「True Colors」
黒白分明

黒白分明 9

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入社式を終えてからも、忙しいのは変わらない。

俺たちを含めた新人や転勤してきた社員が、スムーズに業務に入れるようケアしなきゃならない。
大阪本社では、近畿圏内の工場の人事からの報告を受けて、チェックすることも業務のひとつ。

元々が大阪で起業して、社名変更した時に、東京へ本社機能を移転した会社だ。
大阪本社って呼び方は、その名残。
近畿圏の工場は、他の地方に比べて大規模で、その分社員も多い。

人件費の安いアジアに工場を建ててはいるけど、精密機器に関しては国内で。
先行してる競合他社が、技術流出で悩んでいることを参考にした判断だ。


GWだって、建前では休んだことになってるけど、俺たちはこっそり休日出勤。

雲の上からは、「残業するな」「休日出勤するな」って言われてるんだけどね。
労基署がうるさいからって、俺たちの仕事には期限があるんだよっ。




毎日、言われたことをやるだけで精一杯。
そんなの、どんな新人も同じだと思ってたのに、そうじゃなかった。


同期をまとめてるのは、同じ総務部でも経理課の加藤ってヤツ。
神戸生まれで関大卒の、俺から見たら「生粋の関西人」な感じ。

そいつが、やたらと同期で集まりたがる。
他のヤツらも不安なのか、加藤の提案によく乗ってる。
俺は、飲み会が苦手なのと、何より忙しくて、何度も断ってた。




「自分、もっと同期ともコミュニケーション取れや。
 最初だけしか顔出してへんやん」


昼休み、買ってきた弁当を自分の机で食べてたら、加藤が寄ってきた。
またかって、うんざりしたけど、顔に出さないように我慢。


「ゴメンな。俺、アルコールがダメだし、仕事こなすのに精一杯でさ。
 もう少し余裕ができたら、参加させてもらうよ」


何度もそう言ってるのに、加藤は納得しない。
不満そうな顔を近づけてきて、小声でまだ話を続ける。


「自分が来えへんから、小中さんも野本さんも来にくいやんか。
 一人で上にええ顔したいんか」


いやいや、俺、そんなに世渡り上手じゃないってば。
だったら、お前みたいに、さっさと内定もらってたよ。

そう言い返したかったけど、そんなこと言えば揉めるのは、いくら俺でもわかる。


「俺は、二人に比べて能力が低いからさ。毎日、必死で仕事してるだけだよ。
 二人には、遠慮しないように、俺から言っとく。
 だから、もう少しだけ、見逃してもらえない?」


加藤が、小中さんと野本さんの机をちらっと見た。
二人は弁当持参だけど、社内のカフェテラスで食べてるから、ここにはいない。

っつーか、みんないなくて、俺一人なんだよな。
カフェテラスへ行くか、外へ食べに行くか。
昼休みまで仕事してる俺って、要領悪い......。




「俺、野本狙いのヤツから連れて来いって、文句言われてんねん。
 野本も一人では来にくい言うてるし、小中は自分に遠慮してる。
 せやから、自分が来えへんことには、こっちは困るんや」

「あー、そういうことかぁ。じゃあ、頑張って説得してみるよ」

「アホか。小中は自分狙いやから、なんぼ説得したかて無理やって。
 あいつにしたら、自分がおれへん飲み会は意味ないやろ」



は?

それ、どういうこと??

小中さんが、俺狙い???



思いっきり、顔に出ちゃったんだろうな。
加藤が呆れた表情で、舌打ちした。



「まさか、気づいてへんのか?あんなに態度に出てんのに」

「......全っ然」


つい、ぶんぶんと首を横に振ったら、加藤が頭を抱えてる。



頭を抱えたいのは、こっちだっての!
そんなの困るだけなんだってば!!

まさか、自分がゲイなことは言えない。
古い体質は、まだまだ残ってる。
この会社でカミングアウトできるのは、俺がオジサンどころかジジイになっても無理そう。




「お前なぁ...見た目、そんなにチャラそうやのに。
 鈍いもええとこやろ。友達から怒られたりしてへんか?」

「うん、よく言われる。友達どころか、サークルの後輩にも説教されてた」


脱力しきった顔で、肩を抱いてくる。
お前、さっきから距離近すぎなんだよ。

もろに体育会系の厳つい体格。
目の保養にもならないのに、くっつかれても楽しくも何ともないっての。



俺の不快顔は、完璧にスルーされた。
ただ、加藤の持ってた第一印象と大きく違ったのか、さっきまでの敵意は感じない。


「見た目、裏切るよなぁ。東京者で阪大やし、センスもええ。
 高校とか大学で、モテまくったんちゃうんか?」

「加藤はネイティブだからわかるだろ。
 喋るのがヘタで面白くない野郎が、大阪でモテるわけないって。
 高校は男子校だったから、女の子に縁はなかったしね」
 

正確には、寄るなオーラ出してたからだけどさ。
でも、俺がノーマルでも、あまりモテなかったと思うんだ。

...ノーマルだったら、悩んだりしなかったし、東京を出ることもなかったよな。




「よう、わかったわ」


加藤が、体を離して立ち上がった。
ああ、この表情...昇平が一年の頃よくやってたな。


「お前が、就活で苦労したて聞いて、高望みしてたんやろと思たけどな。
 理由がわかった気ぃしたわ。要領良さそうに見えんのに、めっちゃ、どんくさいねんな」


次の言葉は、予想がついた。


「しゃあないな」


やっぱりね。


「俺が、なんとか誤魔化しとく。
 確認するけど、お前は、小中に気ぃないねんな?」

「うん、社内恋愛はめんどくさそうじゃん。
 それに、今は仕事覚えるので、精一杯だもん」

「ほしたら、気ぃ持たせるようなことは、せんようにな。
 俺も、それとなくやけど、小中のこと見張っとくし」


こいつ、昇平と同じタイプなんだな。
まとめ役買って出るだけあって、基本的に面倒見がよくて、ほっとけないんだ。


「ありがとう。俺、ほんと、そういうこと苦手でさ。
 どんくさいって言われて、気をつけるようにはしてるんだけど。
 これからも、ヤバそうだったら、ガンガン、注意してくれる?」


素直に礼を言って頭を下げたら、照れくさそうに笑ってる。


「ホンマ、第一印象とは大違いやな。
 素直に頭下げるようなタイプには、絶対に見えへんって。
 そんな調子なら、空気読むんも苦手ってことやろ。わからん時は聞いてこいよ」

「助かるー!ほんっと、ありがと!
 小中さんや野本さんには、聞きづらい時あるんだよね。
 だからって、先輩に聞くのも地雷踏みそうで怖くて」


わかった、わかった、そんな感じで頷いて、加藤は経理へ戻っていった。

入れ替わるように、みんなが帰ってきた。


「おかえりなさーい」


ニコニコして挨拶すると、みんなも笑顔で返してくれる。


「まだ終わってないんか。まぁ、頑張ってるのはわかるけどな」


尾形課長補佐が呆れ口調で言ってるけど、悪意はないんだよ、この人。
ミスしたりして怒らすと、ムッとして黙り込む。
もう、沈黙が怖いのなんの。


「お手伝いしましょうか」


小中さんが言ってくれたけど、さっきの加藤の言葉が頭をよぎった。


「ん、大丈夫だから、心配しないで。
 自分でやらないと覚えないしね」


これでいいよな、昇平?


思わず、心の中で昇平に聞いてた。

俺、どれだけ頼ってんだか。











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