「Time After Time」
午後三時のメッセージ

午後三時のメッセージ 7   冬威

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患者は、軽く食事も取れるようになったと、伊織が説明している。
勤務先と連絡がついたようで、北川たちは安心して、一旦帰っていった。


「とにかく、一人にしないようにしないと。
 僕と洋一と加代さんで、しばらくはついていることになるからね」

「俺も、手伝うよ。調子が悪そうだったら、すぐに誰かに言えばいいよね?」


ありがとうと耳元で囁いて、倒れ込んでくる。
抱きしめて、ソファに座りこんだ。

自分の判断が甘かったことに、ショックを受けているのだろう。
顔色が悪く、表情が暗い。


「何か食べて、少し休んで。
 伊織さんじゃないとダメなこともあるだろうし、休める時に休まないとさ」


腕の中で、もぞもぞと頷いているのを感じて、加代に電話した。
加代は、さすがに慣れているのか、すぐに二人分の食事を運んできた。

伊織は、離れようとしない。
よほどつらいのだと、加代も思ったらしい。


「澤井様、伊織様のことお願いします」

「んー、充電してるだけだってば。
 これ食べたら、少し寝る。
 何かあったら、すぐに電話してね」


安心したように頷いて、加代が戻っていく。
その後姿を見ながら、伊織が呟いた。


「僕は、まだ幸せだったんだよね」


離れで眠っている患者、川瀬幸宏のことを考えているのは、すぐに想像がついた。
腕の中で、ぼそぼそと話し続ける。





彼は、若い頃にご両親を亡くしてる。
一人っ子だし、近い親戚もいない。
遠恋の彼氏だけが頼りだったんだよね。

本人は、いつ別れてもいいようにとかって強がってたけど。
一人になるのがイヤだから、イヤなことも飲み込んできた。

彼氏、卓也君って言うんだけど、幸宏のことを大事には想ってたはず。
友達のいない幸宏を心配して、大樹君に紹介したくらいだしね。
卓也君は、仕事熱心で優秀だけど、生真面目で不器用な感じらしい。

大樹君は、卓也君が浮気したこと自体に、かなり驚いてたみたいだけどさ。
浮気しちゃったのは、よくある一時の気の迷いだったんじゃないかなぁ。
ほら、性欲じゃなくて、人恋しいとふらっとしたりするでしょ?
そんな感じの浮気なんだと思うんだよね。

それに、もしかしたら、こういうことも想定してたのかもしれない。
幸宏が知ってしまった時のために、セーフティネットを用意したかったんじゃないかと思うんだ。




「卓也って子も、相当、真面目なんだろうね。
 絆されて一度寝たくらいでも、悩んで友達に相談するなんてさ」


北川や伊織の話を聞いて、ずっと考えていた。
魔が差すことなど、誰にでも起こりうる。
それでも、真剣に悩んでいたのかと思うと、卓也には同情を禁じ得ない。


「本人が真面目なのもそうだけど、幸宏の性格を、よくわかってるからだと思うよ。
 遠恋の原因は幸宏の転勤だし、だからって、簡単に許せるわけでもない。
 さっさと見切りをつけられるようなら、体調を崩すほどストレスを溜めたりしないもの」

「バレたタイミングも悪かったってこと?」

「ううん、うちに来る前だったら、もっとひどくなってたと思う。
 誰にも言えずに拗らせて、それこそ衝動的に飛び降り自殺でもしかねない。
 そこは、まだよかったと思ってる」


明るい材料を見つけたせいか、伊織の顔色が少し良くなってきた。
食事も、半分ほどは食べられたから、ここは無理をさせずに休ませたい。


「風呂に入って、少し休んで。
 俺、片づけとくからさ」


加代も洋一も、幸宏についている。
伊織の世話や後片付け、できることはなるべくやっておこう。

伊織が好きだからというだけでなく、この家の一員として、協力したい。
そんな感情が湧いたのも久しぶりだ。


「君は、誰かのために働くのが、本当に好きだよね。
 僕のためだけじゃないところは、少し残念だけど」


からかうように笑う伊織に対して、見透かされた恥ずかしさより、同類としての親しみを感じる。


「それは、伊織さんも同じだよね。
 今日は、「相馬先生の顔」だったじゃん」


今度は答えずに、伊織はクスクスと小さく笑い、バスルームへと移動していった。
食器を食洗機にセットして、テーブルを拭き、次はベッドルームへ。
伊織の下着や寝間着を揃え、バスルームへ持っていく。

伊織が出てきたら、バスタオルでくるんでよく拭いてやり、ローブを着せて椅子に座らせる。
長い髪の毛をよくタオルドライし、ドライヤーで傷まないように乾かしていく。
同居するまでは、洋一の役目だったらしいが、これだけは譲れなかった。


「洋一の時より早いのに、傷まないんだよね」

「一応、見た目が売りだったからね。
 ヘアメイクさんに教わって、自分でも気をつけてた」

「他には、誰にしてあげてたの?」

「伊織さん以外に、してあげたことないよ。
 ああ、子どもの頃は、弟の髪乾かしたりしてたっけ」


自分の返事に、伊織が楽しそうに笑う。

たったそれだけで、心が満たされて、幸せだと思う。





「伊織さんは、寝てて。
 俺、洋一君と交代してくる」

「ありがと、頼むね」


伊織が寝息を立てたのを確認して、離れへと行った。
病室の手前で、ひっそりと座っている洋一に声をかける。


「伊織さんは、今寝ついたところ。
 俺が、しばらくは看てるから、洋一君も少し休んで。
 何かあったら、すぐに君か伊織さんに電話する」


怪訝そうな顔をしたが、大声を出すわけにもいかないと思ったのか。
洋一は頷いて、隣の自宅へと帰っていった。


そっと近づいて、幸宏の顔を覗いてみた。
運ばれてきた時は、眉間に皺を寄せ、苦しそうで、顔色も悪かったが、だいぶ好転しているように見える。


「はじめまして」


声には出さずに挨拶して、枕元にあったタオルで、額に浮いた汗を拭った。











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