「Time After Time」
午前六時のアラーム音

午前六時のアラーム音 10   幸宏

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湯浅には、簡単に電話で説明してあった。
月曜からは、普通に出社するとも告げてある。



ダメ元で、大阪行きを話してみるか。
ポストがないってんなら、降格でも構わねぇって。



人事システムが違うからと諦めていた。
しかし、合併という大きな変化があったばかりだ。
今なら、もしかしたら、という思いが浮かんだ。

そして、考えているうちに思い出したことがあった。
自分より後に異動してきて、合併後に大阪へ戻った社員が二人いる。

一人は女性で、結婚が理由だった。
もう一人は、親が病気になり、通院付き添いが必要になったからだ。



あー、俺には、表向きの理由がなんにもねぇんだよなぁ。
いっそのことバラしちまおうか......。

いや、ダメだな。
卓也に迷惑がかかるかもしれねぇ。



転職するにしても、同業他社は、かなり厳しいだろう。
業界最大手と二番手の合併が、終わったばかりだ。
そこから零れた人間で、とっくに席は埋まっているはず。



友達、いねぇもんなぁ。
相談する相手もいねぇって、俺、情けないかも。

そりゃ、卓也が心配するわ。
大樹を紹介してもらったから、軽いうちに対処もできたんだし。
あの店行ってなかったら、どーなってただろ。







週が明けて、いつも通りに出勤した。

ついグルグル考えてしまうが、目の前の仕事はこなさなければならない。
またミスでもすれば、いたたまれない。

幸い、症状は出ていない。
やはり、大きな負荷になっているのは、仕事でも会社の人間関係でもなく「超遠距離恋愛」なのだ。
モニタ越しでも、卓也の顔を見て声を聞いたら、症状が治まったのだから間違いないだろう。
プロの相馬も、そう判断している。

湯浅に確認したが、やはり、大阪に戻れる確率は限りなく低い。
戻った社員は、合併直後で組織が固まっていなかったことと、理由が理由だったからだ。

理由は、聞かれなかった。
適当に言おうと考えていたが、必要なかった。
湯浅は、何か勘づいているのかもしれないが、踏み込んでこない。




『今週末、Crossroadで飲みませんか?』


淡々と業務をこなし、家ではジリジリと考える。
そんな時間を過ごしていた時、大樹からメッセージが来た。



あー、あそこ行けば、なんかネタが拾えるかもな。
いろんな業種の人がいるしよ。
甘えすぎになんのはマズいけど、何でもいいから情報が欲しいわ。



即座に「行く」と返信してから、PCのメーラーを起動する。
昼休みに読んだ卓也のメールに、返事を書くためだ。

今のところ、まだ東京行きは決まっていないらしい。
上司からは勧められてはいるが、今のプロジェクトが最優先らしく、終わらないことには話も進まないと。


ここのところ、毎日のように、


『先走るな』

『後悔しないとは言い切れないだろ』

『俺は、お前ほど仕事が好きじゃないんだって』


繰り返し繰り返し、入力している。


卓也のメールには、決めたとも迷っているとも書いていない。
ただ、以前のように、日々の小さな出来事や食事の不満などの内容のみ。
だが、受診の翌日の苦しそうな声を思い出すと、卓也が暴走してしまうのではないかと不安になる。


返信を打ちながら、ふと思いついたことがあった。

もしかしたら、東京行きだけではなく、米国本社への引きもあるのではないか。

その場合、研究所での勤務になることは聞いていた。

就職後、会社のバックアップもあり、社会人のまま博士課程後期を終了している。
博士の学位も、母校だけでなく、欧米のいくつかの大学でも取得しているはずだ。



俺、何もわかってなかったかも......。
あれだけ、特許とか取れてんだから、よそには出したくねぇよな。
それに、研究職にしとく方が、会社にとっても得じゃんね。

今以上のポストが、日本の研究所にはないってことだろ。
いくら外資でも、卓也の年であまり上に行かせたら、組織運営に支障がある。
本音を言えば、アメリカ本社の研究所へ引き抜きたい。
だけど、卓也が拒否ってるから、外へ出さねぇための次善の策で、東京行き。

俺の憶測かもしんねぇけど、これって充分、可能性あり、だ。



向こうでの日常は、本人がメールや通話で教えてくれることしかわからない。
プロジェクト自体は、順調に進んでいるとは聞いた。
しかし、引きがあったとしても、自分には話さないことは、簡単に予測できる。





「先がない」と思い込んで、「いつか終わる」と覚悟していたつもりだった。
それは、卓也も同じだと、勝手に決めつけていた。

今度のことで、卓也がどれだけ真剣に想っていてくれたかに気がついた。
自分の中に、終わる覚悟などなかったことにも。



確実に言えるのは、俺は卓也ほど仕事が好きじゃないってこと。
あいつ、自分が仕事好きだから、俺も同じって、考えてそうだよな。

いくら説明しても、気を遣ってるとか思い込んでる感じするし。
すげー優しくて気が利くくせに、変なとこで頑固なんだもんなぁ。



まず、卓也に理解してもらうこと。
次に、自分にできる仕事を探すこと。

卓也の優先順位を確認すること。
研究できるなら、国内の他の機関に転職可能なのか。
これは、今の研究所との契約次第だろう。


いろいろと整理していくうちに、ほんの少しだが、光が見えた気がした。


週末には、仲間に会える。
情報を拾う程度の軽さではなく、きちんと相談してみよう。

頭を下げて礼を尽くせば、有用なアドバイスがもらえるかもしれない。

他人に頼ることは、自分にとって「恥」だと考えていた。
そんなことは、ただのちっぽけなプライドに過ぎないことを、もう知っている。


それも、あの店とクリニックで、気づかされたのだけど。











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