「Time After Time」
午後十時の薄明かり

午後十時の薄明かり 3   幸宏

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「はじめまして、三神大樹です」


待ち合わせ場所へ行くと、卓也の他に二人の男。
痩せ型と言われる自分より、さらに背が低く華奢な若い方の男が、先に口を開いた。

二人の男がどんな関係なのかは、わからなかった。
大樹は同類のように思えたが、もう一人は違うとはっきりわかる。


「とりあえず、店に行きましょう。
 個室予約してありますから、ゆっくり話せますよ」


見た目を裏切り、しっかりと先頭を歩く大樹の隣を、つかず離れずもう一人が歩く。
大樹を庇うように自然に歩く姿に、自分と卓也を見たような気がした。



ああ、こいつら、できてんじゃん。
心配したの無駄だったな。



駅から十五分ほど歩くと、目的の店のようだ。

賑やかな表通りを一本入っただけで、印象が変わる。
シンプルな看板に、ひっそりとした店構え。
知らなければ、通り過ぎてしまいそうだ。


Crossroad


それが、店の名。





個室に案内され、飲み物と軽いツマミが運ばれてくる。
慣れた仕草で、大樹がセッティングしている。


「健君、ここは俺がやるからいいよ。
 ありがとね」

「はい、いつもありがとうございます。
 何かあれば、すぐに言ってくださいね」


常連なのだろう、店員とも親しげだ。

自分はと言えば、初めての「ゲイバー」に、動揺していた。
いわゆる「オネェ」言葉な者はいなかった。
しかし、客もバーテンダーも店員も、全て男。
男二人が何組も、カウンターやテーブルで濃厚な空気を作っていた。
初めてであろうと、さすがに気づく。



「ご挨拶が遅くなりました。
 ヴィオリストの三神誠と言います。大樹のパートナーです」


名乗った男は、頭を下げ、きっぱりと言い切った。
隣に座る大樹は、どことなく誇らしげで嬉しそうだ。


「大樹君は、兄貴の奥さんの弟さんなんだ。
 写真見せたことあるだろ?」

「ああ、こっちにいるって話してたな。
 こんなに若かったんだ」


個室の気楽さに、つい、口を滑らせた。
卓也が困った顔になり、自分の失敗を悟る。


「卓也さんより五歳下になります。
 チビでガリの上に、女顔のせいか、よく驚かれますけどね」

「あ、ゴメン。俺とそんなに変わらないんだな。
 俺も、よく言われてうんざりしてるのに、考えなしだった」


大樹は、穏やかに笑って、首を横に振った。
見た目は若くとも、年相応の分別はあるようだ。


「仕事で、不老不死みたいな人にお会いすることが多いんです。
 あの人たち見てると、俺なんか全然ですよ」


聞いてみると、大樹は音楽事務所の共同経営者だと言う。
誠を含めたカルテットが所属する、小さな事務所。

このバーは、大樹が元上司から紹介されたらしい。
その元上司は女だと聞き、また驚く。


「ここは、仲間だと認められた人間なら、性別もセクシュアリティも関係ないんです。
 今回、卓也さんからお話聞いて、オーナーに許可をいただきました。
 あ、昼の責任者は、俺の友達なんです。
 コーヒーやランチが、最高に美味しいんですよ!」


ニコニコと喋っている大樹に、不思議と打ち解けるのは早かった。
大樹の持っている雰囲気が、警戒心の強い自分を寛がせているのだ。
自分と同じくらい慎重な卓也が、気を許していることも大きい。

話してるうちに、疑問に思ったことがあった。
元公務員の大樹が、誠とどう知り合ったかのか。

このバーではないだろう。
誠は、どう考えてもこちら側の人間とは思えない。

話には参加しながら、少し考えていると、大樹が話題を変えた。


「お二人は、オンラインゲーム、プレイしてらっしゃるんですか?」

「いや、忙しくてね。
 解約まではしてないけど、なかなかログインできてないんだ。
 大樹君たちは、どう?」

「俺たちは、光、あ、俺の従姉で事務所やってるヤツなんですけど。
 そいつが引退したんで、同時に引退しました。
 ラストミッションもコンプしたし」

「え、DFやってたってこと?」

「そうらしい。俺たちとサーバーは違うけどな」


そこから、同じゲームをプレイしていたこと、二人が同じギルドに所属していたこと。
誠の従姉がギルドマスターだったこと、ゲーム内挙式をしたこと。
二人の出会いのきっかけや養子になった経緯を、心底楽しそうに話しだした。



ネットで知り合ったってわけか。
今時だよな。



ついさっき浮かんだ疑問が解消されて、感心すると同時に、羨ましくもあった。

転勤が決まり、遠く距離が離れることを、オンラインで埋めようとした自分たち。
二人だけでは行き詰まる、そう考えて、友人を誘ったのに、結局は行き詰まりかけている。

心に落ちてきた、黒い小さな滲みは見ないようにして、その場を笑って過ごした。
卓也の顔を潰すわけにはいかない。
明日は、二人きりで過ごせるのだから。




「今日は、楽しかったです。よければ、また飲みましょうね」


携帯の番号とアドレスを交換して、解散になった。
大樹がにこやかに挨拶して、誠と二人、タクシーに乗り込んでいった。

社宅代わりのマンションは、乗換えなしで二駅ほど。
電車は、まだ走っている。

卓也の分の切符を買い、改札を抜ける。



やっと二人になれた。
嬉しいんだけど、なんか、気恥ずかしいのな。
こんなに会えなかったの、初めてだからかな。



見上げれば、嬉しそうな卓也の笑顔。
ロボットと陰で言われているとは思えないほどの。
釣られて笑ってしまう自分も、社内では冷たいと噂されていることは、心の棚に上げておく。



あー、やっぱカッコいいよなぁ。
俺みたいに舐められねぇしさ。

どんどん渋くなってきてるのに、腹出てねぇし、ハゲも心配ねぇし。
ロマンスグレーっつうの?
そんな感じになってきたんだよな。

うー、俺の方が、髪ヤバいかもなぁ。
最近、一本一本が細くなってきたような気がすんだよ。



会えた嬉しさや、加齢という焦りなど。
いつもとは違って、何種類もの感情が次々と心を襲う。


「会いたかった」


マンションの扉を閉めた直後、後ろから抱きしめられて。

心も体も、卓也が、全て占領した。











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~ Comment ~

NoTitle

良かった――!
ドキドキしてました。  あ? あれ? 大樹くん、と・・誠さん!?
うっわ、久しぶり!

まあまあまあ、立派になって! (違う
あら、お店行くの?  きゃあ、Crossroad -!
ここも笙さんみたいにネックになる場所になってる。

うん、理解してもらえる人・場所があるのは安心出来る。
教えてもらえてよかったね、幸宏さん。

Re: NoTitle

大樹の姉(瑞樹)と卓也の兄(智也)の結婚式の時、一緒に受付してたんですよね。

大樹は気づかなかったけど、卓也は同類だと気づいてたりw
智也に、つい喋っちゃったことは、謝罪済みのようです。

大学時代の数人しか友人がいない、頑なでヒッキーな幸宏なので、卓也はお母さんのようになってしまってますww

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