「Time After Time」
午後三時のメッセージ

午後三時のメッセージ 6   幸宏

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吐き気止めと安定剤を点滴されて、気を失うように寝ていた。
目覚めると、既に日は暮れていて、笹井が呼んだのか、相馬がやってきた。


「大樹君に持ってきてもらいたいモノがあれば、メールか電話してね。
 下着やなんかの着替えは、ここにあるもので足りると思う。
 それと、診断書を書いておくから、連絡がつくようなら、上司に報告して。
 明日から三ヶ月休むってね」


ベッド脇に座って、手を擦ってくれながら、ゆっくりと相馬が話す。
どこかネジが緩んでいるのだろう。
相馬の話を聞いているだけで、涙が溢れてくる。


「泣けるなら、まだ大丈夫。
 ちゃんと治るから、心配しないで。
 何かあれば、洋一に遠慮なく言うんだよ」



俺は病人で、この人は医者。
だけど、ただの医者以上に心配してくれてる。

聡志さんや修さん、大樹もそうだ。
演技で、あんな顔できねぇよな。

今の俺に必要なのは、とにかく冷静になって、伊織さんの治療を受けること。
じゃねぇと、病気も治らねぇし、転職だって無理になっちまう。



「ご迷惑かけて、すみません。
 お世話になります」


頭を下げると、伊織が微笑んだ。


「よかった。自分の状態がわかってきたみたいだね。
 それは、大きな第一歩なんだ。
 何か食べる?食べられそうなら、お粥かうどんでも持ってこさせるよ」


言われた瞬間、腹の虫が鳴いた。
遅めの朝食を取ってから、何も食べていない。
吐き気も治まってきて、自分でも落ち着いてきたように思える。


「雑炊かうどん、お願いしてもいいですか。
 俺、白粥が苦手なんで」


いい年をして好き嫌いなどみっともない。
そんなことも考える余裕がなかった。

力なく声を出さずに笑うと、伊織が頭を撫でてきた。
その後、洋一に雑炊を持ってくるように言いつけ、ベッド脇に座る。
血圧や熱を計り、ベッドの角度を変えて、食事ができるようにしてくれた。

運ばれてきた雑炊は、あっさりとした味付けで美味い。
味がわかることが、自分でも不思議だった。
昔から、体調を崩したり、ひどく落ち込んだりすると、食欲が落ち、味がわからなくなったからだ。





「胃が荒れてると思うから、胃薬は飲んでおいてね。
 眠れないようだったら、眠剤出すけど、なるべくは飲まない方がいい。
 今夜は、洋一がついてるから、つらい時は言って」


ゆっくりと雑炊を食べ終わると、伊織はそう言い置いて戻っていった。
洋一は、気配を消しているのか、薄暗い部屋の中では、どこにいるのかわからなかった。


食事の前に、湯浅には電話で連絡してあった。
診断書を郵送することで、病気休暇の取得は問題ないとのこと。


『とにかく、無理はするな。医者の言うことは守れ。
 出世に響こうが、命あっての話だからな』


湯浅の言葉は重かった。
倒れたことは、管理人から直接の上司である湯浅に、既に連絡があったと言う。

親兄弟がいない自分には、緊急連絡先として登録できる人間がいない。
社宅として全戸借り上げてあるマンションに住んでいたことが、幸いした。
会社に雇われた、常駐の管理人がいるからだ。
北川へ電話できなければ、あのまま部屋で孤独死していたかもしれない。
想像して、背筋が寒くなった。

大阪にいた頃は、同居人として卓也を登録していたが、今では無理だ。
今の会社では、どんな関係かと説明もできないし、第一、卓也はアメリカにいる。



大樹が、卓也に連絡しなかったのは、ラッキーだったよな。
あいつ、すっ飛んできそうだもん。
...いや、プロジェクトの最中だし、気を揉むだけかもな。

こっちが口止めする前に、卓也から聞かれても何も言わねぇって、約束してくれたし。
あの子、幼く見えるけど、しっかりしてんだな。
ああ、痛い目に遭ったって、この前話してくれたっけか。
俺なんか、これが初めての修羅場だもんな。
情けないけど、精神年齢は、俺のが幼いっつーことだろ。



考えているうちに、今日はシャワーも風呂も済んでいないことを思い出した。
嘔吐で汚れた服は着替えさせられたし、綺麗に清拭もしてもらっている。
しかし、どうも弱っているとは言え、熱もないのにそのまま寝るのが躊躇われる。



よく、卓也にもからかわれたっけな。
変なところだけ、潔癖だって。



学生時代、実験に次ぐ実験で、大学に泊まり込むことがよくあった。
そんな時でも、時間を作って、必ずシャワーだけは浴びていた。
思春期の高校生のようだと、同期からも笑われた記憶がある。
自分でも、原因はわからないが、どうしても「自分は汚い」と思ってしまうのだ。


「あの、シャワー浴びたいんですけど、ダメですか」


洋一がいるであろう方向に、声をかけてみた。
立ち上がった気配がしたと思ったら、ゆっくりと近づいてくるのが見えた。


「気持ち悪いなら、お湯で拭きましょうか。
 シャワーもバスもありますが、ふらつくと危険です」

「ワガママ言って、すみません。今日は我慢します」


洋一の顔が、ふっと緩んだ。
何も言わず離れていったかと思うと、すぐに戻ってきた。
手には、何枚かのタオルとバケツを持っている。


「伊織様から仰せつかっております。
 ワガママでも、何でもありませんよ。
 恥ずかしいでしょうが、看護師相手ですから、我慢してください」

「............」


何もしない気持ち悪さと、よく知らない人間に体を触られる恥ずかしさ。
普段の自分なら、圧倒的に後者が勝ってしまって避けただろう。
なのに、弱っているせいか、甘やかされることが嬉しかった。
それが、たとえよく知らない年下の洋一でも、だ。

顔から首から始まって、パジャマや下着を取られ、全身を清めるように拭われた。
最後には、髪の毛と地肌も。

すっきりした後、新しい下着とパジャマに着替えさせられた。


「今夜は、何も考えず、ゆっくりお休みください。
 控えておりますので、何かあればすぐにお申しつけくだされば結構です」


今度は、押し返すような冷たさは孕んでいなかった。
優しい言葉と口調に、すっと眠りに落ちていった。











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