「Time After Time」
午後十時の薄明かり

午後十時の薄明かり 9   幸宏

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卓也の赴任から、三ヶ月が経った。

直線距離で一万㎞、時差はマイナス十四時間。
東京大阪間の距離など、比べものにならない。

しかし、卓也は約束通り、毎日のようにメッセージを送ってきている。

性格そのままに、完結でわかりやすい文章。
その日の出来事や天候、ローカルニュースなどの最後に、必ず自分を気遣うメッセージ。

自宅のPCから携帯に転送して、昼休みに読むのが日課になった。

返信は、帰宅してから。
その日一日を思い出して、卓也に話しかけるように、キーを打つ。

日本にいる時とは違って、時差を計算しなければ、簡単に通話することもできない。
同じように会えないだけだと考えていたのに、距離と時差に押しつぶされそうだ。



『明日、お暇ならいらっしゃいませんか?
 師匠が出張で来るので、是非紹介したいです!』


卓也へ送信した後に、大樹からのメッセージを受信。

大樹とは、引き合わされた後、バー「Crossroad」で、二度ほど飲んだ。
そして、何人もの知人に紹介された。

友人であり、Crossroadの昼の責任者である、西山翼。
そのパートナーで、フリーの編集者、麻野和哉。

店のオーナーで、本職は大学教員、北川聡志。
パートナーで同じく大学教員、原田修。

驚いたことに、ベテランミュージシャンまでがいた。

ロックバンド「SMS」のベース、エイチこと川上英一。
マネージャーの鮎川駿。

この二人を紹介された時は、興奮を押さえるのに苦労した。
SMSは、高校生の頃から、ずっと好きで聴いている。
卓也と意気投合したのも、互いがSMSのファンだったからだ。





「いろんな人と知り合いなんだ」


ただひたすら感心してそう言うと、大樹は、ニコニコと笑っていた。


「大元は、師匠ですよ。
 師匠が、皆さんに引き合わせてくれたんです」


大樹が返事をすると、即座に英一がツッコんだ。


「師匠なんて呼び方してたら、笙が嫌がるぜ?
 まぁ、弟子だけあって、切り替えは得意だから大丈夫だろうけどな」

「大樹は、俺たちが言いつけるとか、ぜんっぜん考えてもないもんな!
 そーゆーとこ、大好きだ」


翼が、無邪気にそう言うと、大樹以外が頷いている。
大樹と翼に対しては、年若いせいか、皆の視線が優しい。
それぞれのパートナーだけでなく、見守るような表情を浮かべているのだ。

そんなことを考えていると、表情を読んだのか、英一がニヤッと笑う。


「俺らからしたら、お前だって、充分に若造だっての。
 もっと若いヤツらもいるけど、ここんとこ忙しくてな。
 おいおい、紹介することになる。
 ま、ここにいる時は、肩の力抜けよ。
 口外するようなバカは、一人もいねぇしな」



頭のいいヤツって、死ぬほど見たつもりだったけど。
あそこに行くと、上には上がいるって、実感するよな。
学歴とか関係なく、全員、地頭がいいって感じ。



たった二度、それだけで圧倒された。
これまでの人生より、何倍も濃い人間関係を目の当たりにした。

一癖も二癖もある、常連たち。
その全員が評価する、大樹の師匠こと、元上司。
会うのが楽しみなような、怖いような、複雑な気分になった。






翌日の金曜夜。

一度帰宅し、着替えてから、店へ向かった。
ビジネススーツでは、少し居心地が悪い。

常連客の職業柄、スーツ姿の人間は少ない。
いつもネクタイを締めているのは、鮎川くらいだ。
その鮎川が着用しているのも、いわゆるビジネススーツではなく、フルオーダーや高級ブランドのもの。
薄明かりの下でも、はっきりと、格の違いがわかってしまう。

あの場では、服装や持ち物で、その人間を評価するようなことはない。
わかってはいても、惨めな思いはしたくないのが人情というもの。
いっそのこと、量販店のカジュアルウェアを着ている方が気楽なのだと、二度目に理解した。


大きな方の個室に入ると、自分以外は揃っているようだ。

いつもながら、明るく賑やかで、しかし、騒々しくはない。
三度目でしかないが、この雰囲気は好ましいと感じている。




「幸宏さん、こちらへどうぞ!」


弾むような声で、大樹が立ち上がって手招きする。
その隣に、誠がなぜか神妙な顔で座っている。
逆隣りは一人空き、そのまた隣に初めての顔があった。


「はじめまして、川瀬幸宏です」

「大樹から聞いてる。及川笙て言うねん。よろしくね」


聞いていなければ、男と間違えたかもしれない。
ショートカットに化粧っ気がなく、華奢ではあるが背が高そうだ。
中性的な顔の作りに、冷静で知的な表情。

誰かに似ていると感じた瞬間、正解が飛び込んできた。


「俺の妹分。手強いから、用心しろよ」


英一が笑いながら、及川の肩を抱いた。
顔の造作や表情がよく似ている。


「英兄、どんな説明やの、それ」


及川が、笑いながら英一を見る。
二人が家族同然であることが、表情や言葉から窺い知れた。


「血が繋がってるのは、ヴォーカルの宗次郎さんなんですけどね。
 仲良しなのは、英一さんなんですよ」


大樹の説明で、SMSのメンバーが中学時代からの友人であることを思い出した。
しかし、笙については、公式サイトやファンのSNSでは、目にしたことがなかった。
ファンだが知らなかったと素直に話すと、笙と鮎川が説明してくれた。


「私は私。関係ない仕事してるしね。
 第一、あのアホと血が繋がってるのなんか、恥にはなっても自慢にはならん」

「相変わらず、手厳しいな。
 あいつも、かなりマシにはなってきたぞ?
 ま、うちはプライベートは公開しないってことにしてるんだ。
 SNSで流れることはあっても、すぐに削除依頼してるしな」

「鮎川さんがそう言わはるなら、信用はしますけどね。
 それでも、関わらん方がお互いのためですわ」


人間として、かなり興味深い存在。
そんな人間ばかりが、この店には集まってくる。

大樹と引き合わされ、自分の視野と世界が、どれだけ狭いのかを思い知らされた気がした。



卓也、メールじゃ済まねぇくらい、話したいことができたぜ。
さっさと帰ってこい。んで、隣に座ってくれよな。

だってさ、俺だけ、一人なんだってばさ。
余計に淋しいじゃん。











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