、声を上げて笑う。

もっと笑い声を聞いていたいと思うが、伊織が話を切り上げた。


「さて、今日の分の勉強を始めようか。
 楽しい時間は、その後のご褒美で」

「俺、勉強するのも楽しいよ?
 社会人入学でも、一般教養は身につけないと、入ってから大変だろうし。
 それに、小論文は書いたことなかったけど、結構、楽しんでる。
 言葉を思いつけなくて、困ったりもするけどさ」


格好をつけるわけではない。
心から、勉強が面白いと思うようになっている。

出演したドラマや映画は、アニメやマンガの実写化が多かったが、文学作品の場合もあった。
流されていたとは言え、深く原作を読み込むことは、必要だと考えて実行していた。
そういった経験が、少しは役に立っているような気もする。

そんな姿は、妹と弟しか知らない。
俳優「澤井冬威」には、必死の努力は似合わない設定だったから。

どんなことでも、安々とこなして余裕の笑顔。
幻想を演じて売るのが、自分の仕事だった。





「書き終わったみたいだね。見せてくれる?」


制限時間三十分で、与えられたテーマについて、自分の意見を簡潔に書く。
伊織が、できあがった小論文を読んで、チェックする。
その後、解説してもらい、どう書き直せばいいのかを学んでいく。

今朝は、二本ほど書いて、昼食の時間になった。
目の疲れと肩こりで、首や肩を回していると、伊織が笑う。


「今日の午後は、アロマテラピーやってもらう?」

「......あれ、気持ちいいけど、加代さんに申し訳なくてさ」


加代は、結婚前に、イギリスでアロマテラピーの勉強をしていたことがあると言う。
看護師としての専門知識だけでなく、ヨーロッパの民間療法も身につけようと努力した。
そして、その知識と技術を、家族と伊織のためにフル活用している。

伊織のパートナーだからと、時間も体力も必要な施術を頼んでいいものか、遠慮があるのだ。



ところが、昼食の時に伊織が言い出して、加代の返事は、こうだった。


「澤井様がお考えになるほど、体力は必要ありませんから、気にしないでください。
 どうしても気になるのでしたら、洋一に施術をさせましょうか?」


驚いて、とっさに洋一に視線を移すと、少し口の端が上がっている。
頭に施術している姿を思い浮かべて、滑稽に思えたのだろう。
自分の老化が、こんな時は恥ずかしくなる。


洋一にやってもらうのは、別の意味で気を遣うのだが、ここで何を言っても無駄な気がして。


「では、申し訳ありませんが、加代さんにお願いします」

「はい、かしこまりました」


素直に、頭を下げておくことにした。

伊織も幸宏も洋一も笑っているが、気にしないことに...する。











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