「True Colors」
千紫万紅
千紫万紅 4
好きを自覚した一週間後、スタジオで全員集合した。
あれからは、毎日が楽しくてしかたない。
あ、最後まではしてないよ。ぐっと我慢してる。
だって、烈の仕事の邪魔になるじゃん。
それでも、毎晩、二人でソファでくっついたりして。
俺のベッドで一緒に眠ってるんだ。
烈は、初めてのドキドキをまたくれた。
口でしてくれたりもしたし。
俺からはしてたけど、キスも無理だったから、してもらうのは諦めてたんだよね。
慣れないのに、小さな口で一生懸命してくれて、メチャクチャ感動したなぁ。
仕事中は思い出さないように、きちんと切り替える。
最初は意識して頑張ったけど、すぐに慣れたのは、仕事自体に慣れてきたからかな。
そういうのもあって、気長に構えてくれたんだと思う。
俺、ほんと仕事で手一杯だったし。
つらい思いさせて、申し訳なかったけどね。
「お前ら...とうとう、くっついたんか」
ドラムのチューニングやセッティングやってたら、由人がからかうように話しかけてきた。
顔を上げると、みんな、ニコニコ笑ってる。
「やっとやな!えらい長いことかかったなぁ」
「よかったね、烈」
「思てたより、早かったですね。烈さん、言うてまいました?」
えーーー?!
なんで?
どうしてさ?!
そりゃあ、報告するつもりではいたけど。
まだ、会って五分だよ?
みんな、気づいてるって、どういうこと?!
「ん、なんか勢いで、つい言っちゃった。
みんな、ありがと。やっぱり、出てる?」
「おう。お前は、あんま変わらへんけどな」
「七海さん、わかりやす過ぎですわ」
恥ずかしくて焦りまくってると、チューニングが進まない。
昇平が、大笑いして近づいてくる。
「話は後でな。とりあえず、始めよか。
どうしても叩かれへんなら、落ち着くまで笙に代わってもらうか?」
「大丈夫だって。すぐに切り替えるよ」
うん、せっかく全員集まったんだ。
動揺して、時間を無駄にするのはもったいない。
深呼吸してみる。
みんなのからかうような顔は、そっと見守るような表情に変わってる。
みんな、ゴメン。
今日だけじゃなく、今までのことも。
俺の鈍さがどれだけ迷惑かけたかと思うと、恥ずかしくてどうしようもない。
でも、体裁を繕っても、みんなにはバレバレだもんね。
開き直るような図々しいことはしない。
ただ、今はドラムに集中するよ。
終わってからの晩御飯は、由人のお勧めの店で、洋風牛肉専門店。
ステーキだけじゃなくて、いろんな牛肉料理がメニューにあって、すっごく美味しそう。
「ここのローストビーフなら、笙かって食えると思うわ。
脂はある程度抜けてるし、肉汁はたっぷり残ってるしな」
「へー、プライムリブって言うんや。肉は詳しないから、知らんかった」
「よう見つけたなぁ、由人。チェーンでやってたとこは、撤退したやろ?」
昇平が、感心して由人に質問してる。
聞いてみたら、「プライムリブ」ってのは、分厚くて温かいローストビーフらしい。
チェーン展開してる外資系レストランが、大阪にいくつかあった。
俺たちが大学に入る直前に、親会社の業績不振でなくなったって。
「あ、プライムリブの店、関東にもあったよ。
高級なファミレスって感じだった」
「そうそう、店内に客車とかあってな。従兄弟がチビの頃、連れてったら大喜びやったわ。
値段はそこそこするよって、そないしょっちゅうは連れていかれへんかったけど」
「チェーンの方は、横須賀に残ってるらしいで。
そことここのこと、会社で教えてもろたんや」
烈が楽しそうに喋ってるのを、由人は嬉しそうに見てる。
ちょっと複雑な気分になった。
由人が仕切ってオーダーを済ませた後、俺の顔をじっと見てニヤッと笑う。
「心配しなや。もう吹っ切れてるし。
烈が幸せそうやから、安心したしな」
「...俺、鈍くて、自分の気持ちもよくわかってなかったんだよね。
そのせいで、烈にもみんなにも迷惑かけちゃって、ほんと、ゴメン」
頭下げたら、みんなが爆笑してる。
珍しく、要も笙も、声出して笑っててさ。
「烈が待つって決めてたんだから、俺たちは何が言えるわけでもないよ。
七海が自覚して、二人が今幸せなら、それでいいんじゃないかな」
「要の言う通り。烈さんは、長期戦やって覚悟してはったし。
待った分、今からどんどん幸せになればいいだけの話ですやん」
烈が待てると思ったのは、メンバーが味方になってくれたからだよな。
みんなの言葉や表情を見て、俺と烈、両方のことを考えてくれてたって、身に沁みた。
「次は、お前らやなぁ。まだ結婚すんのは早いか?」
昇平が、要と笙を交互に見て言った。
照れるかと思ったけど、二人とも微笑んでる。
「んー、しょっちゅう帰省してるから、なかなか貯金できなくてさ。
贅沢はしてないつもりだけど、もう少しかかるかな」
「私、まだ就職したばっかやん。子どもは作らへんから、焦る必要ないし。
二人とも、頑張って貯金してからやないとね」
え、子ども作らないの?
二人が決めることなのはわかってるけど、なんとなくもったいない気がする。
俺がゲイだから、そう思うのかもしれないけどさ。
「心臓、弱いもんなぁ。出産育児には、耐えられへんか」
「うん、医者にも言われてるしね」
さらっと言ってるのを聞いて、また反省。
そうだった、体弱いんだもんな。
健康な姉貴でも、かなり大変だったみたいだし。
何でもできて、いろんな人から好かれる、笙。
でも、その体には爆弾を抱えてるんだよな。
ちょっとしんみりした空気になったら、要が口を開いた。
「笙がいれば、子どもは要らないよ。母も納得してる」
「ちょっと、要!何言うてんの?!」
慌ててる笙なんか、滅多に見ないから、つい、じっと見ちゃった。
それに気づいて、笙が困ってるのも、ほんと珍しくてさ。
「何かマズかった?」
キョトンとした顔で、要が聞き返して、それが可笑しくて。
我慢できずに、みんなで笑っちゃった。
「お前ら見てると、運命ってあるんやって気になるわ」
笑いが収まった頃、スープとサラダが運ばれてきた。
昇平が、しみじみとした口調で話す。
「そうやなぁ。笙の相手は、かなりの年上やないと無理やと思てたわ。
それが、同年代やなんて、親も驚いてたで」
「由人、うちらのこと、おじさんらに喋ったん?」
「ああ、オトンもオカンも、昇平ん家ほどやのうても、お前のファンやしな。
特にオカンは、話聞きたがんねん」
開き直ったのか、笙は、絶句も困った顔もしなかった。
ただ、懐かしそうに、由人のお袋さんとの思い出を話し出す。
「おばさん、昇平んとこと同じで、娘が欲しかったって、メッチャ可愛がってくれはったもんなぁ。
母さんのとは違うレシピ、教えてくれはったし」
「それや、それ。一緒に料理するんが、夢やったらしいわ。
両方とも男やから、嫁さんに賭けてたのに、兄貴んとことは仲悪いし、俺はゲイやし。
お前がいてくれて、ほんま、助かったわ」
由人が軽く言ったせいか、雰囲気はもう暗くはならなかった。
ローストビーフが運ばれてきて、みんなで楽しむ。
食べながら、考えた。
ほんとに、ラッキーだったんだって。
メンバー六人のうち、三人がゲイなんだもん。
偏見があったら、続いてないよなぁ、うん。

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