「Time After Time」
午前六時のアラーム音

午前六時のアラーム音 4   幸宏

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大通りで車が止まった。
店は、一本裏に入った通りにある。
相馬と並んで、五分ほど歩いた。


店に到着すると、広い方の個室に案内される。

初めて見る顔が二つあった。
立ち上がり、礼儀正しく頭を下げてくる。

二人とも、二十代後半ぐらいか、かなり若い。

一人は、鮎川以上に背が高く、エキゾチックな容貌。
日本人には見えないが、だからと言って、系統がはっきりわかるわけでもない。

もう一人は、誰かに似ているのだが、その誰かが思い出せない。
最近、こういうことが多くなったと、自分の老いを悔しく思う。


「都合がついたんだね。来てくれて、ありがとう」


相馬が、二人に話しかけた。

英一が、気を利かせて紹介してくれた。


「BANZAI-SANSHOのカイとカンだ。
 とーちゃんがプロデュースしてる」

「はじめまして。石田海です」

「青木完です」

「あ、はじめまして。川瀬幸宏です。
 ゴメンな。俺、音楽詳しくなくて。
 曲は聴いたことあるんだけど、顔までは知らなかった」



BANZAI-SANSHOと言えば、若い部下たちに人気のバンドだ。
課内に一人、熱狂的なファンがいて、よく話題にしている。
最近の音楽には、さして興味はないが、一つだけ気になることがあった。

元HAKONIWAのメンバーたちの二世で、結成されているらしいこと。

完がコウセイに似ているのだと、やっと気がついた。
ということは、もう一人はユージの息子か。



SMSのファンではあるが、ほぼ同時期にデビューしたHAKONIWAも好きだった。
特に、ヴォーカルのトーイは、見た目と声が好みでファンだった。

......と言うより、幼い小学生の自分にとって、トーイは憧れの王子様だった。
恥ずかしくて、友達にも誰にも言えなかった。
一人でテレビで見ては、うっとりと夢想した。
中学に入る頃には、惹かれる理由を理解して、死にたくなったこともある。

それでも、嫌いにはなれなかった。
卓也には、苦い思い出話として、テレビでトーイを見かけた時に話している。

解散が決まった時は、気落ちした。
俳優の澤井冬威より、HAKONIWAのトーイが好きだったから。
ちょうど、就活の頃だった。



あー、トーイとユージが決裂したんだっけか。
なら、トーイのファンだったことは、言わねぇ方がいいよな。



トーイ以外で結成されたバンド、REAL WORLDは、音が重く好みではなかった。
元々が、熱心な音楽ファンでもないので、新譜が出る度に買うのは、SMSくらいだ。



相馬との話し合いの結果を報告すると、北川たちは納得したようだ。
それだけ、自分の表情や顔色が明るくなっていたということだろう。

報告の後、相馬は席を移動して、BANZAI-SANSHOの二人と話し始めた。





自分の周りには、北川と原田、英一と鮎川の二組が座っている。
翼と和哉は、BANZAI-SANSHOのそばで、相馬の話に耳を傾けているようだ。


「軽い内に対処できたみてぇで、よかったよな。
 笙も心配してたから、俺からメールしとく」

「あ、自分で報告します。
 きちんと、お礼言わないと」


慌てて断ると、鮎川がニヤニヤ笑っている。


「お前は、相棒と話し合った後でいいんじゃねぇか?
 少しは、察してやれよ。
 おっさんになるとな、口実でもないとメールなんてしにくいもんなんだ」

「駿!」


英一が真っ赤になり、鮎川に抗議している。
焦って取り乱したのを初めて見て、笑いそうになるのを必死に堪えた。



英一さんって、普段がクールな分、焦った顔が可愛いよな。
鮎川さんがからかいたくなる気持ち、すげぇわかる気がする。





「鮎川さんが言う通り、卓也君と話し合った後でええんちゃうか。
 もう、ほとんど結論は出たようなもんやろうけどな」

「そうだね。俺からも、伊織のことをメールする予定だから、多少、遅くなっても大丈夫」


相馬たちが熱心に話し込んでいるのを見て、ここに来る前に湧いた疑問を思い出した。


『患者と医者になってしまえば、プライベートでは関わらない』


そう聞いていたのに、同行したのは何か意味があるのだろうか。
疑問を口にすると、北川と原田が応えた。


「それはね、俺たちも驚いてる。
 電話で少し聞いただけだから、はっきりとはわからないんだ。
 ただ、心境の変化が起きたことは確かだと思う。
 後で、ゆっくり聞かせてもらうつもり」

「せやな。最初は俺と聡志に話してからやろ」


さらに、車中でこの店について説明されたことを話してみた。
今度は、鮎川と英一が驚く番のようだ。


「伊織のヤツ、そこまで話したのかよ?」

「あー、もう時効ってことかもな。
 伊織さんの親父さんも亡くなってるし...。
 ルイさんいなくなってから、もうすぐ二十年だもんな」

「もう、そんなになるか。
 キースさんもケンさんも、追っかけてっちまったな」

「うん...まだ実感ないんだけどな、俺」


ルイと呼ばれたのが、相馬父の友人なのだろう。
しかし、英一と鮎川の表情が曇ってしまったので、これ以上は聞かない方がいいと判断した。


相馬を見れば、まだ話は続いているようだが、もうすぐ最終電車の時刻。
タクシーで帰ることも考えたが、ここは切り上げた方が無難だ。
明日の話し合いに備えて、調べたいこともある。
北川たちに報告したことで、タスクは終了している。


「俺、帰ります。明日、話し合いが終わったら、メールか電話で報告します」


立ち上がって頭を下げると、相馬がこちらを見た。


「あ、僕のところには、電話してね。
 結果次第では、予約取ってもらうことになるから」


ニコニコと笑う相馬は、昼間と同じ、穏やかで優しい表情になっていた。











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~ Comment ~

NoTitle

音楽は、本当に好みがはっきりしてますね。
私も、「この歌手のこの歌が好き! 」 と言うのがあります。

幸宏にとっては憧れの ’トーイ’ ですが本人にとっては・・、ですもんね。
でも、Crossroadが幸宏にとっても安らげる場所になってるのが嬉しいな、と思います。

私は年だけくってるから、叱ってくれる人がいるのは羨ましい・・・。

Re: NoTitle

ミュージシャンだろうがアイドルだろうが、人を惹きつける才能があればいいんじゃないかと思うんですけどね。
ファンのあり方や本人の自意識では、「ミュージシャンになりきれなかったアイドル」ってのが、冬威のコンプレックスの根源みたいなので、なんとも。
当時十二歳の幸宏を目覚めさせたトーイって、それだけエロカッコよかったわけで。

「男の子がプライド拗らせるとめんどくさい」典型かもしれません。
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