「True Colors」
黒白分明

黒白分明 10

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GWが過ぎて、ようやく人事課が落ち着いたと思ったら、次の波がやってきた。


うちには係長が二人る。

一人は、社員全体の査定や入退社・転勤など組織管理を主に担当してる、足立さん。
もう一人は、採用と研修なんかの社員教育担当の、中川さん。

入社してからは、足立係長を中心にして、俺たち下っ端は動いてた。
んで、それまでは一人で静かに仕事してた中川係長に、どうやらバトンが渡ったらしい。



「インターンシップの受け入れ準備と、来春採用予定者の採用面接を、本格的に開始します」


そう宣言するように、朝の課内会議で発言して、資料を配った。

一昨年から実施してるインターンシップは、夏と冬に一ヶ月ずつ。
それぞれ二回に渡って行われるから、合計四回。

俺はArixでは、インターンシップはやってない。
三年の夏に、二週間、第一志望だったとこでサラッとしたのに参加しただけ。

インターンシップ自体、受け入れてる会社は、まだ多くないし、いわゆる大企業オンリー。
それも、ほとんどは東京本社でしか受け付けない。
Arixでは、東京と大阪の両方で実施してる、現時点では珍しい存在だ。

採用試験は、既に一次の筆記までは終わってる。
面接試験は、三段階に分けて行われるんだけど、去年を思い出して、口が苦くなった。




会議でもらった資料には、スケジュールとそれぞれの分担が書いてある。

俺は、伊藤さんと一緒に、採用担当。
宮原さんと同期の二人は、インターンシップ担当。

小中と担当が分かれて、ホッとしたのは、正直なところ。
加藤に指摘されてから、意識しないようにはしてるんだけどさ。
担当が同じだと、接触する機会が増えるから気詰まりだなと思ってたんだよね。



会議が終わって、自分の机に戻る時、ボソッと宮原さんが零した。


「今年も、採用担当から外されてる...。
 女は、学生の子守やっとけって、見え見えやん」



小中と担当が分かれて安心してたのが、恥ずかしくなった。
確かに、インターンシップ担当は、女性ばかりだ。

総合職試験を受けるくらいだから、上昇志向が強い人なのは間違いない。
三十歳を越えてるけど、仕事に燃えてるせいか、彼氏もいないっぽい。
そんな人から見ると、新人の俺や三年目の伊藤さんが採用担当なのは、悔しいだろう。


笙が言ってた「所詮、女ですからね」って言葉が、頭に浮かんだ。





その週の金曜日、中川係長が声をかけての、飲み会があった。

係長二人とヒラ全員の、少しだけ気楽な飲み会...のはずだった。
課長や補佐がいない分、気を遣う相手が減るから、そう思ったんだけどさ。


「なーかーがーわー!」


宴会が進んでいくうちに酔いが回ったのか、宮原さんが、中川係長に絡みだした。

どうやら、係長二人と宮原さんは同期らしくってさ。
会社では、丁寧語で喋ってたから、よくわからなかったんだよな。


「バブル入社組って、散々、叩かれてきたんは、あんたらも同じやろ?
 うちなんか、総合職の子ぉらが、バンバン辞めてく中で、めっちゃ頑張ってきたんやで?
 なんで、学生のお守りばっか、せんならんのん?!」

「頼むよ。宮原だったら、慣れてるだろ?
 うちの会社は、体質がまだ古い。インターンシップも、部署によっては、嫌がられる。
 でも、宮原なら、そこら辺、うまいこと対応できるじゃん。
 社内で顔が広いし、根回しも得意。頼りにしてるんだって」


中川係長が、必死で宥めてる。
足立係長も、フォローしようと話に加わった。


「そうそう。人事課の中で、一番、よそに顔が利くのは、宮原だ。
 中川の前任の小田さんも、すっごく褒めてたよ」



小田さん...俺に電話かけてきた前の係長か。
穏やかそうな顔と声を思い出して、ちょっとほっこりする。


合格の連絡の時、俺、驚いたのと嬉しいので、テンパったよな。
淡々と話してたけど、電話の最後に、クスッと笑ってたの覚えてる。




うっかりしてたなぁ、ほんと。
みんなの意識が、宮原さんに行ってると思って、つい油断した。

小田さんの名前が出て、採用が決まった時の嬉しさが蘇ったんだよね。




「村尾!何、ニヤニヤ笑てんの?!
 あんたまで、私のことバカにしてんの?」


宮原さんに怒鳴りつけられて、縮み上がった。
顔が笑っちゃったのに、気づいてなかった。


「いえ、小田さんのお名前が出たんで、去年のこと思い出したんです。
 採用が決まった時、嬉しかったなって」


正直に答えたんだけど、宮原さんの機嫌は直らない。
それどころか、火に油を注いだっぽい。


「ああ、あんたらは氷河期を生き残った、エリート様やもんね。
 うちらみたいな、バブル入社組は、アホにしか見えんのやろ」


ヒートアップした宮原さんが、グラスを押しつけてくる。
中に入ってるのは、確か、焼酎のはず。

アルコールの臭いで、少し気分が悪くなった。
それでも、顔に出すと、もっと事態は悪くなるのは、さすがに鈍い俺でもわかった。



「こんなんも飲まれへんの?これぐらい、平気で飲まんと仕事はできひんよ」

「おい、宮原!村尾は体質で無理なんだから、勧めるなよ。
 それに、言ってること無茶苦茶になってるぞ」


中川係長が言葉で宥めて、足立係長がグラスを取り上げようとしてくれてる。
俺は、避けようとするけど、すぐに壁に背中がくっついた。


居酒屋の狭い個室が、もうカオス状態。
これって、俺が飲まないと収拾がつかないのかな......。


あまりのしつこさに、俺の心は折れた。
だけど、死にたくはない。
お袋の遺伝で、アルコール分解酵素を持っていない俺にとって、焼酎なんか猛毒と同じ。



「足立係長、すいませんが、救急車呼んでください」


お願いして頭を下げてから、グラスを受け取った。
飲み干そうと口をつけると、係長二人が叫んでるのが聞こえた。


「おい、無理するなって!」

「うわ、村尾!!」


そこで、俺の意識はぶっ飛んだ。



目が覚めたら、病室のベッドに寝てた。
気持ち悪くて、吐きそうだ。 


「ナナ、大丈夫?」


心配そうな顔の烈が、俺のこと見てる。

ああ、緊急連絡先、烈の携帯にしてあったな。
高校時代からの友人で、ルームシェアしてる同居人だって説明して。

俺には親はいないし、兄貴も姉貴も結婚して東京に住んでる。
保証人にはなってもらったけど、何かあった時は、まず烈にと思ったんだっけ。


「ゴメン、心配かけちゃった」


俺が謝ってると、他の人の声が聞こえてくる。


「マジで焦ったぞ。真っ青な顔でぶっ倒れたんだ。
 アルコールがダメだってわかってるのに、無理してくれるな」


烈の隣にいるのは、中川係長だった。
心配して、ずっとついててくれたみたい。


「すみませんでした。宮原さんが、あんなに荒れるの初めて見たんで。
 もう、飲まないと収拾つかない気がしたんです」

「宮原も、あれで酔いが醒めたのか、慌ててたよ。
 ついてくるって言い張ったけど、酒の臭いがひどいから帰らせた。
 意識が無事戻って、安心したよ。江藤さんにも、ご迷惑だったね」



何か違和感があると思ったら、カテーテルが入ってた。
腕には点滴の針が刺さってる。

烈が、看護師さんを呼んでくれた。

お医者さんも一緒に来て、いくつかの質問に答えてる間に、カテーテルが外された。
点滴もなくなってきてたから、外してもらって、ベッドから出て立ってみる。


「意識ははっきりしてるし、歩行も問題なし。
 今日は帰っていいですよ。二度と、無茶なことはしないでくださいね」


まだ若いお医者さんに、真剣な顔で叱られて、猛反省。
自分の体質はわかってるんだから、きちんと断らなきゃダメだよな。

ああいう時、どんな対応したらいいんだろう......。
まだまだ修行が足りないよなぁ、俺。











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NoTitle

アレルギーは甘えだ!  なんて、子どもの好き嫌いと一緒・・みたいに考える人がいるようです。
ネットをチャコチャコしてるとそんな話がよく出てきます。

っって!
七海、ホント意識が戻って良かったー!  私もハラハラしちゃったよ~~。
烈まで顔色悪そうだし。。
でも、現実突き付けないと理解できない人っているんだよね(ため息

宮原さんは、・・・。
反省が、別な方向むいたら、またそれは怖い。
女子たちの母性本能、刺激しちゃった、かも。 ・・あ、私は別よ! (なぜか力説)

Re: NoTitle

日本は、酔っぱらいに甘いと言われてましたよね。
この話の時点では、まだアルハラとかパワハラの言葉自体はありません。
しかし、大学のサークルや会社の飲み会での一気強要で死人が出たと騒がれだした時期。
七海が新聞に載らなくてよかったです(汗)

宮原女史...気持ちはわかるんですけどねー。
だからって、弱い立場の人間に八つ当たりはどうかと。
反省はきちんとして、暴走はしないように...してほしいなぁ。
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