「Time After Time」
午前六時のアラーム音

午前六時のアラーム音 15   冬威

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「...俺が欲しかったもの?」

「うん、素のまんまの君を、僕は全部受け入れる。
 支え合って、甘え合いっこして、肩肘張らずに一緒に生きよう。
 君が、ずっと追い求めてたのは、そういう存在でしょ?
 守ろうとしてくれるのは、とっても嬉しいけど、一人で頑張らなくていいんだよ」

「............」

「それにね、勉強したいんなら、最高の環境を提供するよ。
 通学しなくてもいいように、ここに来てもらえばいい。
 どんなに有名な研究者だろうと、生きてる人なら呼び出せるよ」


伊織らしい破天荒な二つめの申し出には、さすがに首を横に振った。


「一つ目はすっごく嬉しい。でも、二つ目は遠慮するよ。
 そんな贅沢はできない。ただ、受験勉強とか手伝ってくれたらいいんだ」

「んー、遠慮しなくていいのに。
 ......ま、君らしいか。ほんとの君は、贅沢できない人だもんね。
 正確には、自分のためには贅沢できない人」


職業柄、人間のプロファイリングが得意なのは知っていた。
知り合ってからの期間も長い。
この調子では、何もかもお見通しだと覚悟するしかない。


「僕もクリニックは閉鎖する。
 タイミングがいいことに、今、抱えてる患者はいないしね。
 ここは、実家がやってる医療センターの分院扱いだから、手続きも簡単なんだ」

「いいの?」

「うん、あ、君さえ良ければ、ここに一緒に住まない?
 ただね、今住んでるマンションは、しばらくは残しといた方がいいよ」

「どうして?」

「お互い、長い間、一人暮らしだったでしょ。
 共同生活に慣れるまでは、逃げ場はあった方がいいからね」


さすが、北川の親友だけはある。
先を見通してから、慎重に行動するところは、北川と同じ。

感心していて、ひとつ、思いついたことがあった。
しかし、戸惑うほどの急な展開だ。
この思いつきは、もう少し後にした方がいいかもしれない。





「今日は、泊まっていきなよ」


ここに泊まるのも初めてだ。
昔、体の関係があった頃は、外でしか会っていなかった。


「うん、ありがと。じゃあ、着替え取ってくる」

「要らないよ。君のサイズはわかってるから、笹井に揃えさせた。
 君専用の部屋に、全部置いてある」

「もう、俺の部屋もあるの?」

「うんっ、案内するね!」


裸で歩こうとするのを、慌てて引き留めた。
下着を着けさせて、ガウンを羽織らせる。
いくら、この家がオールヒーティングだろうと、伊織には風邪を引かせたくない。

なされるがままになっていたが、ガウンの前を閉じ、ベルトを結んでやると、自分の手を握ってきた。
嬉しそうに、階段を上がっていく姿は、ワクワクしている子どものようだ。



「ここ!」


ドアを開けて、あまりの衝撃に固まるしかなかった。

そこには、自宅に置いてある家具や楽器、音響機器とほぼ同じものがあったのだ。


「俺、家の中の細かい話とかしたっけ?」

「ん?君の持ち物とか好みを参考にして、こんな感じかなーって選んでみたんだ。
 勉強したいなら、本棚をもっと追加するね!」


説明しながら、ワードローブの扉を開けてみせる。
自分が着用しているブランドのジャケットやボトムが、ずらっと並んでいる。

隣の小物箪笥には、下着やTシャツ、靴下など。
何もかもが揃っていて、全てが普段使っているものと同じだ。


「ここまで揃ってたら、何も持ってこなくても良さそうだね」

「気に入った?」


覗き込んでくるのに、頷いて応えると、嬉しそうに笑う。
その表情も、まるっきり子どものようで。

少しだけ、からかってみたくなった。


「これじゃあ、俺、まるっきりヒモみたいじゃない?」


本音ではない。
伊織にそんなつもりなどないことは、百も承知だ。


「君に財力がないのなら、そうなるかもね。
 意地悪だなぁ。今まで、僕が長続きしなかった理由、知ってるくせに」

「...ごめん。可愛すぎて、からかいたくなってさ。
 でも、言っていいことじゃなかったね」



伊織が、交際相手と長続きしなかったのは、ほとんどの相手が金目当てだったからだ。
そうでない者は、卑屈になってすぐに離れていったと言う。

中学生で、既にそういった輩に囲まれて、伊織は慎重にならざるを得なかった。
体の弱さも手伝って、用心深く相手を選び、深入りしないよう、心がけてきたのだ。


それだけ気をつけていても、うっかりと本気になってしまった男がいたらしい。
しかし、その男も金目当てでしかなかった。

エスカレートしていく要求を飲んでいくうちに、父に知られ、引き離された。
男も潮時だと思ったのか、相馬に睨まれるのが怖かったのか。
父からの手切れ金を受け取って、伊織の前から消えた。

そう、遠い目をして話してくれたことがある。





「モノじゃなくてさ。
 選ぶ間、俺のこと考えてくれてたのが、すごく嬉しい」


後ろから抱きしめれば、嬉しそうに笑っている。
哀しそうな言葉は演技だったようで、また上を行かれたかと少しだけ悔しくなる。


「うん、楽しかったなぁ。君の喜ぶ顔とか、驚く顔とか、たっくさん想像してた。
 僕が距離を縮めていくの、嬉しそうな顔になるのも、すっごく楽しかったよ。
 ただ、僕がずっと意固地だったから、恐る恐る、様子見してたよね。
 だから、勇気出して、僕から言ってみたんだ」

「ありがとう、ほんとに嬉しい。
 次は、伊織さんのやりたいこと教えてよ。
 体調に気をつけながら、二人でやりたいこと、計画しよう?」



耳元でそう囁くと、伊織がこちらに向き直った。
腕を背中に回してきて、ギューっとしがみついてくる。


「今は、隣にいてくれたら、それでいい。
 ゆっくり考えるのも、それはそれで楽しみでしょ?」











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