「Time After Time」
午後三時のメッセージ

午後三時のメッセージ 11   冬威

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幸宏が来て、二週間が経過した。

離れの病室から、自分と同じように本館に部屋を与えられ、そこで寝起きするようになった。
基本的に、食事は一緒に取ることにしている。

伊織の指示なのか、幸宏の部屋へは洋一が詰めていることが多い。
部屋のそばを通りかかると、二人で談笑している声をよく聞く。



午後三時には、全員がリビングに集まり、茶を飲む。

幸宏は、不眠を防ぐために、ノンカフェインのハーブティーを飲んでいる。
普段はコーヒーばかりらしく物足りなさげだったが、薬のようなものだと割り切ったと言う。


「最初は不思議な味だと思ってたけど、慣れるもんすね」

「コーヒーだって、子どもの頃はブラックなんて飲めなかったでしょ?」

「あー、大学の頃、徹夜するために飲んでからっすね。
 ガバガバ飲むから、砂糖や牛乳入れてる暇なくて慣れた感じっす」


神経質そうな見た目を裏切り、カラカラと豪快に笑う。
釣られて、伊織や加代も笑い、洋一までが表情を緩める。

どうやら、気を許すまでは壁を作るが、警戒を解けば、本音もサバサバと話せるタイプのようだ。


もっとも、本人が言うには「開き直ったことが大きい」らしい。

Crossroadで、北川を始めとした常連たちに度肝を抜かれ、取り繕っても無駄だと考えた。
さらに、今回のことで、自分が精神的に脆いと自覚したと言う。
受験や仕事でストレスを感じたことがなかったので、逆に図太いのだと思っていたそうだ。


『仕事なら割り切れるんで、あんましストレス感じなかったんですよね。
 プロジェクトを立ち上げて成功させれば、利益が上がる。
 失敗した時は、同じ失敗をしないように反省して、研究すればいいし』


実業の世界で、はっきりとした目標を達成するために働いていると、そういうものなのか。
人気や好感度が物を言う世界で、人に言われるままに生きてきた自分とは、全く違う価値観だ。

まぁ、同じように大企業に勤めていても、弟のように人事などの総務畑にいるとそうはいかないのだろうが。

そんな男が、四十になった直後に「遠距離恋愛」が原因で体調を崩した。
パートナーのたった一度の過ちを許せなくて、パニックに陥った。
本人は情けないと落ち込んでいたが、逆にそれが羨ましくも思える。


伊織とも、互いの爛れた過去を、笑い話として語り合ったことがあった。
惚れた相手に、心底惚れられていれば、そんな自慢にならない恋愛もどきを繰り返すことはなかったのだ。


才能のあるなしだけでは計り知れない、曖昧模糊とした世界を泳いで渡り、疲れ切った挙げ句に需要がなくなっていった。
もう世間からは忘れられているだろう、薄っぺらい存在が「澤井冬威」だ。

地に足をつけ働いてきた、恋愛方面でだけ純粋で傷つきやすい、幸宏。
十歳違いの彼を、眩しく感じるのは、鮎川に指摘されたように、歳を取ったということか。





「あのさ、伊織さん」


ティータイムの後は、一階奥の伊織の私室で受験勉強だ。
資料が揃っているから、自分の部屋より都合がいい。

特に仕事がない場合は、幸宏には洋一がついている。
勉強を始める前に、思い出したことを、忘れないうちに話しておこうと考えた。


「エイチに頼んだら、あと二枚なんとかなりそうなんだ。
 だから、幸宏君と洋一君もREALのカウントダウンに誘ったらどうかな?
 それと、その時、弟を伊織さんに紹介したいんだけど」

「ああ、幸宏はSMSのファンだし、洋一はREALが好きだから、嬉しいと思うよ。
 だけど、弟さんのことは、簡単に言っちゃってもいいの?」


今まで機会を逃してきたが、是非紹介したいと話すと、困惑の表情。
患者の時から弟妹については、深い話をしていなかったことを思い出した。


「えーっとね、俺が笙ちゃんと間接的に知り合いなのは、話したよね?
 弟と笙ちゃんは、同じ大学、同じサークルで知り合って、バンド組んでるんだ。
 バンドメンバー全員で、カウントダウンに来るんだって。
 それに、弟は、完全に女がダメなゲイで、パートナーも一緒にバンドやってる。
 偏見なんかないから、心配要らないよ」


伊織が、珍しくぽかんと間の抜けた顔になる。

そんな顔を見るのも楽しくて、自然と顔が笑う。


「えー、君、そんなこと言ってなかったよね?!
 笙ちゃんからも聞いたことないよ?!」

「知ってるのは、エイチと駿さんくらいだよ。
 ああ、春樹も存在だけは知ってる。
 笙ちゃんは、俺が情報公開してないから、黙ってくれてるだけでさ」


少し拗ねた子どものような顔。

これも好きだと、抱き寄せて軽いキスを、膨らんだ頬に落とす。


「ゴメンね。すぐに話そうと思ってたんだけど...」

「ああ、幸宏のことでバタバタしちゃったもんね。
 空気読んで、遠慮しちゃったか」





機嫌が直ったのか、首に腕が回ってきた。
頬ずりしてきたかと思ったら、耳元で囁く。


「嬉しいよ、ありがとう。
 相手の家族に紹介してもらうのも、初めてだ」

「俺も、紹介するのは初めてだよ。
 受け入れてくれて、ありがとう」



ゆっくりと水が染み込むように、愛しさと幸せをじんわりと感じる。
少しだけ力を込めて、腕の中の愛しい男を、そっと包み込む。

今は自分も使っているシャンプーの匂いが、ふわっと香る。
治療に使う前から、伊織自身のために、加代が勧めてきたらしい。



伊織さんの象徴のような、カモミール。
一緒に暮らすうちに、他のハーブの名も覚えてきたけど、やはりカモミールが一番好きだな。



「弟がさ。三ヶ日も一緒に過ごそうって言ってるんだ。
 伊織さんがよかったら、だけど、返事してもいいかな?」


声には出さず、伊織は腕の中で何度も頷いていた。











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