「True Colors」
黄道吉日

黄道吉日 9

 ←黄道吉日 8 →黄道吉日 10

夏休みに入った。

昇平は、卒論と親父さんの指導の下に入社前研修を両立するのに、苦労してるみたい。
完全に、スーツが板についてて、喋ることもリーマンぽい。

要は要で、卒論はもちろん、バイトを増やして必死だ。
社員寮に入る予定らしいけど、今みたいに共有の冷蔵庫や電子レンジがあるわけじゃない。
使ってる家具だって、学生寮の備え付けだから、最低限の家電や家具を買わなきゃいけない。

由人だけは、余裕って感じで、一ヶ月の海外旅行。
卒業したら、なかなか長期では行けないからって、バイト代貯めて計画してた。


俺も内定取れたら、烈と二人で海外旅行しようと思ってたんだ。
決まるの遅くて、旅行を計画する余裕なんかなくなっちゃって。
去年、二人ともパスポートだけは取ったんだけど。


帰省するにも、俺には帰る場所がない。
姉貴と神崎さんが、泊まりに来いって電話くれたけど、遠慮しといた。
だって、秋には子どもが生まれるし、二人っきりの生活じゃなくなるじゃん?
そんなとこにお邪魔するほど、俺もバカじゃない。

烈は烈で、大阪で就職決めたのが原因で、お袋さんと大ゲンカになった。
話したのは、俺が決まった後。

そしたら、お袋さんが激怒して、毎日のように電話かけてきてさ。
携帯を着拒したら、家電にかけてきた。
二人とも、会社からかかってくるかもしれないから、電源落とすわけにもいかなくて。
とうとう、烈がブチ切れて、二度と帰らないし、会わないって、宣言しちゃった。



『兄貴が相手してくれないからって、俺に執着すんのやめろよ。
 ずっと、ほったらかしてたくせに、今さら、何なわけ?
 気持ち悪いから、二度と会わないんで、そのつもりでいて』



久しぶりにキレてるのを見て、俺まで心が痛くなった。


小学生で、もう諦めてたんだもんな。
親父さんもお袋さんも、優秀な跡取りのお兄さんしか見えてなくて。
運動会も授業参観も、来てもらえなかった。

三者面談だけは、学校から連絡があるからか、来てたらしいけど。
烈が決めた志望校を言うだけで、お袋さんは、何も意見なんかなかった。

中学受験も、烈が親父さんに行きたいって話して、一人で頑張った。
お金だけは出してもらえたから、塾も予備校も、全部、自分で決めてた。


成績さえ良ければ、文句は言われないから楽。
欲しいモノは買ってもらえるから、不満はない。

高校で出会って、つるむようになって、家族の話になった時、そう言ってたよな。
遊びに来て、姉貴が作る普通のご飯を、喜んで食べててさ。

あの頃は、よくわかってなかったけど、今ならわかる。

お前は、「淋しい」が、わからなかったわけじゃない。
ずっと「淋しい」が当たり前だったから、感じなくなってただけなんだ。




せっかくの夏休みだし、烈には何かしてやりたい。
Arix以外には、考えてないから、公務員試験もパスしたし。


どうしようかと思ってるところに、兄貴から電話があった。


『なな、お前、ハワイ行かない?よかったら、烈君や友達と一緒にさ』


兄貴が持ってる、ハウスキーピング付きのコンドミニアム。
俺の就職内定祝いに、一ヶ月、貸してくれるって!

行かない間は、管理会社に任せて、旅行客に貸してるらしいんだけどさ。
今年は、俺が内定決まったら行かせてやろうって、賃貸には出さなかったらしい。

もう、俺、即答したね。
烈と二人で行くって言ったら、チケットも取って送ってくれるって。

久しぶりに、俺が甘えたからか、兄貴がすっごく嬉しそうでさ。
空港からコンドミニアムまでの送り迎えに始まって、

・滞在中、ずっと運転手付きの車も使っていい。
・外食しない時は、ルームサービスで食事。
・コンシェルジュに言えば、どこでも観光できる。
・ハウスキーピング付きだから、掃除も洗濯もしなくていい。
・日本語で対応してくれるから、心配はいらない。

なーんて、話してくれたんだ。

分不相応な贅沢だってわかってたけど、これで最後と、甘えることにした。




「烈、ハワイ行こう!兄貴が、一ヶ月、コンドミニアム貸してくれるって!!」

「え、でも、今からだと、チケット取れないんじゃない?
 観光シーズンだし」

「チケットも送ってくれるってさ。だから、心配いらないよ」


烈が、嬉しそうな顔になった。
兄貴、ありがと!ほんと、助かったよ。


「卒業旅行は、俺たち、研修あるから無理だもんね。
 諦めてたけど、ハワイに一ヶ月も行けるなんて。
 お兄さんには、たくさんお世話になっちゃったのに、いいのかな」

「烈には、兄貴も姉貴も、すっごく感謝してるんだよ。
 俺が淋しがり屋だから、大阪で大丈夫かって心配してたからさ」



そう、二人とも、最初の一年は、ハラハラしてたらしいんだ。
淋しがり屋で甘ちゃんの俺が、大阪で生活できるのかって。


烈が、照れくさそうに、近づいてきて、ピョコンとお辞儀した。
どうしたんだろうと思ったら、隣に座ってくる。

しばらく、何か考えてる風だったけど、俺の顔を見て、考え考え話しだした。


「...ナナだから、共同生活する気になった。
 ナナがいたから、軽音に入る気になった。
 ナナがいなかったら、俺は、自分が歪んでることも気がつかなかった。
 感謝するのは、俺の方だよ」

「改まって何なんだよ。照れるじゃん!
 それに、烈が自分のことを見直すきっかけって、笙の影響だろ?
 俺は何もしてないよ」


慌てて否定すると、烈は「何言ってるんだ?」って顔。


「笙の影響が大きいのは確かだけど。
 その笙にだって、ナナがいなかったら、会えてないよ?
 それに、ナナ以外とも喋れるようになれって、言ってくれたじゃん。
 俺、あれで目が覚めたようなもんだし。
 ナナと知り合わなかったら、俺、引きこもりになってたんじゃないかなぁ」


最後の言葉で、高校時代の烈を思い出した。


俺以外とは、まともに喋ってなかったよな。
話しかけられても、ほとんどスルーだったし。
しつこいヤツは、俺が間に入って遠ざけてた。
バンドでも、俺が烈の好みを知ってるから、全部対応してた。

ベースは練習してたけど、バンドに参加しだしたのは、俺とつるんでからだ。

同じクラスになって、お互い、ゲイだって感じてた。
俺から近づいて、声かけて、烈が乗ってくれた。
守ってくれる先輩がいなくなってたから、タイミングが良かったんだと思う。




「巡り合わせがよかった、ってことじゃないかな、俺も烈も」


みんなで話し合って、昇平が上手くまとめてくれた。
昇平や要が大人で、コミュニケーション能力が高いから、二年間保った。
そこに、笙が入ってきて、さらに俺たちの世界が広がった。

烈との出会いだけじゃなく、他のヤツらのことも思いだしたら、そんな言葉が自然と出た。
努力だけが全てじゃない、運やタイミングも大事なんだよな。


「うん、ラッキーだったと思ってる。
 それも含めて、ナナには感謝してるんだよ」


話がまた振り出しに戻りそうになったから、気恥ずかしいけど、ここは素直に。


「俺もそうだよ。烈がいてくれて、ほんとによかった」


俺の返事は、予想してなかったらしくて、烈が真っ赤になって俯いた。

うわ、可愛い。 











にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ 3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ 3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ  3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ  3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【黄道吉日 8】へ
  • 【黄道吉日 10】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【黄道吉日 8】へ
  • 【黄道吉日 10】へ