「Time After Time」
午後十時の薄明かり

午後十時の薄明かり 13   冬威

 ←午後十時の薄明かり 12   幸宏 →午後十時の薄明かり 14   冬威

ジムでトレーニングをこなし、シャワーを浴びた後、携帯をチェックした。


『兄貴、年末年始の予定は決まってる?
 もし空いているようなら、そっちに行くから会いたいんだ。
 今夜は九時以降、自宅にいる』


大阪に住んでいる、弟の七海からだ。

お互い、仕事ついでに食事をすることはあった。
七海のパートナー、江藤烈と三人の時もあれば、妹の千秋と三人の時もある。

それも、ここ何年かは機会がなかった。
仕事が減り、大阪に行くことが少なくなったからだ。
七海が昇進して管理職になり、東京へ出張する機会が減ったこともある。



わざわざ、年末年始に東京へ来るなんて。
烈君の家で、何か問題でもあったか?



七海は、五歳下で、この夏に四十五になった。
末っ子で甘やかしたせいか、いつまでも幼い気がしていたが、そんな年になったかと驚いた。

事実、一流と呼ばれる大企業で、課長職に就いている。
中年太りや抜け毛を心配するようになったのは、もう何年も前のことだ。


『兄貴みたいに、体のメンテに、時間や金はかけられないからね。
 烈に嫌われないように、できる範囲で頑張ってるよ』


この前の電話でも、そう明るく笑っていた。

七海は、自分や妹の千秋とは違い、少し鈍く気が利かないところがある。
本人も自覚していて、気をつけてはいるが、たまに失敗するようだ。

しかし、その分、おおらかで明るく、動じない。
自分にはない、大きな長所を持っている。

江藤も、そんな部分に惹かれたと、恥ずかしそうに教えてくれた。





「なな、どうした?」


午後九時十五分、七海にコールする。

九時きっかりでは、のんびり屋の弟を慌てさせる。
あまり遅くては心配させる。
大学進学のために、七海が引っ越してからの習慣だ。


『あ、兄貴がREALのカウントダウンに行くって、メールくれたじゃん。
 俺たちも行けることになったから、一緒にどうかな?
 烈以外のメンバーも、できれば紹介したいんだ。
 三ヶ日、ゆっくり過ごさない?』

「お前たち以外もか?
 俺は予定はないし、別に構わないが......」

『兄貴のことは、随分前に話してあるよ。
 ああ、例の「エイチの妹分」も来るからね。
 って言うか、そいつがエイチにチケット頼んでくれたんだ。
 SMSとBANZAI-SANSHOも演るんだって?』

「そうらしい。ゴウ一人では、長時間は厳しいそうだ」

『...そっか。要が、心配してたんだよね。
 ああ、要のことは話したよね。あいつ、職業柄、詳しいからさ。
 そうだ、ホテルなんかは心配ないからね』

「ここに泊まっていいんだぞ?六人なら余裕だ」

『ううん、笙の知り合いのマンションがあるんだ。
 んでさ、おせちとかも用意するから、兄貴もそこに泊まりなよ。
 そっちに行くと、マスコミとかヤバいじゃん。
 また間際になったら、詳しいこと連絡するからね。
 絶対に、忘れないでよ?!』


明るく元気な声で、電話は切れた。



年末年始を誰かと過ごす。
こんな些細なことも、久しぶりだ。


春樹が一人暮らしをするまでは、親子三人でハワイへ行った。
現地では別行動ではあったが、事務所の社長からの命令だったから、逃げるわけにもいかなかった。

瞳の希望らしかったが、同じフライト、同じホテルで別の部屋。
マスコミ対策に、行き帰りだけは同行。
そんな寒々しい行事も、春樹が親離れしてからはなくなった。

それ以降は、ほぼ一人で過ごしてきた。
仕事は休み、トレーニングもエステもなし。
ベッドでダラダラと寝ては、妹と弟、英一からのメッセージを楽しみに待つ。
人からは「淋しい生活」と揶揄されるだろうが、瞳と仮面夫婦を演じるより何倍もマシだ。

その瞳も、ハワイになど行けなくなってから、何年も経つのだが。





話は、さんざん聞いたけど、実物に会うのは初めてだな。

エイチと鮎川さんが誉めてたよな。
アマとは思えないくらい、巧いって。
ちょうど、ななは出張で参加できなかったんだよな。
悔しがると思ってたのに、仕事だから仕方ないって、あっさり言ってた。
...あの時、ほんとに大人になったんだって、実感したんだっけか。



携帯に保存していた、古い画像を呼び出した。

まだ二十代の頃の七海たち。
メンバー全員で行った旅行や、忙しい中、時間を合わせて行ったライブ。
そのどれもに、活き活きと楽しそうな、時には真剣な顔の、弟がいる。



えっと、これが、笙ちゃんだよな。
エイチも言ってたけど、ほんと妹っぽいよなぁ。
宗次郎さんとは、全然似てないのに、エイチとはそっくりだ。

要君は、普段とステージでは、全然違うな。
そういうとこは、レンさんっぽいかな。

こっちが、昇平君。リーダーだったっけ。
ああ、面倒見が良さそうなのは、表情でもわかる。
ギターも、あのゴイチが誉めてたくらいだ。
かなりの腕なんだろう。

由人君...髪を切る前は、ルイさんにそっくりだ。
大ファンだったらしいから、見た目も寄せてたんだろうなぁ。

ななも烈君も言わないけど...彼、ゲイなんじゃないかな?
それも、烈君狙いだったとか。
途中からは、吹っ切れてる感じだけど、烈君見てる眼差しが優しいもんな。

ななは鈍いから、そこら辺で何かあったのかもしれないけど。
それでも、縁が続いてるのは、お互いに理解してるからだろうな。



弟は、ゲイなことを恥じて、自分や妹から遠ざかった。
そのことに気づいた時、自分のセクシュアリティを、早く言ってやればよかったと後悔した。
しかし、離れたことで、独り立ちして、パートナーと一生の友人という宝を見出した。


『何がどう転ぶか、わからないんだって。
 その時、その場で、できることをするしかねぇんだ』


英一の顔が、口癖とともに、頭に浮かんだ。











にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ 3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ 3kaku_s_L.png Time After Time
総もくじ 3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ  3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ  3kaku_s_L.png Time After Time
総もくじ  3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【午後十時の薄明かり 12   幸宏】へ
  • 【午後十時の薄明かり 14   冬威】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【午後十時の薄明かり 12   幸宏】へ
  • 【午後十時の薄明かり 14   冬威】へ