「Time After Time」
午前六時のアラーム音

午前六時のアラーム音 5   冬威

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十月に入った。

相馬とは、月に一度ではなく、週に一度、会うようになっていた。
自宅で手料理を振る舞ったり、二人で飲みに行ったり。

言葉数は少なくとも、気を遣わずに過ごせることが、心地よく嬉しい。

しかし、昔のように、肌を合わせてはいない。
相馬にその気がなさそうなので、無理に誘うことはやめている。

相馬は体が弱く、体力がない。
既に五十を越えて、欲もないのかもしれない。
自分自身、随分と欲が薄くなくなってきたと感じている。


ただ、抱きしめてみたいのだ。
あの長い髪を、この手で梳いてみたいとも思う。

すぐそばにいるのだから、それぐらいは...と手を伸ばしそうになるが、躊躇する。

もし、相馬に拒絶されてしまったら、また縮まった距離が元に戻ったら。

二十年もの間、保っていた距離だ。
急激に近くなって、戸惑っているのは、自分の方だ。

そんな危険を冒すくらいなら、今のままでいい。
まるで、高校生の恋愛のようで、自分でも笑ってしまうけれど。


それに...次に相馬に触れるとしたら、遊びではなく本気だと示したい。

康生の時のように、激しく恋い焦がれていたわけではない。
それでも、拒絶されたくはない、縁を切られたくない、そんな想いをずっと抱いてきた。

相馬が言ったように、恋愛ではなく「情」なのかもしれない。
だが、そんな感情が湧くのは、相馬だけだ。

定義など、どうでもいい。
失いたくない、切実にそう願う。


真剣だとわかってもらうためには、向き合わなければならない、大きな問題がある。
逃げていては、相馬には伝わらないだろうから。







『父さん、なるべく早く連絡をください。
 今夜は、十時以降なら電話に出られるから。
 遅くなっても構いません』


久しぶりに出演したドラマの番宣で、バラエティ番組に出演した。
脇役でも、まだその程度の需要はあるのかと驚いたが、話題は息子のことばかり。
まだ思い上がった部分が残っているのかと、情けなさに苦笑が浮かぶ。

収録を終え、携帯をチェックすると、その息子からのメッセージ。
困ったような声音に、すぐにかけ直そうとして、思い留まった。
誰が聞いているかわからない。
早く家に帰った方が良さそうだ。



自宅に帰り着いてすぐ、着替える間も惜しんで、春樹に電話をかけた。


「春樹、どうしたんだ?」

『ああ、父さん。今、どこ?』

「もう家だから、大丈夫だ」


春樹も周りを気にしたようだ。
帰ったのは正解だった。


『母さんがね、父さんと俺と話し合いたいんだって』

「会っても大丈夫なのか?」

『うん、うつの治療の後、依存症のカリキュラムも無事終了した。
 来週には退院できるって、今日、先生に聞いてきたところ。
 それで、これからのことを決めようって』

「わかった。お前の都合に合わせる。
 日時が決まったら、連絡してくれ」


タイミングが、いいのか悪いのか。

向き合おうとしたのが、あちらに伝わったのか。



こんなことでもなければ、ぐずぐずして先送りにしてたろうな。
春樹には悪いけど、今度こそ、瞳に納得してもらわないとダメだ。



康生への好意を見抜かれて、脅迫された。
その当時は、誰にも相談できなかった。
事務所の社長やマネージャーにも、康生のことは話せなかった。

対処できずに、ズルズルと交際が続いた。
そして、瞳の妊娠が発覚して、結婚。

ルイと英一に話したのは、春樹の出生直後。
春樹をどうしても愛せなくて、二人に叱られた時だ。


愛想を尽かされようと、浮気を繰り返して、家には寄りつかなかった。
それでも、瞳は離婚を拒み続けてきた。
自分そっくりに育つ、春樹を溺愛して、縋りついて。


瞳だけが悪いわけではない。
自分にも落ち度はあった。

今では、そう考えられるようになったが、当時は、瞳の声を聞くだけで吐き気がした。
加えて、康生への片想いとメンバー全員へのコンプレックスを拗らせて、体調までおかしくなった。

相馬が、見かねて名刺を渡してきたのは、そんな頃だ。




『来週木曜の午前中に決まったよ。
 早朝で悪いけど、六時に迎えに行くからね』


瞳が入院しているのは、都内から車で三時間はかかる郊外にある専門病院。
わざと自由診療にして、患者数を絞っているのは、芸能人や政財界の有名人が治療を受けているからだ。
相馬の弟がトップである、医療法人のうちの一ヶ所でもある。

瞳が入院しているのは、もうとっくにマスコミにはバレている。
春樹が暇を見つけては見舞いに行っていることも、何度かネタにされていた。



木曜までに、弁護士と相談しなきゃな。
どんな条件でも飲むつもりだが...さすがに丸裸にされるのは困る。



財産分与や慰謝料の額。
弁護士と相談してはいたが、前回から間が空きすぎている。
再計算が、必要になってくるだろう。
携帯の電話帳から、弁護士の末次を選び出し、番号をタップした。







「お久しぶりです」


木曜、瞳の病室へ入ると、意外な人物がいた。
瞳が芸能活動をしていた頃、最後のマネージャーだった...確か沖田という男だ。

話し合いと聞いていたから、弁護士でもいるのだろうと思っていたが、肩透かしを喰らった気がした。


「お久しぶりです」


我ながら、間抜けな挨拶だ。

瞳は、なぜ沖田を呼び寄せたのか。

理由もわからず、ただ戸惑っていた。











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