「Time After Time」
午後三時のメッセージ

午後三時のメッセージ 4   幸宏

 ←午後三時のメッセージ 3   冬威 →午後三時のメッセージ 5   冬威

高一の秋。


「ただいまー」

「おい、幸宏、手伝え」


玄関から、両親の声がする。
白いネクタイの礼服姿の父と、留袖を着た母。
両手に風呂敷包みや紙袋抱えて、疲れた様子で帰ってきた。

荷物を受け取り、居間へ運ぶ。
とりあえず、冷蔵が必要なモノはなさそうだと台所へ移動して、湯を沸かした。

父も母も、さっさと着替えて、居間で座り込んでいる。
日本茶を淹れて運んでいくと、嬉しそうに湯呑を手に取って話し始めた。


「あー、いいお式だったわねぇ。
 ほんと、南ちゃん、綺麗だったわぁ」

「立派な婿さんで、遠藤も安心だな」



あ、これ、夢じゃん。
二人とも、生きてるもんな。
この直後に、母さんが倒れてあっという間に死んじまったんだ。

ってことは、続きは......。



「幸宏も、南ちゃんみたいに、可愛くてしっかりしたお嫁さんもらうのよ!
 お母さん、嫁いびりなんかしないから、安心しなさい。
 共働きなら、孫の面倒は見るからね」

「高校生の幸宏に、そんなこと言ってもピンと来ないさ。
 君が嫁いびりしないのは、僕が保証するけどね」


ゴメンな、ゴメン。母さん、ほんとにゴメン。
俺は、そんな未来は見せてやれない。
孫どころか、結婚も無理なんだ。



夢だとわかっているのに、心臓が抉られるような感覚が蘇る。
この頃には、自分がマイノリティだと自覚があった。
知られたら、大好きな母がどれだけ悲しむか。
母のそんな発言の度に、なぜ自分はまともでないのかと哀しかった。


堅物のくせに、母にはぞっこんで、そんな父に、母もベタぼれで。
だから、母がいなくなってからは、仕事に打ち込むことで、父は現実から逃げた。

異動願いを出し、母が亡くなった大阪から逃げ出して、自分は置いていかれた。
しかし、置いていかれた方が、気が楽になった。
夜遅く帰ってきて、母の写真を見ながらひっそりと泣く父。
その姿を見続けるのがつらかった。
お互い、自分の悲しみを抱えるだけで精一杯で、相手の悲しみには寄り添えなかった。

金には不自由することはなかったし、家事もうまくはないが、なんとかできた。
就職二年目に、父も倒れた。
危篤の連絡を受け、駆けつけたが、間に合わなかった。
生きている父を見たのは、引っ越していく姿が最後だった。



あーあ、卓也とも切れたら、俺、ほんとにぼっちじゃん。
そうなるのがイヤで飲み込んできたのになぁ。



次に目の前に現れたのは、卓也と高島。
大学の実験室で、何かを話している、白衣を着た二人。



「離れろよ!!」



自分の声で目が覚めた。

見回しても、ここがどこかわからず、混乱してしまう。
覗き込んでくる顔は、どこかで見た気がするが、よく思い出せない。


「お目覚めですか?まだ吐き気はありますか?
 伊織様に来ていただきましょうね」


伊織様と聞いて、やっと思い出した。
相馬の運転手で、「笹井」と呼ばれていた若い男だ。


「俺、どうして、ここに?」

「それは、伊織様から説明があります」


丁寧な言葉遣いで優しい口調だが、やんわりと押し返された気分になる。
相馬に対しては、絶対服従と言うか、崇拝しているようにさえ見えたが、他はどうでもいいといった思考の持ち主か。
短時間の観察でしかないが、たぶん、間違いないだろう。





「落ち着いた?」


相馬たちが、部屋へ入ってきた。
起き上がろうとすると、そのままでいいと、手で制される。


「どうやら、僕の診断ミスだったみたいだね。
 本当に、ゴメン。診断書出すから、しばらくは会社休もう。
 それと、家に一人だと心配なんで、ここにいてくれる?」

「いや、俺が悪いんすから、相馬さんのせいじゃないですよ。
 北川さんに電話しようとしてたら、息苦しくなって、パニくっただけで」


相馬の後ろに、北川と原田、大樹がいた。
大樹が泣きそうな顔で、大きく首を横に振る。


「覚えてないんですか?聡志さんから電話もらって、すっごく焦ったんですよ!
 管理人さんにお願いしてドア開けてもらったら、吐いてるし、呼吸がおかしいしで。
 顔色なんか、土気色になってたんですから!!」

「過呼吸にしては、症状がひどすぎる。
 今は、無理しないで。お願いだから」


相馬がつらそうな顔で頼んでくる。
ここで意地を張れば、相馬の面子を潰すことになるかもしれないと気がついた。



どうせ転職しようと思ってたとこだし、休んじまうか。
無理して会社行っても、頭は卓也のことでグルグルするばっかだろ。
昔なら、切り替えもできたけど、なんか壊れてるっぽいしな。
ああ、だから、あんな夢見てんだ。



さっき見た夢での、心臓を抉られたような感覚がまた蘇る。
ここは、おとなしくしておいた方がよさそうだ。


「わかりました。お世話になります。
 んでも、一度戻っていいすか?携帯とか着替えとか、必要なもん揃えてきます」

「携帯と財布は、ここにあります。
 メモってくれれば、俺が取ってきますよ。
 今日明日は、事務所も誠も暇なんで、大丈夫です」


大樹が、即座に釘を刺してきて、思っていた以上に、ひどい状態だったのだと知った。


「卓也にメールとかした?」


大樹に尋ねれば、泣きそうな顔のまま、また首を横に振った。
自分が倒れたのだ。普通に考えれば、大樹の立場であれば、卓也に連絡しただろう。


「ってことは、俺、覚えてないけど、みんなに喋っちまったってこと?」


今度は、大樹が静かに頷いた。

その後ろで、北川と原田も、苦い顔をして頷いていた。











にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ 3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ 3kaku_s_L.png Time After Time
総もくじ 3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ  3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ  3kaku_s_L.png Time After Time
総もくじ  3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【午後三時のメッセージ 3   冬威】へ
  • 【午後三時のメッセージ 5   冬威】へ

~ Comment ~

NoTitle

夢の中ででも高島(あえて 君 も さん も付けないでおきます)を殴れれば少し気分が上向いたのかもしれない。。

そっかー、昔のことまで積み木のように重なっちゃったのか。
でも、差し伸べられた手を握ることが出来るようになったのは、成長した証だと思う。

受けた恩は返せる時が必ず来るから、今はたくさん手を借りて、卓也に会うとき笑顔になれるといいね!

Re: NoTitle

夢の中でさえ殴ったりできないヘタレ...なんですよね。
自分が悪いって背負ってしまうところが、幸宏。

まだ、聡志に電話しただけ、成長したと思います、はい。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【午後三時のメッセージ 3   冬威】へ
  • 【午後三時のメッセージ 5   冬威】へ