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「True Colors」
千紫万紅

千紫万紅 9

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昇平から、ライブの曲目が送られてきた。

SMSのシングル三枚目。
Quiet Lifeの代表曲、ライブでは必ず演ってた盛り上がるヤツ。
SMSの最初のシークレットトラックに、Ouiet Lifeのアンコール必須のバラード。
五曲目と六曲目は、昇平のオリジナルで、よくライブで演ってた人気の曲。

コピーは、原曲通りのアレンジ。
どの曲も、完コピでプレイしてきたから、勘を取り戻せば大丈夫かな。




添付ファイルをプリントアウトして、烈と二人で眺めてた。
俺の膝の間に烈が座ってるから、後ろから腰に腕を回して肩に顎を乗せた。

んー、風呂上がりの烈って、いい匂いするよなぁ。
同じシャンプーやボディソープとは思えない。



「本人の前で演るんだよね。
 ......俺、緊張しそう」


ほっぺや肩にスリスリしてたら、烈がポソッと呟いた。

烈がそんなこと言うのは、かなり珍しい。

高校の時から、ステージでは緊張しなくて、練習通りにプレイしてた。
舞台度胸って言うのかなぁ。
練習の時より、生き生きとしてたりしたんだよね。

俺も緊張しない質だけど、それは鈍いせいだと思う。

プロじゃないんだし、ミスった時はミスった時。
人間だから、そんなこともあるだろう。

そのくらいにしか考えてなかった。


「大丈夫だよ。俺、鈍いから緊張しないし、リズムキープは任せて!」


宥めるつもりで言ったんだけど、烈は大笑いしてる。
そんなに変なこと言ったかなぁ。


「そうだね。ナナがいるから、多少ミスっても平気かな。
 俺、ベースで良かったかも」


まだ笑ってる、烈。
ま、いいか。俺のこと頼りにしてくれてるんだしね。


「ああ、添付ファイルは見た?招待客リストと見積もりのヤツ」

「うん、見たよ。由人が作ってくれたんだよね。
 あいつ、ほんとにきっちりしてる。感心した」

「当日の司会は昇平が張り切ってるし、二人に任せたのは正解だと思う。
 笙が、普通の女の子みたいな、「夢の披露宴」とか考えてないのも大きいけど」

「そうだよなぁ。寿退職した同期なんか、雑誌広げてうっとりしてた。
 あんなになってる笙なんか、想像つかないもん」


烈が、スルッと腕から逃げ出して、振り返って睨んでくる。
あれ、今度は怒らせちゃった?


「ナナのこと好きだった女の子?」

「あ、え?俺、小中のこと話したっけ?!」

「女って、切り替え早いよなーって、練習の時に喋ってたじゃん。
 すぐに、笙から注意されてたから、覚えてる」


...そんなこと、言ったような気もする。

悪気はなかったけど、烈からしたら複雑だったのかも?
どうしたら、烈の機嫌が直るかなぁ。




「ゴメン!俺、女々しいなぁ。カッコ悪すぎ」


少し悩んでたら、烈がすぐに謝ってきた。


「いや、俺の方こそ。ほんと、ゴメンね」

「ううん、ナナは悪くないよ。あの頃は、俺の気持ち知らなかったんだし。
 ちょっと思い出して、悔しくなっちゃった。ほんと、ゴメン!」


久しぶりに、ゴメンのラリー。
こうなると、どちらかが思いきらない限り、無限ループに陥る。


烈を抱き上げて、こっちを向かせた。
軽くキスして、黙らせる。


「ヤキモチ妬いてくれたってことでいい?
 俺ばっかりだと思ってたから、すごく嬉しいよ」

「うん...相手は女なんだから、心配ないのにね。
 ナナより俺の方がヤキモチ焼きかもしれない」

「女が相手だと、ヤキモチだけじゃなくて、複雑な気分にならない?」


不思議そうな顔して、烈が頷いた。
鈍い俺がこんなこと言うの、あんまりないもんね。

心配ないのは、お互いにわかってるんだ。
でも、要と笙が結婚するって決まってから、自分が普通じゃないことを突きつけられる時がある。

兄貴にも姉貴にも、カムアウトはした。
まだ、烈がパートナーだとは紹介してない。
二人とも気づいてるとは思うのに、なんとなく言えない。


だから、つい考えてしまう。


烈が、普通に女を相手にできるなら、俺は消えた方がいいんじゃないかって。
その方が、烈は幸せになれるんじゃないかって。
そんなことはないって、わかってるつもりだけど、つい、ね。


俺が考えるくらいなんだから、烈だって考えるに決まってるよね。
だったら、安心させてあげなくちゃ。


「俺は、どんなに頑張っても、女の子は無理。
 だから、心配しないで。
 いつか、兄貴たちにも、きちんと言えるようになるからね」

「ナナ......」


烈が、ギューっとしがみついてくる。
こんなに大事な人ができるなんて、高校の頃には思いもつかなかったな。

大事だからこそ、幸せにしたい。
それは、ノーマルでも同じだよね。


由人が教えてくれたっけ。
俺たちは、かなり少数派なんだってこと。

好きな人に、好きになってもらえた。
ずっと一緒にいるのに、飽きずに「パートナー」として、認識した。
親しい友達に祝福してもらって、見守ってもらえてる。

話してくれた時、由人のことだけじゃなく、兄貴を思って、心が痛くなったよな。

兄貴は、女も相手にできるんだし、ゲイじゃない。
それでも、好きになったのは、ただ一人だけ。
新しい相手はできてないのは、たまの電話でわかる。

うん、ノーマルだろうと、ゲイだろうと、バイだろうとおんなじだ。
わかってたつもりだったけど、また卑屈になっちゃってたな。




「大好きだよ、烈。
 烈が隣にいてくれるから、俺は幸せ。
 烈にも幸せでいて欲しいから、俺、頑張る」

「俺も、頑張る。
 ナナが幸せだって言ってくれるの、すっごく嬉しいし、幸せだよ」


お互いの気持ちを伝えて、努力することを忘れずに。
見守ってくれる仲間への感謝も、絶対に忘れちゃダメだ。

二人だけで、ひっそりと秘密を抱えて生きていく。
烈が相手なら、それも幸せだと思うけど、どこかで息苦しくなった可能性はある。


「完全に、オープンにはできない。
 会社には、ずっと隠し続けることになると思う。
 それでも、メンバーが見守って応援してくれるって、ほんとに運が良かったよね」

「社会に出て、ナナに好きになってもらえて、仲間の大切さが理解できた。
 運や仲間に甘えてないで、みんなの役に立てるよう、努力していこうね」


ああ、やっぱり、烈の方が大人かも。
普段、ちゃんと考えてるから、すぐに言葉にできるんだ。


「まずは、マウスパッドを気に入ってもらわなきゃ、か。
 あれでOK出るといいなぁ」

「予算内だし、ナナのデザイン、すっごくオシャレだから、大丈夫!
 俺、最初に作ったの、会社で使ってるんだ。みんな、誉めてくれるよ!」

「そっか、烈がそう言ってくれるなら、安心だな。
 作業、頑張ろうね」


しがみついたまま、烈は、何度も頷いてくれた。











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