「True Colors」
黒白分明

黒白分明 8

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引っ越しは、少しずつ荷作りをしてたおかげで、焦らずに済んだ。
ADSLなんかも、烈が早め早めに考えて手続きしてくれて、すぐに使えるようになったし。
NTTが近くにあるから、前より通信速度が早くなっててありがたかったな。


四年間の贅沢暮らしとは、完全にサヨナラ。
兄貴に感謝しながら、管理会社に鍵を返す。


それでも、中三まで住んでたアパートよりは、ずっと広いんだよな。
内装が新しいせいか、そこまで落差は感じない。
家賃も市内で便利な場所だから、半額までは落ちないしね。



「会社まで、ドア・トゥ・ドアで三十分。
 それで、この環境は東京なら考えられないよね」


烈が、ニコニコして、そう言った。

ご機嫌な顔を見て、昇平に心の中で、また感謝。
ここら辺りまでは、親父さんの会社では扱わないから、ツテを使って頑張ってくれたんだ。


二人で、近所を探検がてら、駅まで歩いてみる。
珍しい店やエスニック料理のレストランを見つけては、二人で感心してた。

社会人になる不安と、新しい生活が始まったワクワクが、心の中でぐるぐるしてる。
でも、一人じゃないんだから、絶対に頑張れると思うんだ。


ほんと、烈が「Yes」って言ってくれて、よかったなぁ。




研修が始まってからは、お互い、覚えることが目一杯あってさ。
入社前だから、まだこのくらいで済んでるんだって、先輩に言われて気が引き締まる。

ついこの前までとは、別の時計を使ってるみたいに、時間の流れが速くなる。
卒業式でも、感慨にふけるほどの余裕がなくなってた。


「七海、また余裕のうなってるで。気ぃつけな」


合同謝恩会で、昇平に指摘される。
隣では、要が、いつものように穏やかに笑ってた。


「研修でテンパってんねやろけどな。
 今からそんなんやったら、四月までに息切れすんで」

「ああ、そうかもなぁ。新しい環境に馴染むのにも、神経使ってるし。
 俺、すぐに目の前のことしか見えなくなるから、気をつけないとね」


烈が、慰めるように、肩を軽く叩いてきた。


「俺も気をつけなきゃね。俺、ほんとコミュニケーションスキル低いって実感してるもん。
 業務内容より、まず先輩や上司、同僚の名前と顔覚えるので、精一杯」

「俺は、来週からだから、まずは引っ越しだな。
 結局、学生生活は、最初から最後まで、昇平に頼りっぱなしだ」

「アホ、大したこと、してへんやんけ。
 水くさいこと、言いなや」


昇平が、酒も飲んでないのに、顔が赤くなってる。
周りが、ワイワイと飲んでるのに、昇平も要もウーロン茶。

要は、明日の引っ越しに備えて、今日は飲まないことにしたらしい。
遠慮するなって、昇平には勧めてたけど、昇平は首を横に振ってた。
毎日のように親父さんのお供で飲まされてて、そこまで好きじゃないから、辟易してるんだって。



「あ、七海。せっかくやから、今のうちに根回ししとくんやぞ。
 お前は、全く飲まれへんのやから、命に関わってくるしな。
 烈と違って、飲み会は多そうやんか、お前の部署は」

「うん、気をつけてる。笙からメール来て、少しずつ話すことにしたんだ。
 直属の上司と先輩には、もう話したよ」


そう、研修直前に、笙がメールをくれたんだ。
たぶん、要がスケジュールをメールしたんだと思う。

俺と烈を心配して、細々とした注意事項を、俺たちにもわかるように詳述してくれた。
昇平と言い、笙と言い、俺たちって、ほんとにハラハラさせっぱなしだよな。


「あいつの心配性は、アメリカ行っても治らへんな」


爆笑してるけど、昇平のリーダー気質もいい勝負だと思うよ。






四月、広い会場での入社式。
近畿圏の工場いくつかも合同でやるからなんだ。

俺は、直前に辞令をもらって、正式に総務部人事課に配属されてる。
研修で、既に挨拶はしてたから、まだ気は楽だけど、力を抜くわけにはいかない。
下っ端として、入社式の準備の手伝い。
言われた通りに走り回ってるだけなのに、不思議と充実してる。

研修で別の班だった人間は、俺を新入社員だとは思わないらしくてさ。
何かと質問してきたりするもんだから、先輩が笑ってる。


「総務部に配属された人間のお約束やから、我慢せぇ。
 俺ん時もそうやったし、先輩らも、みんなそうやった。
 入社した感動をしみじみ味わうのは、帰ってからやな」


二年早く入社した、伊藤さん。
岡山出身だけど、大学から関西で、俺からしたら、バリバリの大阪弁。
そんで、昇平みたいに「オジサン臭い」と思うけど、言うとしばかれるよな。


「そうやね。三月四月は、めっちゃ忙しいんよ。
 その分、嵐を過ぎれば、営業や開発みたいにノルマがあるわけやないし。
 ま、どこも一長一短やと思って、頑張って」


そう励ましてくれたのは、宮原さん。
短大卒で一般職採用だったのに、総合職試験を受けて、人事課の影の課長って呼ばれてる。
勤続年数、十年を越える大先輩だ。

どことなく、笙を思わせるのは、切れ者なイメージのせいだろう。
笙で免疫ついてるから、俺は平気なんだけど、苦手だって人もいる。
ただ、実力は認められてるし、上のウケがいいから、表立っては悪く言われてない。



笙なら、ここまで「できる」雰囲気は出さない。
それで敵を作ることになるのは、面倒だからだって話してた。
高校までは、上手くコントロールできなかったらしいけど。
俺が仲良くなった頃には、もうできるようになってたな。



それでも、古い体質が残ってるって言われてるこの会社で、それも関西で。
凄く苦労したと思うし、乗り越える努力をしてきた人なんだろうと思う。




「お疲れさん。ようやったな。
 これから、自分らの歓迎会や」


この四月で人事課長補佐から課長に昇進した、戸上さん。

面接で会った課長は、東京本社へ転勤した。
総務部次長に昇進だそうだ。
あの関西弁で、東京でも話してるのかと思うと、ちょっと笑える。

人事課に配属された新人は、俺とあと二人。
どっちも女の子で、大卒一般職の小中と短大卒一般職の野本。

この就職難で、大卒でも一般職枠に応募が殺到してる。
研修中に話してみたけど、二人とも苦戦したのは、俺の比じゃない。

だってさ、主要なWindowsソフト資格以外にも、簿記二級とかTOEIC900点越えとか。
在学中から頑張ってて、俺より、ずっと有能な感じなのに、俺の倍以上、入社試験受けてた。
面接にさえ行けないことが、ほとんどだったらしい。



宴会の始まりは、生中で乾杯。
飲めないことは言ってあるけど、こういう時に別のモノを頼むと嫌がられる。
全員の注文が揃うまでに、時間がかかるからだ。
ジョッキだけ持って、頭を下げた。

これも、笙からのメールに書いてあったんだよ。
あいつ、まだ日本の宴会では未成年だからって、飲まなかったくせに。


『飲めないことは研修中に根回し。
 宴会中は、一段落するまで、上司や先輩の話を聞いといてください。
 二杯目の時に、自分からオーダーを聞いて回れば、ウーロン茶も紛れて頼めます』


これ読んで、烈と二人、しばらくポカーンとしちゃってさ。
伊達に「おっちゃんのアイドル」だったわけじゃないんだって、ものすごーく納得。


笙のアドバイスを実践して、ひたすら課長や課長補佐の話に相槌を打ってた。
補佐のジョッキが残り少なくなってたから、隙を窺ってオーダーを聞いて回った。


「いやぁ、今年の新人は阪大卒やのに、ちゃんと気ぃ回るなぁ」


褒められたからって、真に受けちゃいけない。
俺、すぐに調子に乗るから、慎重に。

自衛のためにやってることだしね。











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