「Time After Time」
午前六時のアラーム音

午前六時のアラーム音 13   冬威

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「来年の三月で、芸能界は卒業するよ」


来年の契約について話し合うために、事務所へ寄ってきた。
現状では、息子とのバーターばかりで、「澤井冬威」自身へのオファーは、ほぼない。

契約を更新しないことで、そのまま、ひっそりと引退するつもりだ。
事務所側も、それで納得した。
ただ、春樹の足を引っ張らないようにと、釘は刺してきた。
それも、当然だろうとは思う。商品価値があまりに違うのだから。


相馬の家に入り浸っていることは、マスコミにはバレている。
ただ、相手が相馬なだけに、下手に騒ぎ立てられることもない。


「その後は、どうするの?何か、やりたいことでもある?」

「うん、図々しいかもしれないけど、伊織さんに手伝ってもらいたいことがあるんだ」



康生や弟から言われて、考えてみた。
瞳とのことが解決したことも背中を押した。


「俺、民俗学を勉強したいんだよね。
 通学は無理だと思うけどさ、独学は厳しくて。
 通信でいいから、大学行きたいんだ」


高校時代、たまたま読んだ高校生向けの入門書。
日本国内にも、自分が知らない世界がたくさんあるのだと教えられて、胸が躍った。
それも、少しずつ減って行き、いずれは消滅するだろうことは、衝撃でもあった。
状況が許せば、進学して学びたいと思っていた。
母や弟妹のことを考えると、叶わぬ夢でしかなかったが。

学者になりたいわけではない。
しかし、生活のためには、もう働かなくても済む。
趣味としてでいい。もっと学びたい。

二年前から、文化講座の通信教育を申し込み、テキストを取り寄せて受講していた。
わからない用語は、ネットで調べてみたり、用語事典を参照したり。
それでも、基礎的な教養がないせいか、今ひとつ理解できない。



「君、そんなこと考えてたの?
 今まで、一度も話してくれたことないよね」

「...恥ずかしかったんだよ。
 俺、高校中退で学がないから」

「でも、君、高卒資格持ってるじゃない。
 通信でいいなら、大学受験すればよかったのに。
 社会人入学なら、センター試験も要らないとこ多いよ」


五年前、テレビのバラエティ番組で、「高卒認定試験にチャレンジ」という企画があった。
若いアイドルたちと一緒に受験して、誰が合格できるかを予想するというものだ。
オチを期待されてのオファーだったが、深く考えずに受験して、合格してしまった。

三十年以上前に勉強したことでも、案外と覚えているものだと、その時は他人事のように考えていた。
冷静に考えれば、当時の方が分量が多く、難易度の高いカリキュラムだったはず。
そして、三年で中退した高校は、現在でもかなりの進学率を誇るエリート校だ。
男子校から共学に変わった時、校名が変更になったため、プロフィールでは気づかれにくいが。

結局、自分の撮影部分はほとんど使われずに、合格したアイドルたちの奮闘に焦点が当てられた。


「俺でもできるかな?」

「僕がいるでしょ?
 エイチだって、北川だって、原田だって、協力してくれると思うよ」

「エイチはともかく、聡志さんと修さんは無理じゃない?」


BANZAI-SANSHOの二人に接触してしまい、英一と鮎川に諌められた。
あれ以来、Crossroadには近づいてもいない。


「ん、出禁は、年明けに解除されるよ。
 この前、話はつけてきたから、心配要らない」

「え?本当に?」

「うん、海君と完君にも話はしてきた。
 あそこ、カップルばっかでしょ?一人で行くの、淋しいもの」


相馬が、あっけらかんと説明する。


「カウントダウンが無事に済むまでは、刺激しないようにしよう。
 だから、年明けまで待って、それからは、一緒に行こうね」

「え、それって......」


どういう意味か掴みあぐねて、相馬を見た。
ニッコリと子どものように笑って、相馬が答える。


「いつ言ってくれるかなーって、期待してたんだけど、自業自得だからしかたないよね。
 だから、僕から申し込むよ。僕と、おつきあいしてください」

「いいんですか?俺でも?」

「君以外、誰がいるの?」


向かいに座っていた相馬が、スルッと隣に座ってきた。
ティーカップを取り上げられたかと思うと、首に腕を回して抱きついてくる。

飲んでいたハーブティーと同じ香りに、ふわりと体中が包まれた気がした。



腰に腕を回して、長い髪に顔を埋めた。
深く息を吸い込んで、香りを楽しむ。
片手で頭を撫でると、滑らかで絹のような手触り。


「ベッド行く?」


クスクス笑っていた伊織が、耳元で囁く。
そのまま抱き上げて、寝室へと向かった。





「一つだけ、謝っとく。
 ずーっとヤってないから、挿れるのは無理かも」

「それだけがセックスじゃないから、気にしないで。
 俺も、昔みたいにはできないから、お相子」

「アラフィフのオヤジだもんね、お互い」



笑いながら、二人で脱がせあって、抱きしめて。
人肌の温かさが、こんなに心地よかったかと、また笑う。


「もう、自分でヤる欲もなくなってきてるんだ。
 だけど、こうしてるのは、気持ちいいね」

「うん、俺も。ドキドキはするんだけどさ。
 あ、伊織さんが、あんまり変わってなくて、驚いてる」


軽くキスを落とすと、ペロッと唇を舐められた。
その仕草も可愛らしくて、昔を思い出す。



ああ、そうだった。
普段は、穏やかで大人だけど、ベッドではいたずらっ子みたいで。
子どもみたいに甘えてくるとこも、意外で可愛かったよな。



二十年近くも昔のことなのに、抱き合えば思い出すものだと、妙な感心をする。

どう近づこうかと悩んでいたのに、ポンと向こうが飛び込んできた。
展開の早さに戸惑って、完全に伊織のペースに乗せられている。

少し落ち着こうと、体を起こすと、シーツに広がる髪の毛が輝いて見える。



「俺さぁ」

「ん?」


伊織の手が頬を撫でる。
その上に、自分の手を重ねて、湧き上がる想いを打ち明けた。


「好きな相手とするの、生まれて初めてだ」


伊織の笑顔が消え、泣きそうな表情に変化した。


「僕もだよ、冬威」


その時、初めて......伊織も孤独だったのだと、芯から理解した。











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~ Comment ~

NoTitle

孤独なんだ、っていうのは独りでいると分からない、らしいですね。
 でも、気が付いてしまったら、手を伸ばさずにはいられない。

冬威、もがいても前へ進んできた、その努力へのご褒美が出たみたい。
相馬せんせも、やっぱり気が付いて。

今度は二人で同じ道を歩いて行けると良いですね。

Re: NoTitle

二人とも、傍から見れば「恵まれてる」のに、実は淋しい生活だったんですよね。
特に、冬威は、流されて他人の指示通りにしか動けなかった、ある意味「社畜」でしたし。

年齢が年齢だから、激しい恋愛感情でなくとも、情で繋がることもあり、かなと思います。

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