「Time After Time」
午後十時の薄明かり

午後十時の薄明かり 12   幸宏

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翌日、火曜の朝。
前日と同じ異常を感じた。

体が怠く重い。
目は覚めているものの、起き上がろうとしても、なかなか体が動かない。

睡眠は、きちんと取れたはずだ。
寝つきは悪くなかったし、夜中に目覚めることもなかった。

それでも、アラーム音がいつもより耳障りで、無性に苛ついた。
止めようと手を伸ばすが、動きが鈍すぎてなかなか届かない。
やっとのことで音を切っても、頭は重く、息苦しいのが治まらない。



こりゃ、休んだ方がいいな。
ちゃんと寝てんのに、吐き気がするなんて、完全におかしくなってるとしか思えねぇ。



ベッドの中で、しばらく考えた後、動けるようになるのを待った。
不思議なもので、休むと決めてしまえば、怠さや頭痛が引いていく。
まるで小学生のようで、我ながら情けない。


ノートを起動して、今週のスケジュールを確認した。

責任者として携わっているプロジェクトは、昨日、報告書を提出し、一段落したところだ。
現在、進行中のものは、現場からの報告を待つしかない。
それも、一月近く先の話だ。

課員それぞれのフォローだけ、湯浅に頼んでおけばいい。
昨日の今日で、厚かましいと思われるかもしれないが。

湯浅の携帯にメッセージを残す。
折り返し、掛けてくるだろうから、二度寝はそれまでお預けだ。



待つ間、湯を沸かし、ネルドリップで、コーヒーを淹れてみた。
卓也が来た時、コーヒーメーカーだったことに、小さく呆れる。
元はと言えば、卓也がコーヒー好むからと、道具を揃え、淹れ方を覚えたのだ。

ゆっくりと、湯を注ぐ。
膨らむ粉を見ながら、考える。



んー、いつまで内緒にできっかなぁ。
あまり引っ張ると、大樹から話が行っちまうかもだし。
だからって、何もわかんねぇのに話してもさぁ。
心配させるだけで、何の対処もできねぇのはマズいだろうし。

......病院行ったら、なんか病名とかわかんだろ、それからだな。



マグカップに少しだけミルクを落として、砂糖はなし。
飲める程度に冷めるのを待つ。

いきなりブラックでは、胃が荒れる。
そう、卓也が心配するから、空腹時にはミルクだけ加えるようになった。
この習慣も、つきあうようになってから。

生活の端々に、卓也の存在が染み込んでいる。
意識するまでもなく。




始業時間まで十五分となった時、携帯が音を立てた。


『おう、俺だ。昨日の今日かよ』


湯浅だ。からかうような言葉とは裏腹に、声は厳しい。


「はい。どうも、部長のご推察の通り、どこか壊れてしまったようです。
 知人の紹介で、今週土曜に心療内科を予約していたんですが...」

『それまで踏ん張れなかったってわけだな。
 心配するな。今週は溜まってる有休消化しろ。
 昨日、俺が強引に取らせたってことにするから。
 んでな、医者が休めって言い出したら、遠慮するなよ。
 先のことは、体調治ってから、ゆっくり考えりゃいいんだ』


話を遮って、矢継ぎ早に言葉が飛んでくる。
昨日も思ったが、湯浅の本質は、社内で見せている顔とは、別のところにありそうだ。


「はい、会社のために、命は賭けません。
 とりあえずは、土曜の診断結果を待ちます。
 報告は、部長に直接でいいですか?」

『ああ、俺の携帯に掛けてこい。
 土曜は、特に用事はないから、すぐに出られるようにしとくから』

「ご面倒かけて、申し訳ありません。
 急ぎの仕事はないはずですが、何かありましたら、携帯にお願いします」

『掛けない。ゆっくり寝るか、気晴らしにでも出かけるんだな』


そう言い切って、湯浅は通話を一方的に終了した。



掛けないって...掛けないって......。

湯浅部長、面白すぎんだろ?!

そりゃ、ストレスで壊れかけてんだから、仕事は忘れろってことだろうけどさ。



湯浅の発言に不意を突かれて、しばらくは声を上げて笑っていた。

しかし、冷静になってみると、「自分でなければできない」仕事があるのか不安になってきた。


ルーティンの業務は、補佐の田中で事は済む。

急ぎの仕事はない。

どのプロジェクトも、自分がいなくなろうと、誰かが代わりに進行できる。


当然のことだ。

個人商店ではない。

大きな企業体だ。

たかが一人の中間管理職がいなくなったところで、大きな影響があるわけがない。


新入社員の頃から、言い聞かせてきたつもりのことを、すっかり忘れてしまっていた。



これを機会に、よーく考えろってことだな。


なーにが「歯車になるつもりはない」だ。
しっかりどっぷり、社畜になってんじゃねぇか、俺。

食えりゃいいとか言ってたくせに、評価されて、天狗になってたな。
好きな仕事でもねぇくせに、どっかで、エリート根性が抜けてねぇんだ。

ああ、せっかくの連休だってのに、卓也に会いに行くこともできねぇじゃん。
どーせだったら、計画立てて、アメリカ行きたかったなぁ。



思わず零れた本音に、自分でも驚いた。
卓也に甘えまいと頑張っていたつもりが、しっかり頼りにしているではないか。


とりあえずは、土曜まで、ぽっかりとできた休みをどう使うか。

もう一眠りしてから、ゆっくり考えることにした。











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Re: NoTitle

仕事って、忙しい人間のとこへ集まるんですよね。
処理できるから頼まれる→こなしちゃうから平気だと思われる、のスパイラルができあがると、本人もそれがデフォルトになってしまったり。
んで、「忙しいが当たり前」になると、仕事を断れなくなっていくんです。
断る前に、頭の中で「えーっと、ここに隙間があるから、ここでやれる」って判断してしまうんですよ。
断るのがめんどくさいから(笑)

幸宏の場合は、どうなっていくんでしょうねぇ...。

> ま、面接で、 「やりたい事があるので、試験に受かったら会社辞めます」 
> なんて言っちゃったくらい能天気だったからでしょうね。
↑すみません。これ、爆笑しちゃいましたw
 そのくらいの余裕かましてみたかったですwww
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