「True Colors」
黄道吉日

黄道吉日 7

 ←黄道吉日 6 →黄道吉日 8

笙の出発直前、スタジオに全員集合。
昇平の予想通り、練習にはやってきた。


「向こうでは、楽器触る時間も機会もないから、弾き溜めしとく。
 戻ったら、頑張って練習するから、堪忍な」


笙の珍しく弱気な発言。
すかさず、由人のツッコミが入る。


「マゼッパ弾きこなすくせに、何言うとんねん。
 ここでやってる曲程度、お前やったら、すぐや、すぐ」

「せやせや。ベースかって、お前なら、勘はすぐに戻る。
 変な心配せんと、勉強、頑張ってこい」


昇平がかぶせて励ましてる。

俺は、マジでびびってた。

巧いとは思ってたけど、マゼッパ弾けるんだ...。
音大勧められてたって、そりゃそうだよな。



この日の練習は、SMSの新譜が中心。

SMSは、ライブでは、シンセかぶせはしないし、キーボードも原曲よりは控えめ。
でも、昇平は、せっかく六人いるんだからって、原曲にさらにアレンジ加えたスコアを持ってきた。

こいつ、ギターもそうだけど、曲作りやアレンジで、プロとして通用するよな。
そう思うのは、俺だけじゃない。

このメンバーでライブやってて、サークルのヤツらだけじゃなくてさ。
対バンやったヤツらや、ライブハウスのマスターにも、評価が高くて。
実際に、何度かスカウトが来たことがある。
その度に、キッパリと断ってたけどさ。


ああ、昇平が親父さんとケンカしては、笙ん家に泊まったって話してたな。
これだけ才能があるなら、プロになりたいと思ってもおかしくないし。
後を継ぐって、高校の時には、決心してたのは、笙の影響大なんだろう。

宗次郎さんみたいに、猪突猛進にはなれない。
エイチみたいに、戦略を立てられる司令塔にもなれない。

笙と話してるうちに、それに気づいて、他にやりたいことはあるか、すっごく考えたって言ってた。

生まれ育った土地が好きだから、地域密着型サービスを目指したい。
そう結論を出して、親父さんの後を継ぐことに、納得できたらしい。



俺たち六人に共通するのは、「音楽は大好きだけど、趣味でしかない」ってこと。


俺は兄貴を見てて、自分には無理だと思った。
あんな風に自分を殺してたら、息苦しくて続かない。

烈は他人と関わるのがイヤだったから、最初から考えたことがない。
今では、きちんと人と接するようになったけど、やっぱり向いてないって言ってた。

要は、結局は、進路変更したけど、それでも「音楽でプロ」は、選択肢にはなかった。
お袋さんのことを考えての変更だから、当たり前だよね。

由人は由人で、セクシュアリティが問題だって話してた。
ミュージシャンにも、そこそこいるけど、オープンにしてるとゲテモノ扱いされるし。
しなくても、なんだかんだと噂は出てしまう。
それで、お袋さんが、また傷つくのは見たくない。

話してて、すごく共感できた。

自分が叩かれても平気だけど、それを知った親しい人が傷つくのは、結構、キツい。
兄貴、スキャンダルで叩かれる度に、俺たちに気を遣ってたもんな。
俺も姉貴も、本当の兄貴を知ってるから、傷つきはしなかったけど、ムカついてたし。


笙は...やっぱり、宗次郎さんが原因だろうな。
プロになることについては、深く話したことはないけど、そんな気がしたんだ。

親父さんの締めつけは、躾けを通り越して虐待に近い。
宗次郎さんを自由に育てた反動で、そう扱われたなら、憎んでもしかたない。
その上、自分が懐いてる大事な人たちを、宗次郎さんが振り回してた。
一時期は、同じ空気を吸うのもイヤだったらしいから、同業者は絶対にイヤだろう。



全員が、プロを目指してないからこそ、俺たちは自由に音で遊んでいられた。

大好きだから、練習は一生懸命にやる。
でも、お互いの優先順位を尊重して、無理なスケジュールは組まない。

昇平がリーダーとして、そうまとめてくれたから、楽しめたんだ。





練習を終えて、いつものファミレス。

店員さんが、オーダーの復唱をして、テーブルから離れた。



「笙、これ、餞別や」


昇平が代表して、笙に紙袋を渡した。
笙は、中を覗いて、ちょっとだけ困った顔。


「...こんな高いモンもろたら、よう返さんで」


笙らしい態度に、みんなが笑う。


「返しは要らんて。そんな心配すんなや」

「昇平が値切り倒したから、お前が思うほどは、高うない。
 せっかくやから、気持ちよう使えや」

「ちゃんと調べて、モデムも電圧も対応してるヤツにした。
 電源の変換プラグも袋に入ってるから、向こうですぐに使えると思うよ」


俺も、何か言おうとしたんだけどさ。
笙が、ちょっと涙目になってるの。

これ以上、話しかけると、こいつ、逃げ出すんじゃないか。
だって、俺たちの前で泣くなんて、恥ずかしくてしかたないはずじゃん。


「それ使って、しっかり勉強してくれれば、俺たちは嬉しいんだよ」


要が、いつものように穏やかに諭すと、笙が深く頷いた。
もう涙は引っ込んだらしくて、嬉しそうに笑ってる。



「みんな、ありがとう。
 ほんまのこと言うと、ないと困るなぁて思てたん。
 これ使て、ガッツリ勉強してくる」

「パワーアップして、戻ってこいよ。
 ただ、体だけは大事にしてくれよな」


俺は真面目に言ったつもりなのに、昇平と由人が茶々を入れる。


「もう充分やと思うけど。パワーアップされたら、どんだけ凄いやろな」

「ほんまやで。大阪どころか、全国レベルになるんちゃうか」


おどけて言うもんだから、笙が吹き出して、みんなも笑う。
笑いが収まる頃には、料理が運ばれてきて、食べることに集中しだした。




「バイクで行くて言うたのに、わざわざ迎えに来たんは、これやってんな」


食べ終わって、コーヒーを飲みながら、笙が紙袋を撫でて言った。
昇平の気遣いに感謝してるのが、表情からわかる。


「これで、フリーメール使えば、いつでも連絡できる。
 電話やと高いし、手紙は書くんめんどいし。
 ほんま、ありがたいわ」


笙の言葉を聞いて、要が思い出したように、携帯をポケットから取り出した。
驚いてると、要が照れくさそうに説明しだす。


「就職したら必要になるから、今から慣れとこうと思って。
 昨日、契約したところで、やっとアドレスの設定もできた。
 みんなと、番号アドレスの交換したいんだけど、いいかな」


もちろん、みんな頷いた。
要が操作に四苦八苦してると、笙が焦れる。


「ちょい貸して」


さっさと要から携帯を取り上げて、自分のに登録してる。
すぐに他の四人にメールを送ってきて、俺たちがそれぞれを登録した。
そして、俺たちから要宛にメールすると、笙がそこから素早く入力してる。


「自分でやらないと、いつまでも慣れないんだけど...」

「ここでモタモタすんのは、みんなの迷惑になるやん。
 一人二人ならまだしも、一気に五人は時間かかりすぎ」



ピシッとした言葉には、恋人同士なのに、甘さの欠片もなくて。

要には悪いけど、あまりにも笙らしくて、四人で大笑いしちゃった。











にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ 3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ 3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ 3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ 3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ 3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png SOLD OUT
総もくじ  3kaku_s_L.png Double Fantasy
総もくじ  3kaku_s_L.png Blue Sky,True Mind
総もくじ  3kaku_s_L.png Happiness!
総もくじ  3kaku_s_L.png True Colors
総もくじ  3kaku_s_L.png Crossroad
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【黄道吉日 6】へ
  • 【黄道吉日 8】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【黄道吉日 6】へ
  • 【黄道吉日 8】へ