「Time After Time」
午後十時の薄明かり

午後十時の薄明かり 5   冬威

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テレビ局での移動中、顔見知りの記者が話しかけてきた。


「お久しぶりです。バラエティですか?
 これから、例の二世バンドのインタビューなんですよ」

「...どこで?」

「渋谷です。撮影もありますから」


足早に去っていく後ろ姿。
三代目マネージャーの横尾に、スケジュールを聞いてみた。


「今日は、事務所で打ち合わせがあるだけです。
 何か用事でも?」

「あ、うん、ちょっとね。
 打ち合わせ終わったら、帰っていいよ。
 俺、寄るとこあるからさ」

「...REALのこと、気になるんですか?」

「別に。あいつらがどうしようと、俺には関係ないよ」


嘘、だ。

REAL WORLDが解散するかもしれない。
その噂が耳に入ってから、落ち着かない日が続いている。

友人に、質問しようかとも考えた。
自分でも、どうして気になるのかはわかっていない。

強いて言えば...心の奥に閉じ込めてある何かが、ふいに浮き上がってきた。
そんな感覚が、ずっと消えない。






「ご面倒かけて、すみませんでした。
 君たちにも時間取らせて、イヤな気分にさせちゃったね。
 本当に、ゴメン。
 これからも、春樹のいい友達でいてやってくれ」


あの子は、康生ではない。
わかりきっていたことなのに、どうしても気になって近づいてしまった。

挙句、たった一人の友人、英一に宥められて退散する羽目になった。



こんなカッコ悪いとこは、ななには見せられないな。



長い間、電話でしか話していない、弟の心配顔が脳裏に浮かぶ。

店を出るまでは、表情は崩せない。
カウンターの向こうにいる店員に札を渡して、何事もなかったように立ち去った。

先代社長と初代マネージャーが作り上げたキャラクター。
演じているうちに、本来の自分との区別が、徐々に曖昧になってきた。
しかし、それも自分が選択したこと。



『自分は商品なんだってことを、体に叩き込め』

『虚像だろうと、それが売りになるんだよ』

『俺だって片想いのプロみたいなもんだ。
 今が幸せだから、笑ってられるけどな』

『簡単に諦められるとは思わない。
 だけどな、心の底に沈めたんなら、その想いは最後まで隠し通せ』


恩人とも言える、デビュー当時のプロデューサーの言葉が、次々と浮かんでは消える。
結局、想いは隠し通すことができず、爆発させてしまったことも。



ルイさんにどやされるな、あの世に行ったら。



妹と弟が、社会人になり、人生のパートナーと共に生活している。
もう自分は、彼らには必要ない。
拗れたコンプレックスと、目標を達成した後に飛来した虚しさ。
アルコールが、背中を押してしまった。



いや、あの時の俺は、自暴自棄ってヤツだった。
コウセイに投げ飛ばされて、ユージに殴られて。
ほんっと、情けなかったよなぁ。



若い頃の自分の愚かさが、未だに身に燻っている。
未熟さが、遠ざけた息子への罪悪感を肥大させる。

しかし、


『あったりまえだっての。ハルは、俺たちの仲間だ。
 立ってる場所は違うけど、それは変わんねぇよ』


息子には、仲間がいる。
それだけは、ありがたく嬉しい収穫だった。






マンションへ帰り着き、湯を沸かす。
一人きりの時間をどう過ごすか、考える。

寄ってくる女も男も、数は減った。
欲も気力も、ない。

流されるにも、気力が必要だと、最近、思うようになった。



ああ、謝っておかないとな。
あの子にとって、大事な仲間だ。


「春樹、久しぶり。
 今日、カンとカイに会ったよ。
 怒らせてしまったみたいだ。
 お前にも迷惑がかかるかもしれない。ごめんな」


メッセージを残して、向こうからは期待しない。
これまでの自分の態度を思えば、それは当然のこと。

好きな日本茶を飲みながら、ただ漫然と座っていると、携帯が鳴った。


『父さん、どうしたの?』



お前は、優しいな。
俺とは大違いだ。



「わざわざ電話くれて、ありがとう。
 忙しいのに悪いな」

『珍しくメッセージなんか残してたから、驚いたよ。
 カイたちと何話してたの?』

「うん、REALが解散するって噂を聞いてな。
 気になって仕方なかったんだよ。
 噂に過ぎないようだから、安心した」

『あー、ゴウが体調崩したらしいよ。
 リンが落ち込んでた』

「そっか。年取ったのは、俺だけじゃないんだな」

『当たり前でしょ。俺だって、とっくに二十歳越えてるんだから』

「お前もそんな年か」


春樹が生まれたのが、ついこの前のことのように思える。
年を取れば取るほど、時間が過ぎるのも早くなった。

春樹には、仲間がいる。
何より、パートナーと愛し合っている。
そして、演技者としての才能があり、努力を続けている。

自分が心配することなど、春樹には迷惑でしかない。


『父さんは、大丈夫?』


心配するなと、電話を切った。



今さら、だよな。
俺が父親面してもさ。
エイチに、また叱られそうだ。



意識が、英一に移る。

英一の父親は、ルイの相棒、レンだ。
康生や優児と同じ人種。
天賦の才能を十二分に発揮し、人々に愛されている。

息子として、ミュージシャンとして、プロデューサーとして。
常に比較されてきた、英一。

その才能と強靭な精神力。
流されただけの自分には、想像することしかできない努力。

友人と呼ぶことも、おこがましいのかもしれない。



あいつ、なんだかんだ言って、面倒見がいいよな。
俺のことも見放さないし。



羨ましいと感じることは、とうの昔に止めた。
流されることを選んだのは、自分だ。

英一に対しては、そう思えるのに。
なぜ、優児たちには拗れてしまうのか。


理由は、自分でもわからない。











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