「Time After Time」
午後十時の薄明かり

午後十時の薄明かり 6   冬威

 ←午後十時の薄明かり 5   冬威 →お知らせ 20171203

若さを保つためのジム通いや、メンズエステに美容整形。
決められたことを、淡々とこなす日々。

シンガーにも俳優にも興味がないまま、プロデューサーや監督の言いなり。
それも、徐々に、需要は落ちてきていた。

気がつけば、仕事はバラエティばかり。
春樹絡みのネタを望まれる。



当たり前、か。

自分では、何も考えてこなかったしな。
そろそろ、潮時ってことだよな。



食べていくのに困らない程度の蓄財はした。
元々、贅沢はしない質だ。
金がかかる趣味もない。

弟や妹に金を使うのが、生きがいだった。
しかし、今では、せいぜい、甥と姪の祝いを包む程度。
息子は、成人して自分より稼いでいる。

恩人と慕った、先代の社長は、既に亡くなっている。
事務所に対しても、充分なほど、恩は返したはずだ。

残る問題は、ひとつ。


......瞳のことを、どうするか。



妻は、自分への執着を、息子へと横すべりさせてしまった。
春樹は、従順な子どもだったが、俳優という生きがいを見つけて独立した。
一人になった瞳は、孤独に耐えきれず、アルコール依存症になった。
重度のうつ病も発症し、専門病院に入院したままだ。

春樹は、忙しい合間を縫って、見舞いに訪れているという。
メールや電話で、報告してくる。

だからと言って、自分には見舞いに行けとは言わない。
春樹は、聡い。
瞳に対して、何の感情も持てないことに気づいているのだろう。
そんな自分と顔を合わせれば、瞳の状態が悪くなることも。




『僕は、父さんの身代わりにはなれなかったよ』


家を出た春樹は、苦しそうにそう言った。
そんな言葉を言わせてしまったのは、自分の愚かさ。
いくら後悔しても、時間は巻き戻せない。


『だけど、僕は母さんが好きだよ。
 父さんのことも』


愛せないどころか、関心も持てなかった父親を、春樹は慕ってくれている。
それを知った時、心から、春樹に対して「すまない」と思った。






恋に堕ちるとは、苦しいものだと知ったのは、二十歳を過ぎた頃。
理屈ではないのだと、思い知りもした。

まさか、自分が、一目惚れをする、それも男相手になど、思いもしなかった。

初心だったわけではない。
十八で水商売の世界に入り、誘われるままに女と寝たことは、何度もあった。
揉め事が嫌いで、クビになるのは困るからと、相手は慎重に選んだが。




「はじめまして、青木康生です」


初めて出会った時のことは、今でも鮮明に思い出せる。
引き合わされた四人のうち、一人だけ丁寧な言葉遣いに品のある物腰。

そして、意志の強い目。

一瞬で、惹きつけられた。
しかし、その直後、音を合わせて、地獄に突き落とされた。

スカウトされてからの半年間、必死にトレーニングしてきた。
ヴォーカリストとして才能があると評価され、デビューする自信があった。

天才というものを、直に知らなかったから、そんな気にもなったのだ。
康生のヴォーカル、優児のギターは、素人でもわかるほど、圧倒する力を持っていた。

事務所は、ヴィジュアルバンドとして売り出すと決め、四人に割り込んだ形になった。

自分一人、才能がないのは、すぐに理解した。
それでも、デビューするために、全員が妥協したのだ。



コウセイのこと好きにならなかったら、何か変わってたのかな。



何度も思った疑問が、また心に浮かぶ。
問の答えは、その度に同じ。

HAKONIWAは、解散するしかなかったのだ。

ルイという重しがいなくなれば、優児は本来の音に戻ることは必然だ。
自分の能力では、遠く及ばない。
優児たちは、遅かれ早かれ、今のような形になったはず。

そして、瞳との縁も、悪縁とは言え、繋がっていたのだろうとも思う。

過去を振り返り、選ばなかった道を探っても、意味はない。
そう思うようになってから、もう何年も経つ。




ローテーブルの上で、携帯が震えている。
手を伸ばせば、「エイチ」の表示。


『よう、暇か?』

「ああ、昼間は済まなかった」

『よかったら、出てこいよ。近くで飲んでるんだ』

「...いいのか?」

『駿も一緒だけどな』


英一は、アルコールは摂らない。
飲むのは、パートナーの鮎川だけだから、つきあい以外は自宅で済ませる。
こうやって誘ってきたのは、自分を心配しているから。
遠慮するべきかと思ったが、ここは素直に甘えておこう。

行くと返事をして、身支度を始めた。





「剛さん、腰の故障だってさ。
 手術が必要らしいぜ」

「職業病みたいなもんだからな。
 あいつらの音は、早いし重い」


二人が詳しく説明してくれることが、ありがたい。
事務所やマネージャーは、優児たち、REAL WORLDを目の敵にしている。
誰に聞くわけにもいかない。
探れば反感を買い、向こうに迷惑がかかる。


「...なんでだろうなぁ。
 解散って噂聞いて、居ても立ってもいられなかったんだ」


それは、正直な気持ち。
康生への想いも優児へのコンプレックスも、薄くなってはいたはず。


「お前も、オッサンになったってことだよ。
 あいつらが引退するかもしれねぇって、感傷が湧いたんだろ。
 年食うとな、変に昔のことが気になるもんだ。
 普段は忘れてることが、ふいに浮かび上がってきたりな」


感傷...鮎川の言葉に、妙に納得した。
自分の今の状態は、それ以外には考えられない。


「トーイ、お前、もう歌わねえの?」


英一が、じっと目を見て聞いてきた。
今まで、一度も聞かれたことがなかった。


「俺には才能なんかないよ。
 音楽に思い入れないの、知ってるだろ」


とっさに、苦い笑いが浮かぶ。
英一に悪意はないとわかってはいても。


「いや、とーちゃんがさ、言ってたんだよ。
 ヴォーカリストとしての才能があるのに、もったいないって」

「レンさんが?」


業界では伝説的な存在である、レン。
天才から評価されるとは、考えもしなかった。


「ありがたいし、光栄だけどな。
 歌いたいって、一度も思ったことがないんだ」



そう、俺は金のために歌ってきた。
音が好きでしかたない、お前やユージとは違うんだよ。











にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ 3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ 3kaku_s_L.png Time After Time
総もくじ 3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ  3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ  3kaku_s_L.png Time After Time
総もくじ  3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【午後十時の薄明かり 5   冬威】へ
  • 【お知らせ 20171203】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【午後十時の薄明かり 5   冬威】へ
  • 【お知らせ 20171203】へ