「Time After Time」
午前六時のアラーム音

午前六時のアラーム音 7   冬威

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瞳が携帯で連絡すると、春樹と沖田が戻ってきた。


「最後にひとつだけ、お願いがあるの。
 私が言うなって感じだけど、離婚届は、なるべく早く提出して欲しい」

「すぐにでも、籍を入れるつもりです。
 受理されたら、末次先生か春樹君を通じてでいいので、連絡してください」

「それが君たちの望みなら、帰りにでも出してくるよ」



あ、法律変わったんだよな。
条件次第では、すぐに再婚できるようになったんだっけ。

......まさか、急かされることになるとはね。



今度こそと勢い込んできたのに、大きな肩透かしを喰らったようだ。

離婚届を確認すると、保証人の欄には、沖田が記入していた。
空いているもう一方を記入するよう、瞳が春樹に頼んでいる。
隣の春樹を見ると、少し複雑そうだ。


ボールペンを瞳に返すと、春樹が大きく深呼吸。


「父さん、帰ろうか」


外へ出るように促してきた。


「母さん、退院おめでとう。
 また連絡するね。
 沖田さん、母をよろしくお願いします」


丁寧に頭を下げている春樹の肩を抱いて、病室を出た。





「僕、仕事が入ってるから、区役所まででもいいかな」

「すまんな。一駅手前でいいぞ。
 下手に見つかると、お前が大変だろ」


来た時と同じように、念のため、サングラスをかける。
運転席の春樹は、伊達メガネにニット帽。





「これで、肩の荷が下りたよ」


通りに出て、車の流れに乗った後、春樹が静かに話し始めた。





子どもの頃はね、母さんの話しか聞いてないからさ、父さんを恨んだりしてた。
ユージから嫌がられてたのもあったしさ。

でも、大きくなってくると、なんとなくだけど、わかってくるもんなんだよね。
母さんが、どうしてカンを毛嫌いするのか、とか。
......カンとコウセイ、そっくりだもんね。

それがわかってくると、今度は疑問が湧いてきた。
母さんが可愛がってくれるのは、僕が父さんにそっくりだからかな、とかさ。
もし似てなかったら、どうなったんだろう、とかね。

父さんは、僕に興味が持てないのは、母さんのことが嫌いだからなのも感じてたし。
母さんに見捨てられたらどうしようって、すっごく怖かったな。
だから、母さんの言うことは何でも聞いてた。

芸能界も、最初は興味がなかったけど、母さんが勧めるから頑張ってみた。
やってるうちに、演技に興味が出て、向いてる気もしてきた。

なのに、急に母さんが「バンドでデビューしろ」って言い出してさ。
カイたちが、僕より目立つのが許せなかったみたいなんだ。

あの時は、困ったなぁ。

もう「俳優になる」って、決めてたし、ロウたちに迷惑かけるわけにもいかないし。
ロウたちには、川上親子が絡んでるからって、事務所が諦めてくれて、ホッとした。

それでも、母さんだけは諦めてくれなかったから、家を出たんだけど......。





「お前のせいじゃない。瞳の心が、弱かったせいだ。
 そして、俺が無関心過ぎたからだ。自分のことを責めるな」


瞳がアルコール依存症になった原因は、自分にある。
春樹は、そう自分を責めていた。


「うん、お医者さんにも言われたし、治ってきてからは、母さんもそう言ってくれた。
 だけど、やっぱり、ずっと引っかかってたんだよね。
 だから、母さんが変わって、穏やかに過ごせるようになったの、心底、ホッとしたんだ」

「悪かったな。俺が、もっと大人になれていれば、お前に苦労はかけなかったのに」



振り返れば、春樹に対しては、ただ無関心というわけではなかった。
少し複雑な感情を、持っていたような気もする。


最初は、足かせにしか思えなかった。
妹の千秋に諭されて、父親としての責任は果たそうと覚悟したが、愛情は持てなかった。
しかし、瞳が過剰に執着しだした頃には、追い詰められて、自分のように病むのではないかと心配になった。

そして、立派に独り立ちして、俳優として評価される姿を見て、安堵を覚えた。


自分より、強く賢く、優しい。

仲間にもスタッフにも恵まれたことを、親として天に感謝したい気持ちになる。

......今さら過ぎて、決して口には出せないが。


育児にも進路相談にも、一切、関わってこなかった。
自分が親だと言うことで、マイナスも大きいことだろう。

それでも、春樹は、自分を好きだと言ってくれる。




「トンビが鷹を産んだ。
 言葉通りだな、俺たちは」


春樹の横顔を見ていると、そんな気分に良くなった。
つい、言葉にすると、春樹がクスッと笑い声を零す。


「父さん、よくそれ言うよね。
 でも、澤井冬威は、やっぱりスターだよ。
 シンガーとしての「トーイ」には、僕は一生追いつけないと思う」


春樹のデビュー当初、事務所がソロシンガーとしても売り出そうとした。
しかし、タイアップでシングル二枚を出して、それっきりだ。
シンガーとしての才能はないと判断された結果だろう。



「ああ、次は美唯を連れてくるよ。
 来年辺り、入籍しようと思うんだ」


ミユとは、春樹が同棲している女性のことだ。
交際を始めて、そろそろ二年になる。


「そうか。お前たちなら、潰されることもないだろう」

「父さんは、一緒にいてくれる人はいるの?」

「俺のことは心配するな。お前の足を引っ張るようなことは、絶対にしないから」

「そんなことは心配しなくていいよ。
 親のスキャンダルで潰れるなら、とっくに潰れてる。
 母さんみたいに、父さんも幸せになって欲しいだけだよ」

「お前、言うようになったなぁ」


思わず苦笑が浮かぶ。


「まぁ、介護が必要になっても、僕がなんとかするからね」

「ありがとう。父さんだって、そのくらいは考えてるから大丈夫だ。
 自分たちの幸せだけ、考えてなさい」


そう返事をすると、車が緩やかにスピードダウンしていった。
周りを見渡すと、目当ての区役所まで百メートルほど。


「じゃあ、またね」


下手に見送っていると、春樹に迷惑になる。

ドアを閉めて、足早に歩道へと移動した。











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